ゲンナジー・ゴロフキンvs村田諒太戦の展望 /GGGは衰えたのか

 2021年12月29日に予定されていたボクシング ミドル級タイトルマッチ、ゲンナジー・ゴロフキンvs村田諒太の試合はコロナ禍により延期となり、2022年4月9日になりました。今回はミドル級のビッグマッチとなるゴロフキン対村田の展望を考えてみたいと思います。


試合の概要

現在ゴロフキンはIBFミドル級世界王者で、村田はWBAスーパー王者です。そのためこの試合は、IBFとWBAのミドル級王座統一戦になります。現在のミドル級世界王者はWBAの正規王者にエリスランディ・ララ、WBC王者にジャーモール・チャーロ、WBO王者にデメトリアス・アンドラーデが君臨しています。この中で最強の本命はゴロフキンとチャーロですが、チャーロは昨年の8月に強盗容疑で逮捕されたり、今年の2月には家族への暴行で逮捕されています。何かとトラブルが多いチャーロの次戦は不透明のため、ゴロフキンvs村田は現在考えられるミドル級のビッグマッチとなっています。

会場はさいたまスーパーアリーナで、当日のアンダーカードは中谷潤vs山内涼太のWBO世界フライ級タイトルマッチ、吉野修一郎vs伊藤雅雪のOPBF&WBOアジアパシフィック・ライト級タイトルマッチが決まっています。この試合はテレビ放送がなく、インターネットライブ配信のみになっています。配信はAmazonプライムで、世界的に拡大しているAmazonのライブ中継の1つになっています。Amazonは日本でスポーツライブ中継を行うのは初めてで、会員獲得の目玉として捉えているようです。

関連記事:大荒れのミドル級戦線 /村田諒太は誰を目指すのか

ゲンナジー・ゴロフキンの略歴

生まれとアマチュア戦績

カザフスタン出身のプロボクサーで、1982年にロシア系の父親と高麗人(朝鮮民族)の母の間に生まれました。ゴロフキンがアジア系の顔をしているのは、母親の血が濃いからだと思われます。また2人の兄と双子の兄弟の4人兄弟です。身長は179cmに対してリーチは178cmと、決してボクサー向きの体型には見えません。14歳の時に兄に連れられたボクシングジムを訪れたことから、ボクシングを始めています。その後、アマチュアボクサーとして試合を重ね、2004年のアテネ五輪ではミドル級で銀メダルを獲得しています。アマチュアでの戦績は、350戦345勝5敗と言われていますが、これにはかなり誤差が含まれるようです。


プロデビューと王座獲得

2006年にプロデビューすると、2010年に18戦18勝15KOという破竹の快進撃で全勝街道を突き進み、WBAの世界ミドル級暫定王座決定戦でミルトン・ヌネスと対戦します。これを1RKOで勝利し、暫定王者に就きました。その後、正規王者になると2014年までにWBA世界王座を11回防衛します。その全てがKOかTKOという異次元の強さを見せ、2014年10月18日にメキシコのマルコ・アントニオ・ルビオとWBA・WBCの王座統一戦を行います。この試合に2RKOで勝利し、WBC王座を吸収するとともにWBA王座の12回目の防衛に成功しました。

さらに1年後の2015年10月17日には、IBF世界ミドル級王者のデイヴィッド・レミューと王座統一戦を行い、8RKOで勝利しました。これでIBF王座を吸収し、WBA王座の防衛は15回、WBC王座の防衛は3回になりました。この頃にはPFP(パウンド・フォー・パウンド)最強のボクサーと言われるようになり、その脅威的な強さを世間が認めることになりましたが、2017年3月に行われたダニエル・ジェイコブスとの防衛戦では精細を欠いた内容で12R判定で勝利します。ゴロフキンの年齢による衰えが指摘されるようになり、ミドル級戦線が混沌としていきます。

