倒産寸前のギブソン社 /ロックを彩ったギブソン社の歴史

アメリカのギターブランド、ギブソン社が倒産の危機を迎えていると報じられました。正直言って、あまり驚きませんでしたし、近い将来に身売りするような気がしていました。華々しい歴史とは裏腹に、経営はピントがズレていると思うことが多かったんですよ。

ギブソンの倒産危機を伝える記事:ハフィントンポスト


ギブソン社の創業

1894年にオーヴィル・ヘンリー・ギブソンがマンドリンの製作販売を始めたことから、ギブソン社の歴史は始まります。8年後には株式会社になりますが、オーヴィルは経営を任せっきりで、マンドリン製作も辞めてしまい、コンサルタントとして工場を時折訪れるだけになります。

※オーヴィル・H・ギブソン

それでもギブソン社はスパニッシュ・ギター(立って弾くタイプのギター。現在のほとんどのギターはこれ)にバイオリンなどのアーチトップ構造やFホールと言われるサウンドホールを設けるなど、革新的なデザインで業界をリードしていきました。さらに1936年にはエレクトリック・ギターも発売し、野心的に業界を席巻していきます。

※ギブソンL5 エレキではなくアコースティックギターです。


レス・ポールのギター

1952年、ジャズ・ギターリストのレス・ポールの監修で、レス・ポールのためのギターが製造されました。ボディに空洞のないソリッドボディのこのギターは、ギブソン・レスポールと名付けられます。金色に輝くこのギターは華々しく売り出されますが、人気を得ることはなく1960年に製造を中止します。

※ギブソン・レスポールを弾くレス・ポール氏


レスポールの最大の弱点は、ライバルのフェンダー社のギターに比べて重く、シングルカッタウェイのボディは厚すぎてハイフレットの演奏に難がありました。そこでギブソン社はレスポールの後継として、薄くてダブルカッタウェイのSGを発売します。

※ギブソン レスポールSG(1960年)

イギリスでの評価

アメリカに憧れたイギリスのミュージシャンは、レスポールに飛びつきました。ロンドンで神と呼ばれたエリック・クラプトンもレスポールを使い(ヤードバーズの後期からブルースブレイカーズ時代)、クラプトンの人気から他のミュージシャンも真似をします。

※レスポールを弾くエリック・クラプトン


特にブルースブレイカーズでクラプトンが使ったレスポールを軽く歪ませたサウンドはロックの教科書的な音になり、この音を再現するために多くのミュージシャンがレスポールを探し求めました。しかしギブソン社は既に生産を終了していたため、人気は中古市場に集中します。

ギブソン社は人気の出ないSGの宣伝を繰り広げ、中古市場ではレスポールが高値で取り引きされていました。

レスポールの再生産

この人気に推され、ギブソン社は再度レスポールの販売を1968年に再開します。しかし60年までのレスポールとは異なり、職人の手作業から工場ラインに移ったレスポールの音は、以前とは似て非なるものとも言われます。

しかし1969年にデビューしたレッド・ツェッペリンのジミー・ペイジがレスポールを使用すると、レスポール人気は決定的になりました。ハードロック、ヘヴィメタルに先鞭をつけたツェッペリンのサウンドを求めて、ハードなサウンドにレスポールは不可欠になっていきます。


※ジミー・ペイジによって低く構えたレスポールはハードロックのアイコンになります。


70年代のレスポールは、明らかにサウンドが変わっています。50年代のレスポールはジャズギターとして開発されたため、例えばフロントピックアップのトーンを絞ると、とろけるような甘い音を出します。しかしら70年代は歪ませてハードロックに使う人が増えたため、最初から歪ませやすい音に近づけています。これを嫌った人も多く、この頃から既に50年代製レスポールを求めるミュージシャンがいました。

70年代の低迷

60年代後半に、ジミ・ヘンドリックスによるサウンド革命が起こり、多くのミュージシャンはジミを真似てフェンダー社のストラトキャスターを使いました。当時のLAサウンドと呼ばれる音は、ストラトキャスター抜きには語れません。

