ローテクスニーカーの代表格 /VANS(バンズ)の魅力を紹介

 スケートボーダー御用達のスニーカーブランドVANS(バンズ)は、スケートボードをしない人にも気楽に履けるスニーカーとして長い間人気を保っています。なんの変哲もないスニーカーで、現代のハイテクスニーカーと比べると見劣りしてしまいますが、シンプルでどんな服にも合わせやすく、リーズナブルな価格も魅力です。そんなVANSを今回は紹介したいと思います。


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創業者ポール・バン・ドーレン

1930年、ボストンにポール・バン・ドーレンは生まれました。彼は中学に通う頃には学校が嫌になり、学校を休みがちになりました。学校には興味を持てなかったポールですが、彼は競馬に強い興味を示しました。学校をサボって競馬場に行くと、馬券を買って競馬を楽しむようになります。しかし学校にも行かないで競馬を楽しむポールの姿を見た母親は怒り、学校を中退させて靴工場で床掃除の仕事をさせるようにしました。これがポールの人生を大きく変えました。以降、彼の人生は靴と強い関わりを持つことになります。

※ポール・バン・ドーレン

その後、ポールが放り込まれた靴工場はランディーズ・ラバー・カンパニーという靴メーカーで、NBAのボストンセルティックスに在籍するボブ・クージーという選手のシューズも作っていました。クージーは1957年にNBAシーズンMVPに選ばれ、6度のNBA優勝、NBAオールタイム選手に25周年、35周年、50周年、75周年でも選ばれた名選手です。このランディーズでポールは頭角を現し、出世を重ねます。スニーカーの組み立てラインの最適化を行い、カリフォルニア州の生産拠点に異動を命じられています。ランディーズはアメリカで3番目のスニーカーメーカーに成長していましたが、カリフォルニア工場は毎月100万ドルの赤字を出していたのです。

異動を命じられたポールと弟のジム、そしてゴードン・リーはこの工場を改革し、8ヶ月で経営を好転させることに成功します。さらにサーフィン業界にも顔を利かせ、幅広いランディーズのファンを獲得していきました。しかし副社長候補にもなったポールは経営陣との意見の相違が増えていき、弟のジムやゴードン・リーらと共に退職することを決めました。ある日、ポールは5人の子供達を椅子に座らせて会社を辞めたことを伝えました。ポールは家族に何も心配することはないと伝え、起業の準備を進めました。


VANSとは

1966年、アメリカのカリフォルニア州で創業しました。創業者のポール・バン・ドーレンと3人のパートナーによって創業されたこの会社は、バン・ドーレン・ラバー・カンパニーと名付けられました。しかし後に「バンと仲間たち」という意味を込めてVANS(バンズ)と名付けられて今日に至ります。ポールは創業する際に弟のジム、友人のゴードン・リーに加えて靴のアッパーを製作していたサージ・デリアを仲間に引き込んでいます。ポールは工場と小売店を同時に持ち、作った靴をそのまま販売することを考えていました。そして1965年の1年かけてアナハイムに工場と小売店を設立しています。工場の機械はアメリカ全土から中古の機械を集めていました。

※最初の店舗


しかし工場と小売店の設立は困難を極めたようで、1966年1月には「1月にオープンしました」という看板を掲げつつも、実際にはオープンしていませんでした。2月になると、その看板には「あなたは2月を信じるか?」という文字が書き加えられ、実際には3月に入ってオープンしました。ポールの店の特徴は店舗に置いてあるスニーカーの見本を見て、サイズと色を選んで注文を受けてから製造するオーダー店だったことです。これは小売店と工場が直結しているから可能になったことです。店舗内には4色のラックが並んでいて、客はそこから見本を選ぶことができました。

青のラックはメンズ用、オレンジはボーイズ用、赤はキッズ用、レディースは緑のラックでした。客はそこから見本の靴を選び、指定された中から色を選び、自分のサイズを注文しました。開店初日には16人が訪れて注文しています。やがて女性客から「素敵なピンクだけど、もっと明るいピンクが欲しい」と言われたのをきっかけに、追加料金をもらってスニーカーをカスタムすることを始めました。この時のシューズは#44と呼ばれていましたが、現在もオーセンティックという名前で販売されています。


ストリート文化との融合

やがて店にはサーファーやスケートボーダー、BMXを楽しむ人達がスニーカーをオーダーしにやって来るようになりました。彼らには独自のこだわりがあり、VANSは彼らの要望に応えていきます。そしてVANSは伝説のスケートボードチームZ-BOYZのトニー・アルバやステイシー・ペラルタに助言を求めました。当時彼らが発売していたモデル、オーセンティックはスケートボーダーに高い人気を得ていましたが、スケートボーダー用のスニーカーの開発を彼らの助言を元に始めたのです。こうして1976年にERA(エラ)が発売されると、スケートボーダーの間に一気に広がっていきました。

