体重オーバーはアンフェア /山中慎介の敗北
山中慎介が再び負けました。山中から王座を奪ったルイス・ネリと再戦し、4度のダウンを奪われてのTKO負けです。しかしこの試合は前日の計量でネリが大幅に体重をオーバーしていたため、ネリのタイトルは剥奪されていました。そのためなんとも後味の悪い結末となってしまいました。
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山中は決して器用な選手ではなく、サウスポーに加えて足の裏を全てキャンバスにつけて動くベタ足なので、ぎこちない印象を持たれることもあります。しかし破壊力抜群の左ストレートで次々とKOを演出してきました。
試合後、ネリがドーピング検査で陽性反応が出たと報じられました。無効試合になるという期待が高まりましたが、ネリ側は肉を食べた時に誤って摂取したものと主張し、WBCは偶然に摂取した可能性を否定できないとして、試合結果は覆らずに山中との再戦を命じました。
確かに偶然の摂取の可能性もありますが、ネリから検出された量は多く、1kgや2kgを食べたぐらいで検出されるレベルではなかったそうです。WBCとしては故意に使った証拠がない以上は罰することは難しく、黒に近いグレーの裁定となりました。
しかしWBCはメキシコに本部があり、メキシコのボクサーのルイス・ネリに優位な裁定を下したと感じる人もいたのは事実です。日本ボクシング界の至宝が不当に汚されたのではないか?ファンの多くはそんな思いにかられていました。
減量が失敗し、体重が超過してしまうことはまれにあります。かつて髪の毛を剃り上げ、全裸になって再計量に挑んだ選手もいました。髪の毛とパンツを合わせてもわずかな重さですが、それほどギリギリのところでせめぎ合っていることもあるのです。
しかしネリの場合は、計量で2.3kgオーバーになってから1時間で約1kgも落としています。これほど短時間で落ちるということは、減量にかなりの余力を残していたことになります。減量に難がある選手は、最後の100グラムが落ちずに苦労することも珍しくありません。これほど短時間でネリが1kgも落とせたということは、ネリはいつかの時点で減量を諦め、体重が超過するのを承知で来日したわけです。
ネリが失格になると、いつも冷静な山中が怒りを顔に滲ませて「ふざけるな」と言ったそうです。
山中の妻は「主人の努力はなんだったのでしょう」と涙を浮かべ、山中本人も苦渋の表情を浮かべながら引退を表明しました。ネリは体調を崩して体重を落とせなかった自分よりも、順調に減量を行えた山中の方がアドバンテージがあったと語り、タイトルを失ったものの無敗を守れたのでタイトルを取り返すことは可能だと自信を見せました。しかしこの発言は、多くの人に詭弁となって聞こえたと思います。
この試合は行うべきではなかったという声もありますが、中止したらチケットの払い戻しなどで興行主(今回の場合は帝拳ジム)が大きな損失を払います。その損害額はネリのファイトマネーを全て押さえたところで、到底回収できないでしょう。また 体重をオーバーした場合の罰則は、タイトルの剥奪や挑戦権の剥奪のみで金銭的な罰則は決められていません。そもそも世界王座のデフレ化が進み、チャンピオンベルトの価値が急落している現在では、タイトルの剥奪ではほとんど痛みを感じない選手もいます。
ネリはライセンス停止を言い渡されましたが、ほとんど気にしていない可能性もあります。本人が語るように無敗で王者経験のあるネリには、再びチャンスが回ってくる可能性があるのです。
現在では、普段の体重より何階級も下のクラスの試合を組み、激しい減量で計量をパスしたら十分な栄養と水分をとって、一晩で普段の体重近くまで戻すことが主流になりました。激しい減量をすると体の水分が抜けきってスポンジのような状態になり、計量後に水を2リットル飲んでも汗もかかず尿意も起こらず、2kgきっかり体重が増える選手が多くいます。もちろんそんな風にうまくいかない選手もいるので、体重性は公平さを保つより体質の勝負になってきているという指摘もあります。
メジャー4団体の中で、唯一IBFが前日計量に加えて当日計量を行い、10ポンド(約4.5kg)以上体重が増えているとタイトル剥奪や挑戦権剥奪というルールを設けています。上記のような無理な減量で、本来の階級より遥かに重い選手が出ないようにするためであり、同時に無理な増量を一晩で行うことを禁止して選手の安全性を確保するための手段です。しかしこの2回計量は選手の間で評判が悪く、他のメジャー団体が採用する流れにはなっていません。
