ガーバー社のナイフの世界 /使い勝手と安さで人気

後輩が旦那にプレゼントするのに、ガーバー社のナイフを買うので相談にのって欲しいと連絡してきました。旦那さんは釣りをする時に使うナイフが欲しいそうで、特にガーバーのナイフが気になっているようです。釣りに使うなら日本の名品G・サカイの方が個人的にはお勧めなのですが、ガーバーも決して悪くはありません。そこで今回はガーバーの話です。

※ガーバー社のステーキナイフ

ナイフ関連記事
スパイダルコのナイフを紹介 /機能性を追求したナイフ
モキナイフの美しさ /グローリーの紹介 
コールドスチール /登山からゾンビの襲来まで備えるメーカー
オピネルのナイフ入門 /久しぶりに買ってみました

ガーバーのイメージ

近年の広告ではアウトドアのイメージを強く打ち出しています。イギリスのSAS出身で冒険家のベア・グリスルとコラボした商品を出したり、マルチツールを販売したりしてキャンプなどのお供にガーバーを勧めています。また軍隊や警察への納入実績をうたい、実用性をアピールしています。



2000年の911テロ以降、ナイフを飛行機内に持ち込むことが禁止された影響もあり、近年ではガーバーはナイフよりもアウトドアグッズに力を入れています。そして安価な商品を主力にしていて、本格的なアウトドアからライトユーザーの取り込みに熱心なようです。そのため1970年代までの手の込んだガーバーのナイフは、ネットオークションなどで高値で取引されています。

ガーバーは広告代理店だった

1910年、オレゴン州に広告代理店としてガーバーは創業しました。社長のジョゼフ・ガーバーは顧客へのクリスマスギフトにキッチンナイフを送ろうとしますが、めぼしいものが見当たりませんでした。たまたま行商に来た地元の鍛冶屋、デビッド・ゼバニア・マーフィーがやってきました。マーフィーのナイフは高品質でしたが見た目が酷かったため、アートディレクターのディーン・ポロックがデザインしました。

※木箱入りのキッチンセット

贈答用のオイル仕上げのウォールナットの木箱に入れられたキッチンナイフは顧客に好評だったので、ジョゼフ・ガーバーは販売することにしました。最初に納品したのはアバロンビー・アンド・フィッチでした。現在とは違い、当時のアバクロは本格的なアウトドアブランドで、小説家のアーネスト・ヘミングウェイも顧客でした。

関連記事:デブとブスはお断り! 堕ちたアバクロ

キッチンナイフの展開

1939年、ガーバー・ハンドメイド・ブレード社を立ち上げると、キッチンナイフの販売を始めました。順調に売上を伸ばし、1941年にはエクスカリバーなどガーバー の代表作となるキッチンナイフを売り出しました。しかし納入金額のアップを要求したマーフィとガーバーは仲違いし、戦争の勃発もあったのでガーバーのナイフ販売は中断します。

※キッチンナイフの広告(1964)

その一方で、マーフィは軍隊に納入するナイフを製作してナイフ販売を続けました。戦争が終わるとガーバー は独自にキッチンナイフの販売を始めますが、マーフィは自分が制作したナイフとそっくりなナイフをガーバー が販売することに怒り、裁判になりました。

アウトドア分野への進出

アバクロで商品を販売する以上、アウトドアナイフの需要が出てくるのは必然でした。1948年にガーバー はハンティングナイフを販売します。ショーティと名付けられたこのモデルは、キッチンナイフの技術をそのまま転用したものでした。このナイフは70年代まで販売され続けるロングセラー商品になりました。これ以降、ガーバーはキッチンナイフ以外にアウトドアユースのナイフにも商品を展開するようになり、数々の名作が生まれます。



トーマス・ラムがデザインしたハンドルを使用したラム・ハンドル・ハンターをはじめとするラム・パターン・ハンドル・シリーズは、ガーバーを代表するナイフになっていきます。後にハンドルはステンレスなどの金属か木、ナイロン素材へとさまざまな種類で展開するようになります。さらに60年代にはベトナム戦争中の米軍からナイフを依頼されるようになり、キッチンナイフのメーカーだったガーバーは総合的なナイフの大手になっていきました。

経営不振

刃物で大手企業となったガーバーは、やがて経営不振に陥ります。安価なナイフが市場を席巻しナイフも使い捨ての時代になると、手間暇かけて作り上げるガーバーの高価なナイフの売り上げが低迷するようになりました。87年にガーバーはフィンランドのフィスカース社に売却されることが決まりました。