※トニー・アルバ

さらに77年にはつま先を皮で補強した#36オールドスクールが発売されます。ポールの落書きを元にデザインされたジャズストライプと呼ばれる印象的なデザインを持つオールドスクールは、スケートボーダーらの理想的な靴として大ヒットします。オールドスクールは今でもVANSを代表するスニーカーとしてブランドイメージを担っています。さらにこの頃、#98クラシックスリッポンも発売されました。靴紐がなく手軽に脱ぎ履きできる便利さが人気となり、こちらもスケートボーダーやBMXライダーに支持されます。オールドスクールと共に今日まで何度もマイナーチェンジを繰り返してVANSを代表するスニーカーになっています。


さらに78年にはStyle38と呼ばれるスケートボード用の強力なスニーカーを発売します。今日ではスケートハイと呼ばれるスニーカーで、スケートボードの技の多様化に伴い足首を保護するためにハイカットになりました。プロスケートボーダーがこぞって愛用したことで、Style38も大ヒット商品になります。特に激しいトリックを行う上級者に好まれたため、Style38を履いていることはスケボー上級者の証となりました。こうしてVANSは南カリフォルニアのXスポーツで圧倒的な存在感を示していき、スケボーやBMXの標準装備になっていきます。


ショーン・ペンによって世界的人気に

1982年に公開された映画「初体験/リッジモンドハイ」で、#98が使用されました。この映画は初主演を務めるショーン・ペンに加えて、80年代にブルック・シールズと人気を二分することになるフィービー・ケイツが出演していました。製作費はわずは450万ドルの低予算映画でしたが、興行収入は2700万ドルを突破する大ヒット映画で、この成功でショーン・ペンやフィービー・ケイツは人気を不動にしました。そんな映画でショーン・ペンが手にしていたのが、VANSの#98でした。それまでは南カリフォルニアを中心に、スケートボードやBMX、サーフィンを楽しむ人達に人気だったVANSが世界的に知られるようになったのです。

※「初体験/リッジモンドハイの」ショーン・ペン


ポールの引退と栄枯盛衰

創業者のポールは1980年に引退しました。会社を育てたことで、後塵に譲って隠居暮らしを始めたのです。その後、映画「初体験/リッジモンドハイ」で世界的に知られるようになったVANSは快進撃を続け、商品の幅を広げていきます。やがてバスケットポールや野球、レスリングなどにも進出し、それぞれの専用シューズを開発するようになりました。しかし拡大は性急過ぎましたし、VANSの会社のリソースは大きくありませんでした。急激な拡大は会社の体力を奪っていったのです。負債が一気に増え、バスケットシューズや野球スパイクで苦戦するようになると在庫が積み上がりました。VANSは裁判所に民事再生法(正式には米国連邦破産法第11章)の適用を申請しました。ポールが引退してからわずか4年で、VANSは倒産を決めたのです。

カリフォルニア州裁判所は、ポールの復帰を条件に民事再生法の適用を認めました。復帰したポールは従業員に対して「3年間は昇級できないし、あらゆるコストカットを行わねばならないが、製品のクオリティを下げることだけは絶対にしない」と宣言し、経営再建に乗り出しました。ポールは徹底したコスト削減に加えて製造ライン、営業ラインの見直しなどを行い、商品の訴求力を取り戻すために原点回帰を行いました。VANSの原点はスケートボーダーであり、BMXライダーでありサーファーです。そこでXスポーツを中心にシグネーチャーモデルの製作も始め、再びブランド力を取り戻していきました。そして負債はわずか3年で完済し、ここからVANSの第二章が始まります。

スケートボーダーのスティーブ・キャバレロのシグネーチャーモデルは成功し、93年にはスノーボードブーツの製造も開始しました。そしてXスポーツを後押しするべく、95年にスケートボードのワールドツアーのスポンサーを務めました。さらに96年にはXスポーツのイベント「トリプルクラウン」の公式スポンサーになり、98年に自社のスケートパークを建設します。オレンジカウンティに46000平方フィートの巨大施設で、屋内と屋外の両方でスケートボードを楽しむことができます。こうした活動はVANSの企業イメージを高めると共に、ブランドの訴求力を確かなものにしました。2001年には経済誌「フォーブス」で、ベスト・スモール・カンパニーに選ばれるなど、華々しい躍進を遂げています。


