ロイドフットウェアの誘惑 /靴の初心者にこそ上級を

銀座に構える小さな靴屋さん、ロイドフットウェアをご存知でしょうか。基本的に通販を行わず(一部では行われています)、靴をフィッティングしてから売ることを基本としていて、イギリス製の靴を少しだけ安く買えるお店です。私は青山店にお世話になっていたのですが、今では銀座店しかありません。お店の規模は縮小しましたが、今でも安心できる靴を安心する形で届けているロイドフットウェアは、革靴を日常的に使う人なら一度は訪れる価値があるお店です。

※私物のマスターロイド

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ロイドフットウェアとは

1971年、代官山にアンティークショップ「ジャンクシティ」が創業しました。イギリスのアンティークを中心に扱うお店でしたが、やがて日本人の足に合ったイギリス製の靴を販売しようとなり、イギリス靴の別注を行っていました。そして1980年にお店を改装して、店名も「ロイドフットウェア」に変更して現在に至ります。創業者の豊田茂雄氏はファッション雑誌等にも度々登場していて、最近は靴よりアンティークギターの話ばかりしている気もしますが、この方の熱意によって手ごろなイギリス靴が日本に届くようになりました。



ファンの間では有名ですが、かつてロイドフットウェアの靴はイギリスの名店エドワード・グリーンの工場で作られていました。現在も最上位のマスターロイドシリーズは、クロケット・アンド・ジョーンズの工場で作られています。流行を追わないため、新製品が出ることはほとんどありません。昔からある定番の靴を、奇をてらわないで古き良きイギリス靴のスタイルを踏襲し続けています。

私とロイドフットウェア

私にロイドフットウェアを勧めてくれたのはこの方でした。定番の品揃えだけでなく靴のフィッティングに気を付けるべきことなど、全てがわかると言われたのですが、ネットで検索すると評判は最悪でした。特に多くの人が指摘しているのは店員の態度で、横柄で客をバカにした態度だと書かれています。私が行こうと思っていた青山店の店長さんは、名指しで態度の悪さを多く書かれていました。しかしこの方のお勧めですから、意を決して行ってみることにしたのです。

※青山店(今はありません)

平日の休みの日に青山店に行き、他のお客さんが来なかったこともあって、私は3時間以上に渡って靴のイロハを教えて頂きました。店長さんは横柄でも私をバカにするわけでもなく私の質問に丁寧に答えてくれましたし、買う時の注意から買ってからの注意事項、メンテナンスや応急処置の方法など、本当に沢山のことを教えて頂きました。そして決して私に高い靴を勧めようとはせず、むしろ安い方の靴を勧められました。

関連記事:「サラリーマンは靴にお金をかけろ」というのは本当か?

バーカー社製のVシリーズと呼ばれるラインは、ロイドの中で最も安価な2万円台(当時)のシリーズです。それを履いた後に、チーニー社製のMシリーズを履かせてもらいました。こちらは3万円台半ばの中堅モデルですが、履いた瞬間に「これは止めましょう」と言われました。店長さん曰く、足に全く合っていないので、私には全く価値がない靴とのことでした。そして最上級ラインのマスターロイドを履かせてもらい、フィッティングを確認すると、「Vシリーズが足にピッタリで、マスターロイドでも大丈夫。まずはVシリーズで試して、ウチの靴が気に入ったら他のモデルも試してみて」とのことで、その日はVシリーズを購入しました。

サイドゴアブーツの痛み

Vシリーズのストレートチップは実に快適で、その後はサイドゴアブーツを購入します。VシリーズにするかMシリーズにするか、とても微妙なところで、最後は「自分が気持ちいいと思う方にした方がいい」と勧められ、Mシリーズにしました。しかしMシリーズのサイドゴアは私の足には若干厳しいとも言われました。

「今は痛くないけど、靴底が馴染んでくると底が真っすぐ伸びてきて、アッパーの革が引っ張られるのね。するとお客さんの場合、多分小指のあたりが痛くなる。ここで我慢できなくなるほど痛かったら、無理に履かないですぐに持ってきて。ストレッチっていって指が当たる部分の革を伸ばすから。もし我慢できるようなら、そのまま履き続けて。靴底の中のコルクが十分に沈んで馴染んだら痛みも消えるはずだし、フィット感は今より良くなるから」