※フィスカースの広告

フィスカースは低迷しているガーバーを立て直すため、安価なラインナップを拡充しつつアウトドア分野に注力させました。かつてのような職人が手間をかけて作り上げるナイフは姿を消し、また得意分野だったキッチンナイフのラインナップも多くが姿を消しました。そのため1970年代までのガーバーはオールド・ガーバーと呼ばれ、オークションなどで高値で取引されるようになりました。

また経営不振の中、ガーバーを退社したデザイナーのアルフレッド・クラーク・マーは79年にアル・マー社を興し、高品質なナイフとして人気を得ています(アル・マー氏の死後は日本のGサカイが製造)。

現在のガーバー

アウトドアツールメーカーとしての地位を確立しています。ナイフの質が落ちたと嘆く声が多いですが、中級の価格でありながら品質が高いことで評判を得ています。キッチンナイフのメーカーだったため常に濡れる環境で使い、水と洗剤による劣化から商品を守るためのノウハウを蓄積していたため、今でも長持ちするナイフが多いことでも高い評価を得ています。

※現在のガーバーの広告

またテレビ番組で人気者になった冒険家のベア・グリルスとコラボした商品を販売するなど、マーケティングにも力を入れています。以前のように知る人ぞ知る名ブランドから、大々的に広告を打ちテレビにも頻繁に顔を出すブランドになっています。しかし繰り返しますが、価格の割に良い商品を出していることで評価を受けており、決して安かろう悪かろうのブランドではありません。しかし生産国を中国に移したことで、敬遠する人が増えたのも事実です。

ガーバーの代表的なナイフ

ベア・グリルス・コンパクトナイフ

冒険家のベア・グリルス・シリーズは沢山のラインナップがありますが、こちらは直刃のベーシックなモデルになります。今回の依頼は釣った魚をさばいたり、釣り糸を切ったりということなので、波刃は不要と考えました。滑りにくいハンドルに鮮やかな色は、落とした時やちょっと地面に置いたときにも目立つので、アウトドアに向いています。価格も抑え気味なのがいいですね。


パラフレーム・ナイフ

軽量かつコンパクトで人気のフレームです。ポケットクリップが最初からついおり、ポケットに入れても邪魔にならないサイズでありながら、切れ味や耐久性にも一定の評価を得ています。ちょっとしたことに使うなら、十分な堅牢性と使い勝手の良さを備えています。オールステンレス製で、見た目の良さも人気の秘訣のようです。


ストロング・アーム

こちらはシースナイフになります。アウトドアというよりユーティリティナイフに近いと思いますが、重量感がありハンドルのグリップの良さで定評があります。握りやすく滑りにくいため、濡れた環境でも扱いやすいと言われており、とにかく頑丈なナイフなので安心して使うことができます。



マルチツール

数多くのマルチツールも出していますが、こちらはレザーマンの廉価版という感じです。安価なのでマルチツールを試しに使ってみるくらいなら良いですが、きちんと使うなら私はレザーマンの製品を購入することをお勧めします。


関連記事
レザーマンのマルチツールを考える /WAVE(ウェーブ)のレビュー

まとめ

少し前に、ガーバーのキッチンナイフを探している友人に頼まれて、1950年代のナイフを海外オークションで落札しました。その時に届いたナイフは木箱に収められ、武骨ながらも実用的でしっかりした製品であり、古き良き時代にものづくりを熱心にやっていたアメリカの良さを感じさせてくれるものでした。友人は手に入れたキッチンナイフを研ぎなおし、バーベキューなどの際に使っています。アンティークが好きな私には、とても魅力的なものでした。

また多くのナイフは刃付けが完全にはされておらず、買ってから自分好みに研ぐことを前提にされている商品が多いですが、ガーバーは当初からある程度切れるように刃付けされているのでナイフ初心者にも人気があります。価格が低く設定されているので、ナイフを始めて持つ人にも買いやすく、安心できるメーカーです。

ちなみに相談してきた後輩は、ベア・グリルス・モデルをご主人にプレゼントし、気に入って使っているようです。これまでオピネルを研ぎながら使っていたそうですから、こちらの方が安心して使えると満足しているようなので、私も安心しました。

コメント

このブログの人気の投稿

アイルトン・セナはなぜ死んだのか

バンドの人間関係か戦略か /バンドメイドの不仲説

懐中電灯は逆手に持つ方が良いという話

消えた歌姫 /小比類巻かほるの人気はなぜ急落したのか

TBSが招いた暗黒時代の横浜ベイスターズ /チーム崩壊と赤坂の悪魔