エディ・タウンゼント /日本のボクシングを変えた名伯楽

1988年2月1日 エディ・タウンゼントが直腸癌のために亡くなりました。愛弟子の井岡弘樹の初防衛戦を見るために会場に病院から向かいますが、試合開始直前に意識を失い危篤状態に陥りました。井岡の勝利を聞いたエディは、Vサインを作って息を引き取りました。名伯楽と呼ばれ、6人の世界王者を育てたエディは最後まで戦い、勝利とともに死んだのです。

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来日までの経緯

ハワイで生まれ、ブマロボクサーとしてのキャリアを積んでいたエディが初めて試合に負けた翌日、日本の真珠湾攻撃が行われました。戦争に突入したためプロボクサーを諦め、その後トレーナーになります。

※力道山

戦後にハワイを訪れた日本のプロレスラー、力道山に頼まれてボクシングのトレーナーとして来日しました。力道山は日本でヘビー級のボクサーを育てる構想を持っていましたが、力道山が急死したためジムがなくなってしまいました。エディは専属の所属ジムを持たない雇われトレーナーとして、各ジムで指導を行うようになります。

竹刀はいらない

力道山のリキジムで指導していた時に、試合に負けた選手がトレーナーに叱責されて殴られるのを見て「リングで殴られ、リングを降りても殴られる選手が可愛そう」と、選手を殴るトレーナーに猛抗議します。また当時は指導に竹刀を使うのが常識でしたが、選手を竹刀で殴る風潮を嫌い、力道山と衝突してジムから竹刀をなくさせました。

雇われトレーナーとしてあるジムに行ったところ、竹刀があるのを見つけると「あれ捨ててよ。捨てないとボクは教えないよ」と猛抗議し、竹刀を捨てさせました。選手を甘やかすと強くならないと批判されますが、次々と世界王者を育てて周囲を黙らせました。

タオル投入の早さ

エディはすぐにタオルを投げて試合を終わらせることでも有名でした。選手を勝たせるだけでなく無事に家に帰すまでが仕事だと言い、勝てないと判断するとすぐにタオルを投げていました。

エディはボクシングを辞めた後の人生の方が長いと言い、無理をさせませんでした。選手は命に代えても勝ちたいと思うもので、その命を救うのもトレーナーの仕事だと考えていました。タオル投入が早すぎるとの批判がありましたが、本人は全く気にしていないようでした。

選手からの評価

当初は異質な指導方針に批判も受けましたが、選手からは高い評価を得ていました。選手に自信をつけさせるのが巧みで、エディの指導を受けるとうまくなった気がする、強くなった気がすると言う選手が多くいました。試合が近い選手には中綿を抜いたミットを使い、いい音を出させて自信を植え付けていました。

また試合中の指示も的確で、ガッツ石松はエディさんでなければ世界を獲れなかったと語ったことがあります。ガッツ石松は試合前に「俺は疲れると基本を忘れて雑になるから、足を使え、頭を振れ、ジャブを打てって言って欲しい」とエディに依頼すると、笑顔で「必ず言うよ」と約束してくれました。試合のインターバルで「もうダメだ」と言うガッツ石松にエディは怒号を浴びせます。

※ガッツ石松

「足を使え？頭を振れ？ジャブを使え？これボクシングじゃなくケンカね！ケンカならあなたは勝つ。さっさとあいつをぶっ飛ばしてきなさい」

ハッとしたガッツ石松は打撃戦を展開して、KOで勝利しました。また世界戦で弱音を吐くガッツ石松に、優しい声で問いかけました。

「ねぇ鈴木(当時は鈴木石松と名乗っていた)、なんだかあいつ嬉しそうだね」

そう言われて王者を見ると、笑っているように見えたそうです。もう勝った気になっているのかと怒りが湧いてきて、KOしてしまいました。

赤井英和引退の後悔

KOキングとして人気だった赤井英和は、2度目の世界戦を目指していました。その前哨戦となる大和田正春戦の直前にエディは招聘され、赤井のトレーニングを見ることになりました。大和田は咬ませ犬で、誰もが赤井の勝利を確信していましたが、7RにKOで負けてしまいました。

※赤井英和

赤井はそのまま病院に搬送され、急性くも膜下出血で生死を彷徨います。幸いにも一命を取り留めますが、エディは深く後悔することになりました。試合の一週間前に呼ばれてもできることは少なく、また誘惑に弱い赤井を守ることができずに万全ではない状態でリングに上げたこと、そしてもっと早く試合を止めるべきだったと思いました。

雇われトレーナーのエディは、選手と短い時間しか過ごせませんでした。だから若いボクサーを一から育てたいと強く思うようになりました。

井岡弘樹との出会い

選手を育てたいと願っていたエディの元に、グリーンツダジムからデビュー前の少年のトレーニングを依頼されます。井岡弘樹というボクサーで、津田会長が素質を見抜いた逸材でした。エディは井岡を可愛がり「ワタシのボーイ」と呼んで、つきっきりで指導するようになります。

井岡は最年少日本王者になると、国内最年少で世界王者にもなります。井岡によるとエディは本当に優しい人物で、常に自信と勇気を与えてくれる存在だったといいます。一方でトレーニングは厳しく、選手の肉体を限界まで追い込んでいたそうです。普段が優しいだけに、激しい口調で追い込むエディの迫力はかなりのものだったようで、毎日のように怒られながら練習していたそうです。

井岡と戦い続けた最期

直腸癌のために入院しますが、井岡の初防衛戦を見届けたいという強い希望で、病院から担架で会場入りします。周囲に「ワタシのボーイは強いよ」と語り井岡を激励しますが、試合開始直前に意識を失い、危篤状態になりました。救急車で搬送されますが、エディは井岡にウィービングを指示する時のように首を左右に振り続け、意識をなくして死の淵を彷徨いながらも井岡と応援しているのだと、周囲は胸を詰まらせました。

なんとか危篤状態を脱し、意識が戻った時に井岡が防衛戦に勝利したと伝えると、エディはVサインを作り、そのまま息を引き取りました。

まとめ

根性論が通る日本のボクシング界で、「ハートのラブ」を口癖に根性論を否定したエディは異質の存在でした。そして異質ながら世界王者を次々と排出し、選手を甘やかしているという批判を黙らせました。カタコトの日本語で猛然と抗議するのは、常にボクサーを守るためでした。

エディを招聘したジムは竹刀を捨て、エディがいる時は決して選手を殴りませんでした。エディは日本のボクシングジムを変え、トレーニング方法に影響を与えました。現在、日本では優れたトレーナーにエディ・タウンゼント賞が贈られます。日本のトレーナーにとって最大の栄誉となっています。



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