トレンチコートの色は黒を避けた方が無難です

秋口から本格的に寒くなるまで、そして春先に活躍するトレンチコートは、一着持っておくと便利ですね。別にトレンチコートじゃなくてもコットンのコートなら良いのですが、今回は私の好みでトレンチコートの話をしたいと思います。

トレンチコートはレインコートとして、雨風をしのぐために開発されました。そして陸軍に採用され、塹壕線を戦う兵士の使い勝手に合わせて、改良が続けられてきました。

※第一次世界大戦の陸軍兵士

生粋のミリタリー・ウェアなので、機能性が最優先されています。デザイン性は機能美であり、オシャレに飾ることは度外視されています。男臭く、なんだか威張って見えるのは、ミリタリー・ウェアの出自によるわけです。

トレンチコートの歴史

起源は諸説ありますが、アクアスキュータムバーバリーの2社の歴史は、トレンチコートの歴史と言って良いでしょう。両社は防水性の生地を開発していました。

※バーバリーの広告

トレンチコートの原型は、全くボタンがなく腰のベルトで開閉するタイロッケンコートと言われていて、それを元に陸軍用のコートが作られました。第一次世界大戦では陸軍に大量に納入されて、その防水性の高さが評価されました。

戦後も機能性の高さから兵士達が日常生活でも愛用し、さらに軍の余剰物資が市場に溢れたことから、トレンチコートは広く普及しました。霧のような雨が多いイギリスでは、重宝されたのです。


関連記事:バーバリー VS アクアスキュータム /名門コートブランドは何が違うか


トレンチコートのディテール

ミリタリーウェアだった雰囲気を色濃く残しています。

ダブルブレスト
左右どちらから風が吹いても風が侵入しないように、右前でも左前でも着られるようになっています。

腰と袖のベルト
風が侵入しないように、腰と袖をベルトで閉めることができます。

ヨーク
肩口が一番濡れるので、雨が染み込まないように二重構造になっています。

ガンパッチ
ライフルを撃つと、ライフルの肩当てによってコートが擦れて破れるので、この部分が二重構造になっています。

エポーレット
階級章をつけるためのものです。軍服には、必ずといってよいほどあります。

Dリング
装備品を吊るすため、ベルトにつけられたリングです。手榴弾や双眼鏡、弾倉のポーチなどがぶら下げられました。

チン・ストラップ
顎の下のベルトで首を風から守り、襟からの雨の侵入を防ぐためのものです。

インバーテッド・プリーツ
これにより大股で歩く時にも裾が邪魔にならず、単なるスリットと違って雨でズボンが濡れることがありません。

ポケットのスリット
腰のポケットは、コートの内側に手が入るように貫通しています。バーバリーはスリットだけ、アクアスキュータムはポケットが付いてスリットも付いていることが多いのですが、例外もあります。コートの下に着ている上着のポケットからモノを取り出せる、便利な機能です。

マガジン・ポケット
コートの裾の内側にあるポケットです。私はマガジン=弾倉だと思っていたのですが、マガジンは雑誌のことでした。新聞や雑誌を放り込むポケットです。

アクアスキュータムとバーバリー

アクアスキュータムもバーバリーもロイヤルワラント(王室御用達)を授かったことがある由緒正しいブランドです。互いにトレンチコートを初めて作ったのは自社だと主張していますが、これはどちらとも言えないのが現状です。

明確な出典を見つけられないのですが、戦時下ではバーバリー製は兵士に支給され、アクアスキュータムは士官に支給されたといわれます。確かにアクアスキュータムの方が「偉そう」に見えるつくりになっているのですが、真相はよくわかりません。

ざっくりとした特色として、バーバリーはコートにくびれがない寸胴のシルエットでした。アクアスキュータムは、Aラインと呼ばれる裾が広がるシルエットでした。そのためバーバリーは粗野でタフなイメージがあり、ずぶ濡れになって裾を泥だらけにしても絵になる格好良さがあり、アクアスキュータムはタフなイメージの中にも品のある雰囲気でした。ただ長年培われてきたこれらのイメージは、現在では見られません。

全盛を誇った両社のレインコートも、化学繊維の発達で安価なものが溢れるようになり、いわゆる「イギリス病」の不景気などの影響もあって、徐々に売上げを落としていきました。

アクアスキュータム
1990年に日本企業のレナウンに買収されます。レナウンはアクアスキュータムをどうしたかったのか、側から見ると全くわからない展開で、右往左往しながら着実に業績は低迷していきます。

