レコード会社が消費者を裏切った日 /CCCDの大罪を振り返る

2002年、エイベックス・エンタテイメントが、CCCD(コピーコントロールCD)を発表しました。CDに変わる新規格で、エイベックスは音楽CDがリッピングされ、インターネットを通じて無償で配布されている現状を訴え、CCCDというパソコンでコピーできないCDを採用した経緯を説明しました。これに他レーベルも追随し、多くのレーベルからCCCDが発売されることになります。しかしCCDは、大きな波紋と不信感を音楽業界に残しました。



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レコード会社の低迷

90年代は100万枚売れなければ大ヒットではないと言われるほど、100万枚以上売れるCDがたくさんありました。業界全体を見渡しても、99年には6000億円を超えるCDの売り上げがありましたが2002年には5000億円を割り込み、わずか3年で2割近く減ったことにCD業界は危機感を募らせていました。



その売上低迷の原因として、ネットに違法にアップロードされる音楽をレーベル側は問題視しました。CDをパソコンでリッピングし、MP3などの音楽ファイルに変換してアップロードされたものが多数ネットには存在し、ただで音楽を聴くのが当たり前ににってきていると危機感が業界にはありました。そこで音楽レーベルは違法コピーに対してさまざまな対策を検討しましたが、決定打がありませんでした。そこにCCCDが登場するとエイベックスが真っ先に採用し、他の大手レーベルもそれに続きました。

問題だらけだったCCCD

そもそもソニーとフィリップスが作ったCDには厳格な規格があり、その規格を守ることでメーカーは安全に音楽を録音し、消費者は安全に再生できました。しかしCCCDはCDの規格から逸脱していたため、既存のCDプレイヤーでは再生できないことがありました。



ソニーのゲーム機、プレイステーションでは、1曲目が再生できませんでした。またパソコンやオーディオ機器も機種によっては再生できませんでした。また再生できた機器でも、別のCCCDが再生できないこともあり、消費者は混乱しました。どのアルバムがどの機器で再生できるかは買って試さなければならず、ほとんど運試しの様相になっていきます。

返品不可・保証対象外

このようなCCCDですから、購入したものの家で聴くことができない人がいました。彼らは返品を求めましたが、一度封を開けたCCCDは返品できず、泣き寝入りの状態になってしまいました。またアップル社は素早く反応し、CCCDをアップル社のパソコンに入れた場合にパソコンが破損する可能性があり、破損しても保証の対象外になることを発表しました。アップル社のパソコンはCDに対応したプレイヤーを搭載しており、CD以外のものを使った場合まで保証できないというのです。アップル社に批判が上がりましたが、他のパソコンメーカーも追随してあらゆるパソコンメーカーが保証しない姿勢を打ち出しました。



この流れはオーディオ業界にも波及し、CCCDの使用によりオーディオ機器が破損する可能性と、破損しても保証の対象外になることを打ち出しました。ソニーはオーディオ機器もパソコンも保証対象外としましたが、ソニー・ミュージック・エンターテーメントはCCCDを発売しており、またビクターもオーディオを保証対象外としながらCCCDを売る姿勢に反発が起きました。再生機器を破壊する可能性があり、壊れても保証されないCCCDに対する疑問が膨らみました。

2ちゃんねるでの動向

買ったCDが再生できないという声が書き込まれ、それに呼応するように自分は再生できたという声も書き込まれます。そこで再生できた機器が書き込まれるようになり、それら機器のリスト化が始まります。しかし再生できたと報告があった機器でも再生できないという声も上がるようになり、作品ごとに再生できる機器が変わるなど、リストは複雑化していきます。



そもそも1枚のCCCDを聞くために再生機器を買い直すのは現実的ではなく、再生できなかったユーザーは泣き寝入りするしかありません。そういった不満が高まると、解決策を提示する者が出てきました。パソコンで再生できた者が、CCCDをリッピングしてMP3ファイルに変換して配布を始めたのです。これは法に触れる行為ですが、配布する者に罪悪感はありませんでした。

これは正規の金額を払ったのに聴くことができない人を助ける行為であり、ファイルをもらう側もレーベルにお金を払っているので、違法コピーファイルをもらうことに抵抗がなかったのです。違法コピー廃絶のために導入されたCCCDは、皮肉にも違法コピーを正当化して広めることになりました。大量のCCCDが不特定多数によってリッピングされ、大量のファイルがアップロードされていきました。

消費者軽視の姿勢

CCCDは、CDショップで普通に販売されていました。しかもCCCDだけ別の棚に置くのではなく、CDと混在する形で販売されていました。注意深く見るとジャケットにCCCDのシールが貼ってありますが、パッと見ただけではCDと何ら変わらず、知らないでCCCDを買ってしまった人もいました。デカデカとCCCDであることを表記し、「このアルバムはオーディオ機器やパソコンでは再生できない可能性があります」と書かれていれば、まだよかったのかもしれません。知らずにCCCDを購入し、家で再生できないことを知った消費者は、詐欺にあった気分だと憤慨しました。