カネロとの2連戦

以前から何度も対戦の噂があった、サウル・カネロ・アルバレスとの対戦が2017年9月に実現しました。これまでカネロが主張するキャッチウェイト(155ポンド)などで交渉が難航していると噂されていましたが、ようやく実現したことで、ミドル級の真の最強王者を決める試合になります。この試合は判定決着となり、12R判定で1-1-0の引き分けに終わります。しかし多くのファンやメディア関係者はゴロフキンの勝利を支持し、疑惑の判定と呼ばれる結果になってしまいました。


この結果を受けて両者は再戦を希望しますが、カネロのドーピング検査が陽性となったり、ゴロフキンがIBF王座を剥奪されるなどのゴタゴタが続き、2018年9月に再戦が決定します。この試合も接戦となり2-0の判定でカネロが勝利します。しかしこれにも多くのファンやメディアはゴロフキンの勝利を支持して、疑惑の判定と言われています。ゴロフキンは判定を不服として再戦を要求しますが、WBCはゴロフキンの申し立てを却下しています。その後、ゴロフキンは2連勝して、一応の復活を遂げています。

村田諒太とは

生まれとアマチュア戦績

1986年に奈良県に生まれたプロボクサーです。中学の頃から奈良工業高校ボクシング部が開催していた週末ボクシング教室に通い、高校から本格的にボクシングを始めています。高校2年生の時に、選抜・総体・国体の高校3連覇を達成し、高校3年生の時には高校5冠を達成しました。大学進学後もボクシングを続け、2005年のアテネ五輪では銀メダルを獲得しました。その後、北京五輪の出場資格を獲得できなかったため、東洋大学のボクシングコーチとなり、現役生活を一旦終えています。


2009年に東洋大学ボクシング部の不祥事をきっかけに現役に復帰すると、2011年の世界選手権で銀メダルを獲得します。2012年にはロンドン五輪に出場し、金メダルを獲得して一躍有名になりました。その後、いろいろととゴタゴタがあり、本人もかなり悩んだようですがプロ入りを決意し、東京の帝拳ジムに所属してプロテストを受けました。

プロデビューと王座獲得

2013年にプロデビュー初戦を2RKOで勝利すると、いきなりWBC世界ランキング19位に入ります。連勝を重ねて5戦目を前にアメリカに渡り、カリフォルニアでゲンナジー・ゴロフキンのスパーリングパートナーを務めています。そして2017年5月に13戦目で世界王座に挑戦します。相手はWBA世界王者のハッサン・ヌダム・ヌジカムで、12R判定で負けてしまいました。しかしWBA会長が酷い判定だったと異例のコメントを発表し、ヌジカムを支持した2人のジャッジに対して6ヶ月の資格停止処分が決まりました。こういったゴタゴタを経てヌジカムとの再戦が決定しました。

2017年10月22日、ヌジカムとの再戦で村田は7R終了TKOで勝利を納め、WBA世界王者(正規)に就きました。初防衛戦はイタリアのエマヌエーレ・ブランダムラで、8RTKOで勝利します。そして2回目の防衛戦で、アメリカのロブ・ブラント戦がラスベガスで決まりました。

関連記事:村田諒太が勝利 今後の展望は?

王座転落と奪還

ロブ・ブラントとの試合では、ほぼ全てのラウンドでボックスアウトされます。なす術なくズルズルとラウンドを重ね、8ポイントから10ポイントの差をつけられて3-0の判定負けで王座を陥落しました。ブラントとの決定的なスピード差を見せつけられての完敗で、引退も考えたようです。しかし再起を誓い再始動すると、2019年7月にロブ・ブラントとのダイレクト・リマッチが実現しました。


この試合で村田はこれまでのスタイルを捨て、ボクシングではなく殴り合いを展開し、初回からブラントに激しいプレッシャーをかけて圧倒します。そして2RにKOして、再び王座を奪還しました。さらにスティーブン・バトラー相手に初防衛戦に勝利すると、WBAは村田をスーパー王者に格上げしました。本来、スーパー王者はWBA正規王者が他団体の王者に勝利して統一王者になった場合に昇格するものですが、村田がスーパー王者になった経緯はよくわかりません。

関連記事:復活した村田諒太 /衝撃のKO勝利の要因は?