2009年に全株式を英国企業に譲渡しています。混乱が続いているため、ラインナップも伝統を継承したいのか、革新的なことをしたいのか、よくわからない状態が続いています。時折、ピート・タウンゼント・モデルなどの企画が単発的に行われています。

※このコートは本当にアクアスキュータム製なのだろうか?という疑問の声もありました。

バーバリー
若者向けのカジュアル・ブランドに舵を切ることで、売上げの不振を払拭しました。しかしその影響も大きく、90年代後半から2000年代前半には、バーバリー・チェックは不良少年のアイコンになってしまいます。特にバーバリー・チェックの帽子はコピー商品が氾濫し、「バーバリー・チェックを身につけた子と付き合うな」と親が子供に言うようになると、バーバリーは再びブランド戦略の見直しを迫られました。

※バーバリー・チェック

不良少年への流行は、若者向けに安価な商品を出して手に入れやすくなったことに加え、当時絶大な人気を誇ったロックバンド、オアシスのメンバーがバーバリーを好んで着用したために、バーバリーを着て不満をぶちまけたりケンカを売るのが格好良いと思われたのです。

※バーバリーのトレンチコートを着て歌うリアム・ギャラガー

現在は年齢層を少し高めにして、カジュアルからビジネスまで使える服を展開していますが、かつての粗野なイメージや質実剛健さは失われて、小綺麗な街着になっています。

映画の中のトレンチコート

映画の中には、数々のトレンチコートを見かけます。

カサブランカ(42年 米)
トレンチコートといえば、帽子をかぶって襟を立てるイメージは、この映画のハンフリー・ボガートによって確立しました。しかし真似されすぎたために、安易に真似をするとコントの登場人物のようになります。

※君の瞳に乾杯

このコートはアクアスキュータム製と書かれることが多いのですが、クレスト・フェーラス社製のようです。

サムライ(67年 仏)
アラン・ドロンの代表作ではないですが、トレンチコートの着こなしで有名な映画です。アクアスキュータムのこのモデルは、現在ではサムライ・モデルと呼ばれて古着市場で高い人気を誇っています。

※アラン・ドロンは寡黙な男が似合います。

ピンクの豹(63年 米)
本来は脇役の1人でしかなかったクルーゾー警部が、ピーター・セラーズの怪演によって続編は全てクルーゾー警部が主演になってしまいました。「ピンクパンサー」シリーズの第1作です。


着用している70年代のアクアスキュータムは名作といわれ、現在でも古着市場で高い人気を誇っています。

シャレード(63年 米)
オードリー・ヘップバーンのレディースのトレンチコートです。オードリーの専属ともいえるジバンシイのものだと思いますが、正確にどこのメーカーかはわかりません。


ランボー(82年 米)
軍服としての正当な着こなしを、リチャード・クレンナ演じるトラウトマン大佐が実践しています。ベレー帽とトレンチコートがマッチしていますね。こちらもブランドは不明です。



トレンチコートの色

色はベージュが基本色ですが、見る角度によって色が変わる玉虫なども人気です。この2つがスタンダードな色だと思ってください。ネイビーやアイボリー等もあって、用途によって好きな色を選ぶのが良いと思いますが、黒だけは慎重になってください。

アメリカのコロンバイン高校での銃乱射事件の犯人グループ、トレンチコート・マフィアが黒のトレンチコートを着ていたため、特にアメリカでは黒のトレンチコートに良い印象がありません。元々黒のトレンチコートはは黒の服しか着用しないアーミッシュのために用意されたラインナップで、後に黒人たちにも愛用されました。黒に宗教や人種などで特別な想いがある人ならともかく、特に海外に行く予定のある人などは選ばない方が無難な色です。

※コロンバイン高校のトレンチコートマフィア

トレンチコートの着丈

レインコートですから、全身を包む着丈が標準サイズです。ひざ下ぐらいまであると、ズボンの裾も濡れにくくなります。一方で軽快さを求めて膝上ぐらいの着丈のモデルも古くからあります。

トレンチコートは上記のディテールのように、ゴテゴテといろいろなものがついているデザインなので、あまり短すぎると上ばかりが重くなりすぎてバランスが悪くなります。一時期は短いトレンチコートが流行りましたが、流行とはいえ奇をてらったデザインでした。短くても膝上ぐらいにしておくのが無難といえるでしょう。

まとめ

トレンチコートといえばアクアスキュータムかバーバリーというほど、この2つがトレンチコートの代名詞ともいえるブランドです。この2つにこだわる必要はないと思いますが、元祖がこの両ブランドだと知っておいても損はないと思います。

なにせレインコートですので、かしこまって着る必要はありません。気楽にザクっと着るのが一番良いと思います。




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