井上尚弥が参戦するWBSSとはなにか
世界的にも注目されているプロボクサー、井上尚弥がWBSSという大会に参加しています。WBA世界バンタム級王者として参戦した井上は、1回戦で元バンタム級世界王者のファン・カルロス・パヤノをわずか70秒でKOし、衝撃的な初戦を終えました。このWBSSとは何なのかを解説します。
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さらに1983年にWBAの内部でもめ事が起こり、独立した人達がIBF(国際ボクシング連盟)を設立しました。そして1988年に再びWBAの内紛からWBO(世界ボクシング機構)が分裂し、世界王者を認定する団体が4つになりました。実際には細かな団体がいくつも乱立し、ボクシングの世界王者を認定する団体はもっとあるのですが、世界的にメジャーな団体はWBA、WBC、IBF、WBOの4団体を指します。これで同階級に4人の世界王者がいる異常な状態が続くことになります。
4団体がそれぞれ17階級で世界王者を認定した結果、17×4団体で68人もの世界王者が生まれたことになります。8人しか世界王者がいない時代から60人も増えたことになります。
世界王者を認定する団体は、世界タイトルマッチを行うと認定料が入るので、なるべく多くの世界戦をやった方が実入りが多くなります。そこで世界戦を乱造し世界王者を乱立させるためにWBAは次々に王座を増やしたのです。その結果、メジャー4団体の世紀王者がいて、スーパー王者や暫定王者を含めると、同階級に世界王者が5人も6人もいることになりました。明らかに異常事態です。
デ・ラ・ホーヤは主要4団体の中から、確実に勝てそうな王者を選んで対戦し、ファンが望む強豪との対戦を避けてきました。さらに6階級制覇といっても、8階級時代なら3階級にしか相当しません。過去のレジェンドらと比較して、優れているのかは疑問視されます。
フィリピンの英雄、マニー・パッキャオは8階級にまたがって戦い、6階級を制覇しました。彼は相手が無冠であっても、構わず対戦しています。その方針は明確で、最も話題性があり、最もファンが望む対戦相手を選ぶというものでした。世界戦でなくともパッキャオの試合は注目が集まり、天文学的なファイトマネーを得るようになります。これ以降、タイトルマッチでなくても話題性のある対戦カードを優先するケースが出てくるようになりました。
世界戦よりノンタイトル戦の方が注目が集まる逆転現象は、ボクシングビジネスがいかに歪んでいるかを象徴する出来事だと思います。
WBA、WBC、IBFの世界王者がトップランカーと防衛戦を行い、勝者同士が対戦する刺激的なトーナメントです。しかし当初は話題性が低く、あまり注目されませんでした。モハメド・アリというスーパースターが去り、その後継者と呼ばれたラリー・ホームズが一線を退いてから、ヘビー級王者は小粒揃いと言われ、話題も人気も今ひとつでした。話題性のない王者同士の戦いに話題性はなく、盛り上がりに欠けたままトーナメントは始まりました。
しかしこの時、ドン・キングは隠し球を持っていました。当時無名だったマイク・タイソンが参戦すると、次々にKO勝利を重ねて3団体の統一王者になってトーナメントは閉幕しました。いわばタイソンを売り出す場としてトーナメントが開催され、タイソンはスーパースターの階段を駆け上がりました。
スーパー6は新たなスター候補生の発見につながり、関係者の間では好評でしたが、収益的には今ひとつでした。しかしそれに触発されたのか、アメリカとドイツのプロモーターがWBSS(ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ)を立ち上げ、2017年にクルーザー級でトーナメントを開催しました。5000万ドルの賞金争奪のWBSSは、WBAの正規王者以外が参加したクルーザー級は成功に終わりました。なにより最も強いクルーザー級王者が明確になり、ファンもスッキリした気持ちになりました。
これまでクルーザー級のほかにスーパーミドル級でも開催され、今回は井上尚弥がいるバンタム級以外に、スーパーライト級でも開催されます。
怪我による選手の長期離脱など、いくつもの課題を抱えてはいますが、真の世界一を決める場というのはファンにとって嬉しいものです。井上尚弥はバンタム級の再注目株で、イギリスのブックメーカーがつけたオッズも最も低くなっています。世界的なスーパースターになる可能性をWBSSに参加した井上尚弥は秘めています。今後の試合にも注目です。
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世界王者認定団体の分裂
ファイティング原田がボクシングのバンタム級王座に就いた1965年当時、ボクシングの世界王者はフライ級からヘビー級までの8人しかいませんでした。ところが国際ボクシング協会が分裂し、WBA(世界ボクシング協会)とWBC(世界ボクシング評議会)の2つに分かれ、それぞれが王座を認定したので、世界王座は16個になりました。※ファイティング原田 |
さらに1983年にWBAの内部でもめ事が起こり、独立した人達がIBF(国際ボクシング連盟)を設立しました。そして1988年に再びWBAの内紛からWBO(世界ボクシング機構)が分裂し、世界王者を認定する団体が4つになりました。実際には細かな団体がいくつも乱立し、ボクシングの世界王者を認定する団体はもっとあるのですが、世界的にメジャーな団体はWBA、WBC、IBF、WBOの4団体を指します。これで同階級に4人の世界王者がいる異常な状態が続くことになります。
※各団体のチャンピオンベルト |
ジュニア(スーパー)階級の設立