※ジミ・ヘンドリックスによってストラトキャスターは大ヒットしました。


さらにロックに飽きた人々はフュージョンなどに向かい、重厚で歪んだ音のレスポールは敬遠されました。さらにこの頃からヘヴィメタルシーンには、エッジの効いたデザインのメーカーが現れるようになり、バイオリン形状のレスポールは古めかしい存在になっていきます。

90年代の再評価

80年代末期から、再びレスポールを使う人気者が登場してレスポール人気が再燃します。ガンズ・アンド・ローゼズのスラッシュは、往年のジミー・ペイジを彷彿させる長いストラップでレスポールを弾き、高い人気を得ました。ザック・ワイルドも個性的なペイントのレスポールを使い、再びギブソン人気が盛り上がります。

※レスポールを弾くガンズのスラッシュ


この頃からギブソンそっくりのレスポールモデルが出回るようになり、マックスという名のギタービルダーのコピー品はギブソンの本家レスポールよりも高値をつけました。見た目にはギブソンそっくりで、分解しないとコピー品とわからない精度で作られたマックスのコピー品は、著名なミュージシャンがツアー用に使って広まったと噂されました。

※ザック・ワイルドとレスポール


さらに80年代からレスポールは投機の対象になります。エディ・ヴァン・ヘイレンは、59年製のレスポールは、10年で2倍の値がつくから買っておけと勧められ、10年後に5倍以上の根がついて驚いたと語っています。現在では10倍近い値がついています。

※エディがレスポールを弾いている珍しいショット

ミュージシャンの人気頼りの経営

ギブソン社は常に後手に回った経営をしているように見えます。上記のようにレスポールは、販売を中止してから人気が出ていますし、フライングVと呼ばれるV字型のギターも同様です。こちらも70年代に再販されて50年代とは全く異なる音の味付けが施され、他社が真似したV字型のギターの方が売れたと言われています。

※アルバート・キングはフライングVを愛用し続けました。


ギブソン社は数々のヒット商品を抱えていますが、ギブソン社の売り込みではなくミュージシャンが勝手に使って勝手に人気が出ています。ライバルのフェンダー社も似たような面がありますが、ギブソン社の後手後手感は際立っています。

品質の低下が言われる

日本ではギブソン社の楽器の品質低下が言われますが、これは山野楽器が検品して良質のものだけを売っていた時代が終わり、ギブソン社が直接販売するようになってアメリカ並みの検品で売られるようになったからだと思われます。

※銀座の山野楽器


以前からギブソン社は品質のバラツキが大きく、褒められたものではありませんでした。それが日本でも顕在化しため、品質の低下が言われるようになったのです。

圧倒的な割高感

品質のバラツキに反して、価格が高いのが最近の傾向でした。ギブソン・カスタムショップのモデルですと、40万円ぐらいは珍しくありません。しかしアメリカでも日本でも多くのギター工房があり、同じ価格ならそちらの方が高い精度で作ってくれるケースが多いのです。

※木目が美しいPRSのギター


アメリカの有名ブランド、ポール・リード・スミス(PRS)も高値で有名ですが、ギブソンのようなバラツキは少なく、安心して買い物ができます。もちろんPRSとギブソンでは見た目も音のキャラクターも違うので、一概に比較はできません。しかしギブソンは高値でバラツキが大きく、さらに作りも古風なので「どうしてもギブソンじゃなきゃダメ」という人に向けた商品になりつつありました。



まとめ

伝統ある名門ブランドでありながら、どうも経営が上手くいっていない印象が以前からありました。最近は不動産などにも手を出し、そこでもキッチリ赤字を出しているようです。楽器メーカーはどこも苦しい経営を迫られていて、ギブソンだけがダメというわけではありません。しかしあまりにも会社が大きくなり、楽器というニッチな商品だけを製造して販売するだけでは利益が出ないようになったと思います。

ギブソンがなくなるのは寂しいのでなんとか踏ん張って欲しいところですが、会社の規模を小さくするか、木工と音響の技術を使って別の産業で利益を出さない限り難しいでしょう。ティーンエイジャーがこぞってギターを欲しがった時代は、はるか昔に過ぎ去っているのですからね。


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