※今では最高の履き心地です。

この言葉通り、1か月ほど過ぎると小指が酷く圧迫されて1日履くことは不可能な痛みが出るようになりました。休みの日に半日だけ履くことを繰り返し半年ぐらい過ぎると、痛みが消えるどころか本当に足にピッタリの靴になっていました。これを機に、私はロイドフットウェアのファンになりました。

関連記事:一足は欲しいサイドゴアブーツ /スーツからカジュアルまで

モデル紹介

廃盤になったシリーズもあり、現在はこの3シリーズで展開しているようです。イギリス靴なので、全てグッドイヤーウェルト製法で作られています。

Vシリーズ
特徴はダイナイトソール(ゴム底)がつけられていて、雨の日でも履けるようになっています。コロンとしたアーモンド型のつま先と、くびれた踵が特徴です。現在の価格は3万円台半ばぐらいで、ロイドの入門靴でありながら毎日の主力として使える靴でもあります。最も安いラインですが、質感は他よりちょっと下がるぐらいでコストパフォーマンスが高い靴です。





Mシリーズ
チーニー製のレザーソールになります。このMシリーズには半カラス仕様のハイラインもあり、豊富なラインナップの中から選ぶことが可能です。価格は4万円台半ばからで、このクラスの靴であればどこに履いていっても恥ずかしくないですね。


マスターロイド
ロイドの最上級ラインです。クロケット・アンド・ジョーンズ製なので、私にはやや踵が緩く感じてしまいます。しかしこの値段でクロケットの靴が買えるというのは魅力的で、人によってはこれ以上高価な靴は道楽品という人もいます。クロケットはさまざまなモデルが出ていますが、最もイギリスらしさを残したモデルが中心で、さらに本家よりも安く買えるので本当に素晴らしいラインだと思います。



フィッティング

複数のサイズ違いやモデル違いを履き比べ、 納得いくまでフィッティングを行ってくれます。こちらが購入を希望しても、足に合わない靴は売らないというポリシーを貫いていて、フィッティングには嫌というほど付き合ってくれます。ネットで「フィッティングは大したことない」という書き込みを多く見ましたが、恐らくこれらの人は店員さんと積極的に話していないと思います。どこが当たるのか、どこが緩いのか、自分が履いてきた靴とどこが違うのかをどんどん伝えると、フィッティングの精度はどんどん上がります。店員さんに全てを任せるのではなく、自分が感じたことを伝えることもフィッティングにおいては重要なのです。

ネットの悪評について感じたこと

靴を大好きな店員さんが多く、正直言ってクセのある人もいます。しかし私は楽しく買い物させてもらっていますし、なんら不満を感じたことはありません。ただし他のお客さんと話していることを見て思ったのは、雑誌で仕入れた知識で知ったかぶった話をする人に対して、うんざりした調子で話す店員さんがいます。「絶対に靴はイタリアが最高なんだよね」なんて言うお客の話を聞くと、私も心の中で「それならイタリア靴の店に行けば」と思ってしまいますし、おそらく同じことを思ってしまう店員さんもいるでしょう。

反対に「靴のことわからないから、いろいろ教えて」と言えば、もう充分ですというくらいに教えてくれます。「ブラッシングしても落ちない汚れがあるんです」「踵ばかりがすり減ってしまいます」「深い傷がついたけど、どうしたらいいの?」こんなことを質問すれば、お客さんが多くて忙しい時をのぞけば、大抵は熱心に教えてくれます。

それともう一つ加えると、ここはデパートのような愛想よく丁寧な接客をする店ではありません。客の疑問に答え必要なアドバイスをするだけで、おべっかを使ったり下手に出て客の優越感をくすぐるようなこともしません。接客とはそういうものだと思っている人には、全く向かないことも付け加えておきます。

関連記事:そうだ靴を磨こう /靴磨きの基本的なこと

まとめ

本格的なイギリス靴を買いたい人には、最高のお店です。残念なのはフィッティングしないと売らないという方針のもとに、ほとんどネットでは販売していないため、銀座まで行かなければ買えないといことです。そのため関東以外に住んでいる人にとっては、ほとんど無縁の靴になっています。しかし靴に悩んだら一度は訪れる価値があり、試してみることをお勧めします。コロンとしたイギリス靴が好きな人にとっては、外せないお店です。


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