なぜ結婚式に白ネクタイをする変な習慣が定着したのか /カオスな日本の結婚式マナー

結論から書きますと、黒スーツに白ネクタイという香港映画に出てくるチンピラのような恰好で結婚式に出るのは日本ぐらいです。これは日本独自の習慣で、他所の国ではまずお目にかかれません。今回はなぜこんな変なスタイルが、日本ではマナーとして定着したかを追って見ます。



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勘違いの白ネクタイ

フォーマルウェアの老舗KW社が、英語で書かれた文章を勘違いしたことから白いネクタイが広まったようです。その英文には最もフォーマルな服はWhite tieと書かれていたのです。White tieを直訳すると白ネクタイですが、White tieとは燕尾服を意味します。ちなみにBlack tieは黒ネクタイではなくタキシードのことです。現在でも私たちが日本のフォーマルウェアを創ったと高らかに言っているKW社ですが、かつてはこのような誤訳を広めていたのです。私が知る限りKW社はこの誤訳を認めておらず、無かったことにしています。そのため日本にフォーマルとは何かを散々宣伝してきたKW社によって間違った知識が広められ、訂正されることなく今日まで続いているのです。

※燕尾服を着たフィリップ殿下とオバマ大統領(当時)


※燕尾服がこんなもので代用されてしまいました。。。

燕尾服は夜のフォーマルウェアとしては最上級なので、最もフォーマルなものがWhite tieというのは今でもその通りです。ちなみにタキシードは略式の正装で、燕尾服より格が下がります。しかし今日では燕尾服の着用がマストとなる場所はほとんどなく、宮中晩餐会でさえタキシード着用が認められるようになりました。そのためタキシードが最上位の礼服として扱われることも増えています。

日本の結婚式の歴史

日本には長いこと結婚式という概念はありませんでした。江戸時代の結婚は、地方によってかなり違ったようです。しかし基本的には「道具入れ」「嫁入り」「祝言」の3つから成り立ちます。嫁入り道具が家に入り、次に嫁が家に入り、そして嫁のお披露目があるわけです。結婚式が始まるのは、明治の半ば頃です。欧米列強から結婚式が日本に存在しないのを奇異に見られたため、皇族が神社で始めました。日本の結婚式の歴史は100年ちょっとしか存在しないのです。



戦後の日本では自宅が焼けたりしたため、自宅で「祝言」を挙げることが難しくなりました。そこで公民館などを使って、嫁のお披露目をするようになります。これが今日の披露宴の原型です。新郎はスーツ、新婦はよそ行きのワンピースを着て「祝言」に臨みました。ウエディングドレスはすでに日本に持ち込まれていましたが、ほとんどの人は着用せずに結婚式を行いました。

※石原裕次郎の結婚式

1964年、東京オリンピックの建設ラッシュで、ホテルが大量に建てられました。ホテルは過当競争に陥り、経営が苦しくなったホテルは公民館の代わりにホテルで結婚式を挙げることを提案します。当時の庶民の憧れは、1960年の石原裕次郎の結婚式でした。日活国際会館に関係者を集めて行った石原裕次郎の結婚式のように、豪華な雰囲気でウエディングケーキをカットする結婚式をホテルが提案したのです。現在の結婚式の原型は、このように東京オリンピック後に生まれました。

フォーマル感のない今日の結婚式

このように日本の結婚式は庶民が手探りで独自の進化を遂げたため、白ネクタイに限らず国際的にはかなり奇妙な形態になっています。ウエディングドレスも独自のカジュアル化が進んで、他国にはない独特なものになりました。ドレスは昼と夜で形が変わります。昼はアフタヌーンドレスと呼ばれる袖付きで肌の露出を抑えたドレスになります。宝飾品もほとんどつけません。最近ではハリー王子の結婚式でメーガン・マークルさんが着ていたウエディングドレスがこれです。