そもそもCDの売り上げ減は諸説があり、違法アップロードがどれほど影響を与えているのかは議論の余地がありました。しかしレーベルは一方的に違法アップロードが原因と決めつけ、違法アップロード対策にかかるリスクを全て消費者に押し付ける姿勢は、正規の料金を払っているユーザーまで犯罪者予備軍だと決めつけているようでした。せめて聴けないCCCDは返品して欲しいと訴える人も多く、音楽レーベルへの不満が高まっていきました。

ミュージシャンの抵抗

当初から山下達郎などは、音質に問題があるとしてCCCDを拒否していました。その頃、アメリカではCCCDで発売したマイケル・ジャクソンのアルバムが、音質が著しく悪いとして大量の返品が出るなど、ちょっとした騒動になっていたのです。エイベックスは音質の低下はほとんど感じられないと主張していましたが、歪んだ音を多く使うエイベックスのサウンドならわかりにくいですが、楽器の生音を使ったアルバムでは違和感を訴える人もいました。音質の問題は録音の仕方などにもよりますが、山下達郎などには許容できる劣化ではなかったようです。

※山下達郎


佐野元春はCCCDを推進するレーベルに不信感を抱き、自らのレーベルを立ち上げることになりました。宇多田ヒカルは公にはCCCDを批判しませんでしたが、CCCDを強く推進していた東芝EMIからリリースしていたにも関わらず、1度もCCCDでのリリースがありませんでした。沈黙するミュージシャンもいましたが、CCCDに対して声をあげるミュージシャンも増えていきました。彼らはCDを買ってくれるファンに、一方的に責任を押し付けることをしたくなかったのです。

CDのさらなる低迷

その後もCDの売り上げは下がり続け、2004年には4300億円にまで落ち込みました。皮肉なことに、CDが売れないのは違法コピーが原因であり、違法コピーを防止するCCCDを導入する必要があると訴えていたにも関わらず、むしろ売り上げが下がることになりました。

そもそもCDの売上不振は、さまざまな要因が言われていました。90年代はCDバブルで、異常な売れ行きだっただけだという声や、80年代から続いたレコードからCDへの買い替え需要の終焉、消費者のニーズが多様化しているのに追いつけない販売網など、複合的要因が重なり合っていると指摘されていたにも関わらず、音楽レーベルは違法コピーだけを原因と捉えたため、違法コピーが減ってもCDの売上が回復するのは難しかったのです。

それに加えて上記の2ちゃんねるの動向のように、CCCDは違法コピーを減らすどころか増やすことになりました。違法コピーの罪悪感が薄れ、ファイル交換ソフトによる音楽データの交換はその後も続くことになります。

何が問題だったのか?

CCCDは買っても聴くことができるかわからないうえに、聴けなかった場合の返品を認めない傲慢な商売だったのです。音楽レーベルは、正規の料金を払う音楽ユーザーも犯罪者予備軍と決めつけ、消費者だけにリスクを押し付ける商法だったため多くの反発を生みました。



例えばCCCDのような強引な方法ではなく、ソニーなどが作った次世代規格のSACDでニューアルバムをリリースしていれば、まだ反発も少なかったはずです。消費者はSACDプレイヤーを購入しなければ聴くことができませんので消費者に負担を求めることになりますが、SACDプレイヤーが普及してない中でのリリースはレーベル側もリスクを負うことになります。違法コピー対策でレーベルも消費者も双方が痛みを伴うのであれば、まだ理解する人もいたでしょう。

しかし一方的にリスクを押し付けられ、返品もできず壊れたオーディオの保証もない消費者が、バカにされたと憤るのは当然の結果でした。さらにアメリカでソニー製CCCDにマルウェアが仕込まれていることがわかると、ソニーは500万ドルもの和解案を支払うことになりました。消費者の不信感はピークに達します。聴けるかわからない円盤をCDに紛れて販売し、さらにマルウェアまで仕込まれているとなれば、これは消費者への裏切りであり、あまりに消費者を馬鹿にした行動だと言えるでしょう。

まとめ

CCCD以降もレーベル側は違法コピー防止を諦めることなく、違法コピーできないCDを導入しました。ソニーのレーベルゲートCDはCCCDの問題点を改善したと言われていましたが、実際にはさほど改善されておらず、全く普及しませんでした。東芝はセキュアCDを投入しましたが、こちらも多くの問題を抱えていて、全く普及しませんでした。

CDではなくCDの形をした変な円盤であるにも関わらず、CDショップでCDと混じって売られるなど、これらのやり方は消費者に対してフェアでないだけでなく、騙しともとられました。消費者に対してあまりにもアンフェアな対応をとったこれらの姿勢は不信感を生んだだけで、なんら問題の解決にはなりませんでした。CCCDは消費者、ミュージシャン、そしてCDの製作現場から批判を浴び、生産が終了しました。そしてこの後に登場するのが握手券販売なのですから、音楽が売れない時代になったのは必然だと思います。


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