気の毒という言葉では生ぬるいのは山中選手です。王座陥落で奈落の底に突き落とされ、死に物狂いで這い上がる努力をしてきたのに、不要なトラブルを挟んでしまい失意の中にいます。負けて納得するボクサーはいませんが、せめて全力を尽くして負けたのならと思ってしまいます。
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山中慎介とは
82年生まれ、滋賀県出身の「神の左」と呼ばれた強烈な左ストレートを武器にしたボクサーです。2011年にWBC世界バンタム級王座に就くと、12度の王座防衛戦を果たしました。日本記録がかかった13度目の防衛戦を2017年8月に行い、ルイス・ネリにTKOで敗れました。山中は決して器用な選手ではなく、サウスポーに加えて足の裏を全てキャンバスにつけて動くベタ足なので、ぎこちない印象を持たれることもあります。しかし破壊力抜群の左ストレートで次々とKOを演出してきました。
再戦までのファンのストレス
今回のルイス・ネリへの再戦は、ファンが最大限のストレスを感じながら見守った試合でした。まず前回の試合では、山中が連打を受けたところで、トレーナーがリングに飛び込んで試合を止めました。山中は意識もしっかりしていたため、多くの人が「まだやれた」と感じ、山中の王座陥落を惜しみました。※試合を止めに入った大和トレーナー(右端) |
試合後、ネリがドーピング検査で陽性反応が出たと報じられました。無効試合になるという期待が高まりましたが、ネリ側は肉を食べた時に誤って摂取したものと主張し、WBCは偶然に摂取した可能性を否定できないとして、試合結果は覆らずに山中との再戦を命じました。
確かに偶然の摂取の可能性もありますが、ネリから検出された量は多く、1kgや2kgを食べたぐらいで検出されるレベルではなかったそうです。WBCとしては故意に使った証拠がない以上は罰することは難しく、黒に近いグレーの裁定となりました。
※ルイス・ネリ |
しかしWBCはメキシコに本部があり、メキシコのボクサーのルイス・ネリに優位な裁定を下したと感じる人もいたのは事実です。日本ボクシング界の至宝が不当に汚されたのではないか?ファンの多くはそんな思いにかられていました。
計量での失格
再戦の前日に行われた計量で、ネリは55.8kgでした。バンタム級リミットを2.3kgもオーバーし、2階級上のフェザー級に該当する重さです。約1時間後に行われた再計量で54.8kgの1.3kgオーバーとなり、ネリの失格と王座剥奪が決まりました。※呆然とする山中 |
減量が失敗し、体重が超過してしまうことはまれにあります。かつて髪の毛を剃り上げ、全裸になって再計量に挑んだ選手もいました。髪の毛とパンツを合わせてもわずかな重さですが、それほどギリギリのところでせめぎ合っていることもあるのです。
しかしネリの場合は、計量で2.3kgオーバーになってから1時間で約1kgも落としています。これほど短時間で落ちるということは、減量にかなりの余力を残していたことになります。減量に難がある選手は、最後の100グラムが落ちずに苦労することも珍しくありません。これほど短時間でネリが1kgも落とせたということは、ネリはいつかの時点で減量を諦め、体重が超過するのを承知で来日したわけです。
※体重超過になったルイス・ネリ |
ネリが失格になると、いつも冷静な山中が怒りを顔に滲ませて「ふざけるな」と言ったそうです。
試合結果
わずか2Rの間に山中は4度のダウンを奪われ、TKO負けになりました。勝利を喜ぶネリに罵声が飛び、後味の悪い結末になってしまいました。山中が所属する帝拳ジムの浜田剛史会長は、言い訳になるがと前置きした後で、ネリの体重超過によって山中の集中力が乱されてしまったことを指摘しました。元々打たれ弱くなっていた山中が、ナチュラルウエイト(減量しない自然な体重)のネリの強打の前に屈した形で、さらに山中は精神的な動揺もあったので、負けたというよりもやられたという感じが強い試合でした。山中の妻は「主人の努力はなんだったのでしょう」と涙を浮かべ、山中本人も苦渋の表情を浮かべながら引退を表明しました。ネリは体調を崩して体重を落とせなかった自分よりも、順調に減量を行えた山中の方がアドバンテージがあったと語り、タイトルを失ったものの無敗を守れたのでタイトルを取り返すことは可能だと自信を見せました。しかしこの発言は、多くの人に詭弁となって聞こえたと思います。
