安室奈美恵の引退で思ったこと

安室奈美恵が大ブレイクし、アムラーという言葉が流行語になった96年頃、集英社のBARTという雑誌に載ったインタビュー記事が衝撃的でした。「誰か私を叱ってください」というタイトルで、時代の寵児となってしまった孤独を赤裸々に語っていました。



インタビューの内容

ネットの創成期の記事であり、廃刊になった雑誌なのでネットで探しても見当たりません。覚えている限り、だいたいこんな感じでした。

・デビューしてから、大人に叱られてばかりだった。芸能界のことも社会のことも知らず、何も知らない自分は常に叱られて、色々なことを覚えてきた。

・今もどうすればいいかわからないことだらけ。何が正しいことなのか、わからない。
・アムラーと呼ばれる人達に「どうすれば安室ちゃんみたいになれますか?」って聞かれるけど、私自身がどうすればいいかわからないから答えられない。

・もう誰も叱ってくれなくなった。ちょっと変かなって服を着ても、みんなが「いいね」って言ってくれて、本当に大丈夫なのか不安になる。褒められてばかりだけど、私はそんな立派じゃない。

・わからないことだらけだし、不安なことだらけだから、以前みたいに誰か私を叱って下さい。

正確な文章は覚えていませんが、人気絶頂の中に孤独な少女の悲壮感が漂っていて、衝撃的な内容でした。

SAMとの結婚

このインタビューから、1年も経たずにSAMとの結婚を発表します。世間は歳の差に驚く声が上がりましたが、やっと叱ってくれる大人に出会えたんだと思いました。

母との死別

母親の死があり、しかも殺人事件で犯人が親戚という悲惨な出来事でした。白昼に車で轢いてからナタで襲うという残忍さで、母親の夫も応戦して怪我をしています。さらに犯人の自殺という、やり切れない幕切れでした。

野次馬にもみくちゃにされ、執拗に安室の表情を撮ろうとするカメラマンらに押されて転倒し、SAMに抱かれて泣きじゃくる姿を撮られ続ける様子に、報道陣への批判の声が上がりました。しかし安室奈美恵自身は、文句の一つも言いませんでした。

30代でのミリオンセラー

ブームが去り、多くの人が安室奈美恵を忘れても、体型を維持しつつ歌とダンスのトレーニングを怠っていませんでした。

再びスポットライトの中に現れた安室奈美恵は、年齢を考えると驚異的なパフォーマンスを見せ、ミリオンセールスを飛ばしました。

ストイックな努力家

BARTのインタビューを読んで以来、私は安室奈美恵に、ある種の息苦しさを感じでいました。彼女は努力を重ねることで成功を掴み、全ての結果は自分の努力にかかっていると思っていると感じていたからです。

しかし曲がヒットするには、優れた曲や歌詞、歌手のパフォーマンスだけでなく、時代とのタイミングや運による部分もあります。それらを全て自身の努力で補おうとし、全てを抱え込もうとする姿に、もう少し息を抜いてもいいだろうにと思うこともありました。

また努力だけでは乗り越えられない壁が現れた時、彼女が押しつぶされてしまうのではないかという不安もありました。

最後に


彼女は稀有な存在でした。才能があり、若くして強い切実感があり、努力を怠らずに長い間パフォーマンスを維持してきました。そんな女性が引退を選んだのですから、生半可な理由でないことは容易に想像がつきます。息苦しさを覚えていた私は、引退で肩の力を抜いて、人生を楽しんで頂ければと思いました。

※冒頭のインタビューの雑誌を見つけました。気になる方は、古本屋等で探してみてください。





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