スーツに合うベルトを考える /靴と鞄とベルトの色は合わせるべきか?

スーツを着るときには、ほとんどの方がベルトを使うと思います。最近は就活生向けのスーツや靴のセットが売られていて、その中にベルトも含まれているようです。そしてスーツのマナーとして、靴とベルトの色を合わせるのが基本のように言われています。今回はベルトについて考えてみたいと思います。



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スーツとベルト

スーツを着る際にベルトを使うようになったのは、割と近年のことです。1910年代のアメリカでジーンズなどの労働着にベルトが普及し、スーツにも1930年代から使われ始めます。しかしアメリカで急速に普及したスーツにベルトを巻くスタイルはイギリスでは受け入れられず、さらに長い期間を経て浸透しました。

※1920年代のアメリカのワークスタイル

と言ってもベルト自体の歴史は古く、古代から腰布を植物のツルや縄で縛っていたことを起源に、中世ヨーロッパではアクセサリーとして流行したり、騎士が剣をさすための武具として発展しています。あくまでもスーツにベルトを使う歴史が浅いということです。

なぜアメリカで浸透しイギリスは反発したのか

スーツに対する考え方の違いが、ベルトの普及に違いを与えました。イギリスのスーツはサヴィルロウを中心とした誂え服、つまりオーダーメイドでした。それぞれ顧客の体型に合わせて作られ、どんな人でも立派に見えるように職人が時間をかけて作り上げるものです。

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アメリカはイギリスからスーツの文化が持ち込まれますが、既成服のスーツを大量生産して庶民にも浸透しました。アメリカのスーツは、顧客の体に合わせて作り上げるのではなく、あらかじめ決められた寸法を元に工場で大量生産されるものだったのです。

イギリスではスーツを着る際に使われるのは、ベルトではなくブレイシス(米語でサスペンダー)でした。しかし脱ぎ履きに手間取るブレイシスに比べて、着脱が容易なベルトがアメリカで好まれたのはアメリカが大事にする合理性だったと思います。また既成服は体にフィットしないため、縛り上げてずり落ちないようにしなければ着にくかったというのもあるでしょう。



職人が作り上げる誂え服は、体にフィットしているので、ベルトやブレイシスなしでも履ける場合が多く、今でも腰にアジャスターを付けただけのものもあります。またベルトで腰を縛ることで不要なシワを作ってしまい、スーツのシルエットが綺麗に出にくいという欠点があります。

サヴィルロウの妥協

イギリスのスーツの中心地、サヴィルロウではベルトを用いることに反対していました。彼らが何より嫌ったのは、腰の部分にベルトによるラインが入ることで、スーツのラインを上下に分断してしまうことでした。それはスーツの美しさに邪魔なもので、そのためサヴィルロウではブレイシスを使ったスーツばかりを作っていました。

※ベルトループが無くアジャスターがついています。

しかし戦後のアメリカが世界一豊かになると、あらゆるアメリカ文化が世界を席巻し始め、サヴィルロウにもベルト式のスーツを作って欲しいと要望が集まりました。そこで彼らは妥協して、革のベルトではなくスーツの生地と同じ生地でベルトを作って納品するようになります。あくまでも、ベルトは目立たないようにしていたのです。

どんなベルトがスーツに合うのか

このサヴィルロウの流れを見ていくと、スーツに最も合うベルトは、可能な限り目立たないベルトということになります。チャコールグレイや濃いネイビーのスーツなら黒のベルトを用いて、バックルも可能な限り目立たないものにする方が良いと言えるでしょう。存在感がなければないほど、良いわけです。



しかし上下で異なる生地を着るジャケパンスタイルだと少し違ってきます。靴とベルトが同系色の場合、パンツが縁取られていくのでパンツの色とベルトの色が違っても良いように思います。

ベルトと靴の色を合わせるべきか

なぜ靴とベルトの色を合わせるようになったかというと、一つは靴屋さんの宣伝によるものです。靴屋が余った革でベルトを作るようになると、靴とベルトを合わせて売るようになりました。特に茶色には様々な色があり、靴と同じ色のベルトを作れる靴屋にとって、ベルトと靴を同じ色に合わせるというのは、とても都合の良い宣伝だったのです。



しかし例えばチャコールグレイのスーツに茶色の靴を合わせた場合、ベルトも茶色にして良いでしょうか?上記のベルトを目立たせなくする考え方でいくと、ベルトは黒にしておく方が良いと言えますし、近年の靴とベルトの色を合わせるべきという考え方では、茶色のベルトにする方が良いとなります。

現在では、これはどちらも間違っているとは言えないと思います。靴がダークブラウンなのに、ベルトが明るめの茶色しかなければ黒にしてしまった方が収まりが良いですし、靴と似たような色のベルトがあるなら、それでも良いように思います。

靴とベルトと鞄の色を揃えるべきか

イタリア系ファッションでは全ての色を合わせるのもありだと思いますが、イギリスでは「やりすぎ」と言われます。そもそもイギリスでは鞄の色は茶色が主流で、黒い靴を履くから黒の鞄を持つということはありません。そもそも茶色と言っても黒に近い茶色から、明るいオレンジがかった茶色まで千差万別です。合わせようとしても全く異なる茶色になる場合が多く、無理をして合わせないで良いと思います。

近年では鞄も作る靴屋が増えたので、これも靴屋さんの宣伝ではないかと思っています。

まとめ

ベルトと靴の色を合わせようというのは、あまり多くの色が散らからないようにする工夫で、決して間違っているものではありません。しかしそれにこだわりすぎると、本来は目立たないようにするべきものということを忘れてしまい、ベルトが悪目立ちすることになりかねません。

私はブレイシスをよく使いますが、ベルトよりもパンツのラインがきれいに出るので、見た目の良さはこちらの方が断然上です。ベルトに悩んだら、いっそのことブレイシスを使うというのも手だと思います。


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