スパイとして役に立たないジェームズ・ボンド

中国の大連で、60代の日本人男性がスパイ容疑で逮捕されました。中国は「国家安全に危害を与えた疑いがある」としていて、大連の港にある中国初の空母に関連していると思われます。果たして日本がスパイを送り込んだのか、そもそも日本にそんな能力があるのか疑問です。

ところでスパイといえばジェームズ・ボンドが有名ですが、ボンドはスパイとしては問題がありすぎる人物です。もちろん007はコメディ色の強い娯楽映画ですから、実際のスパイとはかけ離れているのは当然です。そこで、どこが現実離れしているか見ていきましょう。

1.目立ちすぎ

諜報員が最新のファッションに身を包んでいるのはギャグです。諜報員は周囲に溶け込む工夫をするのですが、高級車で乗り付け、すれ違う人が振り返るボンドは絶望的にスパイに向きません。スパイは市民に溶け込み目立たないようにすることをするので、大抵は地味な格好をして、最も売れているありきたりな自動車に乗っていることが多いようです。もちろん社交界の華になった諜報員もいますが、顔が知られてしまうので別の身分は使えず、ボンドのように次から次へと新しい任務は不可能です。


ちなみにボンドが所属するMI6は、映画「国際諜報局」のネタにされたように、安月給ということも付け加えておきます。高級服を買おうにも、安月給なので贅沢はなかなかできないのです。これはアメリカでもフランスでも諜報機関は安月給というのは知られていて、国家公務員なので高級取りにはなれないのです。ただしMI6は貴族階級やジェントリー階級出身者が多いので、給料は安くとも家は金持ちという人は結構いるそうですから、MI6勤務だから安っぽい服しか着ていないということにはなりません。

2.大局を知りすぎ

作戦の目的、作戦の責任者、協力者、調査の状況を知っている人は、作戦本部長ぐらいで、現場に行ってはいけない人です。上司のMはご丁寧にも「女王陛下が憂慮されている」と、国家のトップから命令が来ていることまで教えてくれます。敵はボンドを捕まえて自白剤を打てば、作戦の全てに加えて、女王陛下の電話番号まで教えてくれそうです。

諜報員の経験があるジョン・ル・カレの小説などを読むと、現場のスパイは自分が何をやっているのか目的がわからないまま行動することが多いようです。何も知らなければ、捕まった時に自白できないからです。そのため多くのスパイは、作戦遂行時には上からの指示を着実に実行するだけです。ボンドのように大局を知る人は、現場に出てはいけないのです。

3.銃を撃ちすぎ

やたらと銃を撃ちたがる、困った人です。目立たないように処理しなくてはならない事案でも、新聞の一面をぶち抜きそうな派手な解決方法をとりたがります。街を破壊する勢いの戦闘行為を行うので、あっという間に国際指名手配されそうです。事件の処理は「そんな事件はなかった」と言えるくらい、事件の痕跡がないのが理想なのに、ボンドはカーチェイスと銃撃戦を何度も行い、犠牲になった市民も相当いるはずです。

現実のスパイは、現地の新聞を読み込むことに多くの時間を割いています。公開されている情報からその国で起こっていることを分析するわけです。またはコネクションを広げて、協力者を集めるようなことをやっているケースが多いそうです。現実のスパイの仕事は、かなり地味だと言えます。



4.敵の誘いにのりすぎ

ボンドの行動パターンの一つに、「美女に会った瞬間、ベッドにゴー」というのがあり、お約束のギャグになっています。それが敵の関係者であっても同じです。パーティへの誘い、カジノへの誘いなども含めて、予定外のものでも誘われたらホイホイ出かけていきます。60年代のシリーズが始まった頃ならいざ知らず、現在ならボンドがベッドに残した頭髪や汗、精子からボンドの正体が細かくバレてしまうでしょう。

5.足跡を残しすぎ

ウォッカベースのマティーニという独特な注文をしたり、あちこちで「ボンド、ジェームズ・ボンド」と名前を名乗り、自分がいた痕跡を残していきます。もちろん、あえて名前を残すような任務もありますが、ボンドは任務に関係なく素顔で名前を語り、目立つ行動をしています。その後に銃撃戦とカーチェイスが起こるので、ボンドはテロリストとして国際指名手配されているはずです。


6.外国語を話しすぎ

外国語を話せても、わからないふりをするのが一般的です。イスラエルの伝説的なスパイ、ウォルフガング・ロッツはエジプトに潜入した際、アラビア語が全く話せないふりをして、噂話などを聞いていました。相手が言葉がわからないと思うと、気を許す人がいるからです。

ボンドは数ヶ国語を話せるのに、それをひけらかしています。ボンドは諜報員というより、便利な通訳のようです。

関連記事:シャンペン・スパイ 実在した007のようなスパイ

まとめ

地味で目立たない存在のスパイが、世界一目立つ男になっているのが007シリーズですから、現実性が皆無なのは当然です。イスラエル諜報特務庁(モサド)の長官だったイサー・ハレルは、007の話が出ると不機嫌になるそうです。我々の仕事を低俗な映画と同一に語るな!ということのようですが、それくらい現実とはかけ離れているのでしょう。でも007はそれでいいんです。

大連で逮捕された日本人が、今後どのようになるかは不明です。中国は外交取引に利用するのでしょうが、どういった要求が出てくるのか、そもそもこの男性は何者なのかなど、わからないことだらけです。続報を待ちたいと思います。




ジェームズ・ボンドが愛飲するシャンパンがボランジュです。


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