私とVANS

80年代に起こったナイキのエアシリーズブームで、大学生の頃はハイテクスニーカーを履く人が溢れていました。私もナイキを持っていたのですが、ガンダムの足みたいなゴツさが馴染めず、流行とは真逆のローテクスニーカーを探しました。そんな時に見つけたのが、オールドスクールでした。ナイキのエアジョーダンの半分以下の価格で、気軽に履けるのが魅力でした。

当時はほとんど車で移動する生活をしていたので、ハイテクスニーカーの分厚いソールよりも、VANSの薄いソールの方が運転しやすいというのもありました。さらに大学4年になると、調子に乗って研究室に床を組んで畳スペースと神棚を作ったりしたので靴の脱ぎ履きが増えました。そこでスリッポンをよく履いていました。

さらに1990年代の中頃、ベン・ハーパーというミュージシャンのライブに何度も通ったのですが、彼がコンバースやナイキのスニーカーに加えてVANSのスニーカーもよく履いていました。それを見て、再びオールドスクールを買い求めました。膝の上にギターを寝かせて演奏するベン・ハーパーの足下に、VANSが目立っていたのです。これはとてもファッショナブルな印象を受けました。

※ベン・ハーパー


代表モデルの紹介

原点のオーセンティック


VANSを代表するモデルで、50年間不動の人気を保っています。あまりに多くの模倣を生んだため新鮮さは全くありませんが、シンプルな見た目と豊富なカラーバリエーションによって、どんな服にも気軽に合わせられるスニーカーの定番になっています。1足持っておいて損のない靴です。


ワンランク上のオーセンティック、ERA(エラ)


トニー・アルバらによってデザインされたERAは、オーセンティックを元にスケートボード用に改造を加えたモデルです。見た目はオーセンティックとそっくですが、履き口にクッションが入っていること、羽根の部分が少し違うことが特徴です。履きやすさではERAの方が良いですが、よりシンプルさを求める人はオーセンティックを選ぶようで、棲み分けができています。

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大人気のオールドスクール


発売以来、スケーターに大人気で数々の改良が加えられていきました。発売当時とは細かい部分が異なっていて、長い時間をかけて現在の形ができあがりました。オーセンティックの鳩目は5穴ですが、オールドスクールは8穴になっていて高いホールド感があり、つま先のスエードは撥水効果があります。


気軽さが人気のスリッポン


映画「初体験/リッジモンドハイ」で、ショーン・ペンが履いていたのがスリッポンです。靴紐を廃したことで、もともと気軽に履けるVANSがさらに気楽になりました。サーファーが浜辺に履いていくのに人気でしたが、今や色違いで数足持つ人もいるほど一般的な人気が高い靴です。夏のスニーカーといえばコレという人が多いですね。


ハイカットモデル スケートハイ


オールドスクールのハイカットモデルと誤解されがちですが、スケートボードに特化したモデルで、足首を保護するアンクルパッドがついています。スタイリッシュなスニーカーで、ファッション性も高いので人気があります。

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USA企画と日本企画

実はVANSにはUSA企画と日本企画の2種類があります。日本で入手できるものの大半が日本企画で、ABCマートがライセンス契約を結んで製造しているものです。そのためABCマートで入手できるものは、すべて日本企画だと思って良いでしょう。個人的にはこれで十分なのですが、USAでなければダメだとこだわる人もいます。この2つは靴型の違いから履いた感じも異なります。大まかに言うとUSA企画はスケートボードに合わせて靴底全体が接地するようにベッタリしています。

ところが日本企画は若干ですがつま先が上がっていて、USAに比べると重心がやや後ろになる感じがします。その他にも細かな違いは多くあるのですが、ここではその詳細は割愛します。別の機会にUSAと日本の細かな違いを書いてみるのも面白いかもしれませんね。日本企画のものはダメだという人もいますが、そんなことはないと個人的には思っています。ここら辺は趣味の範囲ではないでしょうか。

ちなみに本格的にスケートボードをするなら、USA企画の方が良いという声をネットで見かけることがあります。これはあまり期待しない方が良いでしょう。40年以上も前に基本設計が行われたスニーカーなので、現在の激しいトリックには向かないようで、破れやすいようです。本格的なスケートボードを行うなら、シグネーチャーモデルが間違いありません。

まとめ

VANSのスニーカーはファッショナブルでありながら、気軽に履けるスニーカーです。スケボーをやらない人でも、サーフィンをやらない人でも普段履きに使えて安価なのも魅力です。深く考えずに履いても、組み合わせを大きく外すことが少ないので安心して履けます。ここが凄いと特筆することも少ないですが、1足持っておいて損はないスニーカーです。


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