8階級だったボクシングは、その後ジュニア階級を増設していきます。現在のスーパー階級と呼ばれるもので、ジュニア・ウェルター級(現在のスーパーライト級)やジュニア・ミドル級(現在のスーパーウェルター級)をはじめ、徐々に全階級にジュニア階級が設置されました。ボクシングは8階級から17階級になり、世界王座の数が飛躍的にふえることになります。4団体がそれぞれ17階級で世界王者を認定した結果、17×4団体で68人もの世界王者が生まれたことになります。8人しか世界王者がいない時代から60人も増えたことになります。
スーパー王者、暫定王者の登場
WBAはWBA世界王者他団体の王者と戦って統一王者になった場合、スーパー王者に認定して、正規の王座とは別の王座に分けてしまいました。そのため同階級にスーパー王者と正規王者の2人の世界王者が現れました。さらにWBAは暫定王者制度もフル活用し、次々に暫定王者を認定しました。本来、暫定王者は世界王者がケガなどの理由で試合ができない時に、暫定的に設置するものでした。世界王者を認定する団体は、世界タイトルマッチを行うと認定料が入るので、なるべく多くの世界戦をやった方が実入りが多くなります。そこで世界戦を乱造し世界王者を乱立させるためにWBAは次々に王座を増やしたのです。その結果、メジャー4団体の世紀王者がいて、スーパー王者や暫定王者を含めると、同階級に世界王者が5人も6人もいることになりました。明らかに異常事態です。
世界王座のデフレ化
これだけ多くの世界王者が乱立すると、ベルトの価値が下落します。そこで90年代くらいまでは、複数階級で世界王者を目指す選手が多くいました。1つの世界王座では価値が低いので、多くの王座につくことで自分の価値を高めたのです。五輪金メダリストのオスカー・デ・ラ・ホーヤとマニー・パッキャオが6階級を制覇したのが最高記録ですが、デ・ラ・ホーヤの記録には疑問を挟む声も多くありました。※オスカー・デ・ラ・ホーヤ |
デ・ラ・ホーヤは主要4団体の中から、確実に勝てそうな王者を選んで対戦し、ファンが望む強豪との対戦を避けてきました。さらに6階級制覇といっても、8階級時代なら3階級にしか相当しません。過去のレジェンドらと比較して、優れているのかは疑問視されます。
フィリピンの英雄、マニー・パッキャオは8階級にまたがって戦い、6階級を制覇しました。彼は相手が無冠であっても、構わず対戦しています。その方針は明確で、最も話題性があり、最もファンが望む対戦相手を選ぶというものでした。世界戦でなくともパッキャオの試合は注目が集まり、天文学的なファイトマネーを得るようになります。これ以降、タイトルマッチでなくても話題性のある対戦カードを優先するケースが出てくるようになりました。
※マニー・パッキャオ |
世界戦よりノンタイトル戦の方が注目が集まる逆転現象は、ボクシングビジネスがいかに歪んでいるかを象徴する出来事だと思います。
世界一を求める声
世界王座が乱立し、誰が世界一強いかわからない状況に、世界一を決める戦いの場を求める声は以前からありました。プロモーターのドン・キングは、80年代に全てのヘビー級世界王者と契約を結ぶと、王座統一トーナメントを開催しました。※ドン・キング |
WBA、WBC、IBFの世界王者がトップランカーと防衛戦を行い、勝者同士が対戦する刺激的なトーナメントです。しかし当初は話題性が低く、あまり注目されませんでした。モハメド・アリというスーパースターが去り、その後継者と呼ばれたラリー・ホームズが一線を退いてから、ヘビー級王者は小粒揃いと言われ、話題も人気も今ひとつでした。話題性のない王者同士の戦いに話題性はなく、盛り上がりに欠けたままトーナメントは始まりました。
※マイク・タイソン(右) |
しかしこの時、ドン・キングは隠し球を持っていました。当時無名だったマイク・タイソンが参戦すると、次々にKO勝利を重ねて3団体の統一王者になってトーナメントは閉幕しました。いわばタイソンを売り出す場としてトーナメントが開催され、タイソンはスーパースターの階段を駆け上がりました。
WBSSの開催
ヘビー級王座統一トーナメントは、タイソンのような目玉がなければ成功が難しいことも示したため、長らく同じような大会は行われませんでした。しかし世界一を決める大会を望むファンの声は根強く、2009年にはアメリカのショウタイム社が「スーパー6」というスーパーミドル級の大物を集めたトーナメントを開催しました。※スーパー6の出場者 |
スーパー6は新たなスター候補生の発見につながり、関係者の間では好評でしたが、収益的には今ひとつでした。しかしそれに触発されたのか、アメリカとドイツのプロモーターがWBSS(ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ)を立ち上げ、2017年にクルーザー級でトーナメントを開催しました。5000万ドルの賞金争奪のWBSSは、WBAの正規王者以外が参加したクルーザー級は成功に終わりました。なにより最も強いクルーザー級王者が明確になり、ファンもスッキリした気持ちになりました。
これまでクルーザー級のほかにスーパーミドル級でも開催され、今回は井上尚弥がいるバンタム級以外に、スーパーライト級でも開催されます。
まとめ
乱立する世界王座と価値が下落し続けるチャンピオンベルトに、ボクシングファンはフラストレーションを募らせていました。世界王者を一堂に集め、トーナメントで世界一を決めるシンプルな大会は多くの人の注目を集めました。スーパー6は、開催期間が長すぎて間延びした感がありますが、WBSSは短期間で開催することでそれを防いでいます。怪我による選手の長期離脱など、いくつもの課題を抱えてはいますが、真の世界一を決める場というのはファンにとって嬉しいものです。井上尚弥はバンタム級の再注目株で、イギリスのブックメーカーがつけたオッズも最も低くなっています。世界的なスーパースターになる可能性をWBSSに参加した井上尚弥は秘めています。今後の試合にも注目です。
関連記事
井上尚弥は何が凄いのか改めて整理する
衝撃のKO劇 /井上尚弥の強さとは
井上尚弥のパウンド・フォー・パウンドを考える
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