※ハリー王子の結婚式

夜はイブニングドレスと呼ばれるもので、肩を出した肌の露出が大きいドレスで、宝飾品もたくさんつけます。しかし日本の結婚式ではこのような区別はなく、昼であってもイブニングドレスを着るのは一般的ですし、中にはミニスカートにしているケースもあります。昼間から肌を露出しアクセサリーをふんだんに付けミニスカートでは、売春婦のような格好になっている新婦もいます。しかし日本では売春婦スタイルは決して奇異なことではなく、むしろスタンダードになっています。

また新郎はモーニングコートもどきを着用することが多くあります。先ほど燕尾服は夜間の礼服として最上位と書きましたが、モーニングコートは昼間の礼服として最上位になります。新婦は夜間の最上位のドレスであるイブニングドレスもどきを着用し、新郎は昼間の最上位の礼服であるモーニングコートもどきを着用するのです。このおかしな風潮には先ほどのKW社が大きく貢献しているようですが、結婚式場にも礼服の知識がない場合がほとんどなので、おかしく奇妙な流れが続いています。

ではネクタイは何色が良いのか?

おそらく結婚式にスーツを着る文化圏で、最も使われているのは黒ネクタイです。しかし日本では黒は葬式用と位置付けられているため、黒ネクタイをするのに抵抗のある人がほとんどでしょう。結婚式に黒ネクタイをすると「マナー違反だ!」と鬼の首を取ったように騒ぐ人がいる現在、私も勧めたいとは思いません。洋服を着ているのに西洋の一般的なマナーがマナー違反と言われてしまう現在の日本では、ネクタイの色はとても難しい問題になります。

※日本以外では黒のネクタイが多く用いられます。

日本の結婚式は、マナーもルールも国際的基準から外れて無茶苦茶になっているため、これがベストというものはありません。周囲に合わせて白ネクタイをしなくてはならない場面もあるでしょう。それはそれで良いと思います。カジュアルな雰囲気の結婚式なら好きな色でいいと思います。個人的には手結びのボウタイ(蝶ネクタイ)が好きなのですが、なかなか試す人は少ないですね。普通のネクタイなら周囲に合わせて白やシルバーにするか、黒以外の無地のソリッドタイにするのが無難だと思います。

日本の結婚式のマナーとルール

日本の結婚式は、庶民が手探りで進めてきたので諸外国とは異なる形になったのは上記のとおりです。加えてルールをその時の都合で変更する、日本人の柔軟さにも要因があるでしょう。喪服にしても白が標準でしたが、日露戦争で死者が増えて葬儀に行く回数が増えたから汚れが目立つとか、乃木希典の葬儀の時に外国の要人が黒の喪服を着ていたからといった理由で喪服を黒に変えました。このように時代の流れに合わせて、日本人はそれまでのしきたりを大胆に変更するのに抵抗が少ないのだと思います。

※かつて喪服は白でした。

結婚式のルールやマナーは暗中模索の中で出来上がったため、新しいマナーやルールが次々に加えられていて、現在でも新しいマナーがどんどん生まれています。以前、ご祝儀の3万円の根拠を書きましたが、これにも深い意味はありませんでした。3万円の手頃感が良かったのです。そのため結婚式のルールやマナーは、周囲に合わせておけば大丈夫としか言えません。基本となるルールが曖昧なので、今後も変化を続けるでしょう。

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まとめ

このように今でも白ネクタイが基本とされるくらい、日本の結婚式の服装は独特なルールが蔓延しています。そして新たなルールやマナーがどんどん付け加えられていっています。そんな流れの中で、あまりマナーやルールに目くじらを立てるのはいかがかと思うのです。

実は日本で言われるマナーとは、多くの場合はルールであり、他者への気配りではなく集団を同じように維持するための暗黙の約束事になっていることがほとんどです。この話は長くなるので、また別に書きたいと思います。



※一本ぐらいは白ネクタイがあってもいいと思います。

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