子供のための歴史講座28:ミュンヘン五輪事件

いや〜乱世乱世。時は1972年9月。パパはまだ幼稚園にも通ってない頃だ。ドイツのミュンヘンで行われていたオリンピックの選手村に「黒い九月」というテロ組織が侵入してイスラエル選手達を人質にとった。

※犯人グループの1人


娘「なんでイスラエルなの?」

黒い九月はパレスチナのテロ組織で、イスラエルと対立していたんだ。そして犯人グルーブは、イスラエルに逮捕された仲間の釈放を要求してきた。ドイツ政府はイスラエルと交渉したけど、イスラエルはテロに屈することはできないと、要求を突っぱねた。

関連記事:子供のための歴史講座 パレスチナ問題

※人質と犯人グループ

娘「イスラエルは人質が死んでもいいの?」

そんなことはない。イスラエルは「ウチの特殊部隊を送りますよ。テロリストを制圧できます」と言ってきたけど、ドイツでは外国の軍隊が出動する法的な根拠がないんだ。だからドイツは自力解決することにした。

娘「どうするの?」

犯人の要求通りに、まず逃走用の飛行機を用意した。ヘリで選手村から空港に移動し、飛行機に乗り移る時に犯人を狙撃することにしたんだ。

※突入準備に入るドイツ警察。この様子が報じられて作戦が中止に。

娘「それ、成功したの?」

大失敗だった。狙撃が失敗して銃撃戦になり、撃たれた犯人がヘリで自爆したから人質全員が死んでしまった。さらにドイツ政府は「人質は全員が保護された」とデタラメな公式発表をして、混乱と世論の怒りを招いた。

娘「かわいそう。なんで失敗したの?」

まず犯人は5人だと思っていたら8人いた。

娘「え!?」

狙撃手は専門家ではなく、単に射撃が上手い警官だった。

娘「ええ!?」

夜間の狙撃なのに照明がなく、ライフルは狙撃用ではなくスコープもなかった。

娘「えええ!?」

警察の動きは一挙手一投足、テレビが伝えていて犯人側に筒抜けだった。

娘「ええええ!?それで成功すると思ってたの??」

思っていたらしい。ちなみに報道管制が全くなかったので、狙撃の準備をする警官に声をかけるマスコミまでいたらしい。さらに用意した飛行機には、輸送人員の待ち伏せして襲撃する警官がいるはずだったけど、直前になって全員が職務放棄したので、無人の飛行機を見て犯人は警戒してしまった。

娘「もうムチャクチャだね」


※爆破されたヘリコプター

西ドイツ政府の意気込み比べて、現場はかなりグダグダだったんだね。人質救出作戦は歴史に残る失敗になってしまった。テロとしては大成功で、世界中の新聞の一面を飾った。

娘「成功ってことは、テロリストは釈放されたの?」

イスラエルはテロを厳しく糾弾する声明を出して、釈放はされなかった。成功というのは、テロによってパレスチナ問題に世界中の注目が集まったからなんだ。テロは何人を派手に殺したかで、成功が決まる非道な手段なんだよ。

娘「じゃあ、もう一回、誘拐すればいいってことか」

その通り。西ドイツ政府は作戦失敗で全世界から非難された。テロ組織も実行犯が死んでしまったけど、西ドイツ政府の方がダメージが大きい。リビアやシリアはテロの成功に大喜びして、アラファト議長に莫大なボーナスを払ったなんて話もあった。

※ヤセル・アラファト

娘「アラファトってなんか聞いたことある」

1994年にノーベル平和賞をもらった人だ。

娘「え!平和賞・・・?」

実行犯の「黒い九月」は、アラファト率いるファタハのテロ組織だというのは公然の秘密だったんだが、テロとアラファトは無関係のように思っている人も多いんだよ。しかしこの事件でアラファトはPLO内での権力を絶対化させて、求心力で他の派閥を一気に引き離すことに成功した。

※黒い九月

娘「それで、この後どうなるの?」

各国政府は揺れ続けながらも、テロの要求は受け入れないこととテロ実行犯に容赦しないことになる。

娘「ん?それで西ドイツは失敗したじゃないか」

この後、西ドイツは国境警備隊の精鋭を集め、対テロ特殊部隊を結成する。テロとの対決の始まりだね。この事件はテロの凶悪さを世界中に知らしめた事件になったし、この事件以降でテロ対策の方法も変わった。2000年に911テロが起こるまで、世界に最も衝撃を与えたテロ事件だったんだよ。

娘「なんか嫌だね。無関係な人を殺して自分たちの主張をするって」

それについてはテロリストにも言い分があるんだが、追々やっていこう。テロは簡単にはなくならないし、現実としてそこにあるという事実が大事なんだ。世界の悲しい一面だけど、こういうことがあるっていうのを知っておくのも大事なんだよ。

娘「なんだか辛いねぇ」

イスラエルはこの報復として「神の怒り作戦」というのを発動し、さらなる悲劇を生んでしまう。それはまた別の機会に話すね。

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