ゴロフキンの強さ

世界王者になっても華がなく目立たないゴロフキンでしたが、圧倒的なパンチ力で防衛を重ねてきたことでPFP1位になるなど、試合内容で自身の強さを証明してきました。オーバーハンド気味のフックは強烈で、頭頂部に当たっても相手を失神させる威力を持っています。さらにボディブローも強烈で、相手の体をくの字に折るほどの破壊力を持っています。


こうして圧倒的なパンチ力が注目されるゴロフキンですが、打たれ強さも破格です。これまでKO負けもダウンも経験していません。さらにパンチをモロにもらいながらフック一発で相手を倒したりするなど、打たれ強さと体幹の強さを感じさせる試合を何度も行っています。そしてゴロフキンの試合の最大の特徴は、一見するとグイグイ前に出てパンチをもらいながらガンガン当てに行くワイルドなスタイルに見えますが、ポジション取りが巧妙で、常に相手の嫌な位置に立って試合を行います。ここら辺りはアマエリートらしい試合運びで、パンチをもらっても強打をもらいにくい試合展開をしています。

村田諒太の強さ

ゴロフキン同様に村田もアマエリートで、プレッシャーのかけ方が抜群に上手く強い選手です。相手をジリジリ下がらせるプレッシャーをかけていき、強烈なボディブローを持ち、ワンツーも強いという特徴があります。その一方で、ロブ・ブラント戦で見られたようにハンドスピードは決して速くなく、また移動速度も決して速くはありません。スピードは改善する選手がほとんどいないことから、今後もスピードの課題は残ると思います。

その一方で、ロブ・ブラント第2戦では打ち合いの強さを見せました。それまでアマ出身者らしく丁寧なボクシングが目立ちましたが、乱打戦を仕掛けて打ち勝つ逞しさを手に入れており、一皮剥けた印象があります。従来のプレッシャーの強さを活かし、乱打戦でも活路を見出せるようになったことに村田の強さがあると思います。

試合展望

普通に試合をすればゴロフキンの圧勝だと思います。ボクシングの質が一枚も二枚も上ですし、経験値も違います。しかし村田に勝ち目がないかと言うと、決してそんなことはありません。もちろん村田にも勝機はあります。ポイントになるのは、ゴロフキンの試合の組み立て方です。これまでゴロフキンは前に前に出続けて、被弾を恐れずに強打を打ち込んできました。しかしカネロとの第2戦あたりから後ろに下がって、距離をとるボクシングを展開するようになりました。

なぜゴロフキンが戦術を変えたのかは不明です。トレーナーの解雇が原因かもしれませんし、長年の戦績からダメージが蓄積しているので打たれたくなくなったのかもしれません。しかしゴロフキンが下がる展開が増えたのは事実ですし、下がって戦う時はスタミナの消費が激しいように見えます。もしゴロフキンが従来のように前へ前へと出る試合をすれば、村田の苦戦は必至だと思いますが、下がるようならば勝機が出てくるように思います。

ゴロフキンが下がるボクシングをすれば、村田のボディブローが活きてきます。そしてもしゴロフキンが下がらなければ、相手を体ごと押すような動き(例えるなら相撲のような)で、しつこく前に出させない泥臭い試合展開ができると勝機があると思います。とにかく村田は体ごと押すような展開でも前に出る、とにかく村田は下がらない展開が必要だと思います。もし村田が下がりながら打ち合いに応じることになれば、ほとんど勝機がなくなるように思います。

まとめ

ゴロフキンは圧倒的な強さで一時代を築いた王者で、これまでにも負けたのはカネロだけです。そしてカネロ戦の敗戦も疑惑の判定と言われる微妙なものでした。さらにダウンの経験すらなく、屈強な打たれ強さを持っています。簡単に勝てる相手ではなく、村田諒太にとってゴロフキンは最強の対戦者であることは間違いありません。それでもボクシングの試合では何が起こるかわかりません。村田にも勝機はあります。4月9日を楽しみにしたいと思います。



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