罰則の効果は薄い
ボクシングでは公平さと安全性を保つために、いくつものルールが存在します。その一つが体重によって分けられる階級制で、今回の試合はそれが崩れてしまいました。ネリの言葉通り、全力で減量に挑みながら体調を崩して体重を落とせなかったなら、山中の方が体調的に有利だったでしょう。しかしネリはある時期から減量を諦めていた可能性があり、減量苦のなかったネリの方が有利だったはずです。※今回の山中はいつも以上に追い込んでいました。 |
この試合は行うべきではなかったという声もありますが、中止したらチケットの払い戻しなどで興行主(今回の場合は帝拳ジム)が大きな損失を払います。その損害額はネリのファイトマネーを全て押さえたところで、到底回収できないでしょう。また 体重をオーバーした場合の罰則は、タイトルの剥奪や挑戦権の剥奪のみで金銭的な罰則は決められていません。そもそも世界王座のデフレ化が進み、チャンピオンベルトの価値が急落している現在では、タイトルの剥奪ではほとんど痛みを感じない選手もいます。
ネリはライセンス停止を言い渡されましたが、ほとんど気にしていない可能性もあります。本人が語るように無敗で王者経験のあるネリには、再びチャンスが回ってくる可能性があるのです。
体重制の問題点
山中がいたバンタム級は118ポンド(53.524kg)以下になっています。前日の計量でこの体重を下回らなければならないのですが、WBAやWBCのルールでは試合当日の体重は何kgでも良いことになっています。実際にネリの当日の体重は60kgを超えていましたし、山中も59kgを超えていました。山中は一晩で6kgも太ったことになります。試合当日に計量した方が良いという声もありますが、かつては当日計量でした。ギリギリまで体重を落とした選手がフラフラの状態でリングに上がって事故を起こすため、選手の安全性を考慮して前日計量になりました。再び当日計量に戻すのは難しいでしょう。※計量器 |
現在では、普段の体重より何階級も下のクラスの試合を組み、激しい減量で計量をパスしたら十分な栄養と水分をとって、一晩で普段の体重近くまで戻すことが主流になりました。激しい減量をすると体の水分が抜けきってスポンジのような状態になり、計量後に水を2リットル飲んでも汗もかかず尿意も起こらず、2kgきっかり体重が増える選手が多くいます。もちろんそんな風にうまくいかない選手もいるので、体重性は公平さを保つより体質の勝負になってきているという指摘もあります。
※減量苦で計量台に上がる力もなかった宮崎亮 |
メジャー4団体の中で、唯一IBFが前日計量に加えて当日計量を行い、10ポンド(約4.5kg)以上体重が増えているとタイトル剥奪や挑戦権剥奪というルールを設けています。上記のような無理な減量で、本来の階級より遥かに重い選手が出ないようにするためであり、同時に無理な増量を一晩で行うことを禁止して選手の安全性を確保するための手段です。しかしこの2回計量は選手の間で評判が悪く、他のメジャー団体が採用する流れにはなっていません。
まとめ
今回の試合は、ボクシングのアンフェアな部分が垣間見えてしまい、そこに山中が落ちていったように思います。偶然にも先月の総合格闘技のUFCで行われたミドル級暫定王座決定戦で、ヨエル・ロメロが体重を超過したために勝っても王座に着けない状態で試合が行われ、KO勝利を収めて微妙な空気のまま試合を終えました。プロの体重制の試合はある種の紳士協定的な側面があり、試合に挑む以上は体重超過はありえないという前提で考えられてきました。しかしこれも考え直す時期に来ているようです。気の毒という言葉では生ぬるいのは山中選手です。王座陥落で奈落の底に突き落とされ、死に物狂いで這い上がる努力をしてきたのに、不要なトラブルを挟んでしまい失意の中にいます。負けて納得するボクサーはいませんが、せめて全力を尽くして負けたのならと思ってしまいます。
ボクシング関連記事
竹原慎二 /日本最強のミドル級チャンピオン
かつて韓国はボクシング大国だった /衰退した現在
エディ・タウンゼント /日本のボクシングを変えた名伯楽
体重オーバーはアンフェア /山中慎介の敗北
戦えない井岡一翔のモチベーションは戻るのだろうか
衝撃のKO劇 /井上尚弥の強さとは
復活した村田諒太 /衝撃のKO勝利の要因は?
亀田裁判と日本ボクシングコミッションの闇
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