LOVEBITESのasamiの進化 /メタルの女神達が向かう先

 ここ数年、ヘヴィメタルバンドのLOVEBITESをよく聴いています。このバンドについては以前にも書いたことがあるのですが、今回はボーカルについて書いてみたいと思います。新ベーシストのfamiを加えて新たな門出を迎えたLOVEBITESですが、最も進化が激しいのがボーカルのasamiだと思うからです。今回の記事は、私の想像が多分に含まれているので間違っているものもあるかもしれません。その点を差し引いて読んでいただければと思います。


ボーカリストasamiとは

年齢や出身などが非公表なので、細かなパーソナルデータはわかりません。しかし本人のインタビューによると、2歳からクラシックバレエを初めており、何度もバレエの舞台経験があるようです。歌を始めたのは15歳からで、ジャズやヒップホップがメインだったようです。高校を卒業するとアメリカに留学し、その際に野球場でアメリカ国歌を歌う機会を得ました。その時から、歌手としてやっていきたいと思うようになったようです。


帰国後に歌手活動を開始し、さまざまなオーディションを受けるようになります。そして多くのミュージシャンや歌手のバックコーラスをするようになります。山本彩やAKB、玉置浩二のステージなどでもコーラスを行ったようです。その一方でR&Bやソウルなどで自身のステージをこなしていましたが、ガールズメタルバンドのアルディアスを脱退したmihoに誘われる形でLOVEBITESのボーカルになりました。彼女にとってヘヴィメタルを歌うのは初めてで、試行錯誤を繰り返すようになります。

最初に聴いたShadowmaker

私がLOVEBITESを聴いたのは、ファーストアルバム「Awakening from Abyss」に収録されている「Shadowmaker」でした。この曲はギターリストのmiyako(当時のクレジットはMi-Ya)が北欧メタルの影響を受けて作曲したナンバーで、ライブの定番ナンバーになっています。私は知り合いから「ものすごいバンドが出てきた」と言われてYouTubeで聴いたのですが、確かにギター2人のテクニックには圧倒されましたし、ドラムの手数や音圧にも圧倒されました。そのギターとドラムを手堅く接着するベースもなかなかのもので、かなりハイレベルなバンドだと感じました。

Shadowmaker

私は生粋のメタルファンではありませんが、このバンドが目指しているのが80年代のオールドスクールなヘヴィメタルだとわかりました。ただこのバンドで唯一の欠点を挙げるならasamiのボーカルで、手厳しい言い方をするならボーカルが曲をだめにしていると感じました。高速なリズムセクションのビートに、ボーカルは遅れをとることがありました。疾走するビートに乗って駆け抜けるギターに比べ、ボーカルが疾走感を奪っていたのです。そして声のパワー不足は否めませんでした。

これはasamiのボーカルとしての力量が劣っているというよりも、asamiが持つボーカルテクニックをLOVEBITESにどうフィットさせるかがわからなかったのだと思います。ここからボーカルスタイルを何度も変えながら、LOVEBITESにフィットさせるための試行錯誤が繰り返されることになります。

セカンドアルバム「CLOCKWORK IMMORTALITY」

このセカンドアルバムの頃からasamiの歌い方は変化し、「Shadowmaker」の時のように英語の発音によるもたつき感は減りました。特にミドルテンポの曲「Rising」や、ハイテンポながら観客と一緒に歌うことを意識して作られた「M.D.O」では、ビートに対して遅れているような印象はありません。本来のasamiの声はアルトからソプラノの中間ぐらいだと思いますが、意識的にハイトーンを多用していてメタルのボーカルらしさが出てきました。

Rising

しかし切り裂くようなギターサウンドに対してasamiの声はマイルドさがあり、無理して歌っているように感じる曲があったのも事実です。そんな中で、このアルバムの中では「We the United」は、asamiの声質と帯域がちょうど良くフィットしているように思いました。この曲は近年の楽曲としては呆れるほど長いギターソロがあり、しかも高速のユニゾンで演奏するという2人のギターリストのスキルの高さを見せつける曲ですが、声量が増したasamiの声はギターに負けない力強さを見せていました。

LOVEBITESのボーカルの難しさ

LOVEBITESの曲を聴いた人の多くは、その演奏力に耳を奪われるでしょう。おそらく150cmそこそこの身長だと思われるharunaのドラムは、海外のファンから「リトル・ビッグ・エンジン」や「小型原発」と呼ばれるほどパワフルで、圧倒的な手数でバンドのビートを牽引していきます。そして海外でも話題になったのは、その圧倒的なギターサウンドです。速弾きを得意とするmidoriとゲイリー・ムーア風のエモーショナルな演奏を得意とするmiyakoのツインギターは、流暢に歌い叫びます。やがて2人は互いの得意分野を交換するようなギターソロを見せるようになりました。元からハイレベルだったミュージシャンが、バンド活動を続ける中でさらにスキルアップをし、演奏の質が年々向上しているのが手に取るようにわかります。


ボーカルにとって、頼もしくも目の前に立ちはだかったのが、このギターサウンドだったはずです。そもそもギターソロというものは、ボーカルに変わってギターに歌わせるために存在しました。LOVEBITESはオールドスクールなメタルバンドなので、80年代のメタルバンドに見られたような、歌わせるよりもギターテクニックを見せつけるようなソロも存在しますが、ギターに歌わせるソロも多く存在します。前者のテクニックを見せつけるようなソロは「Raise some hell」のmidoriのギターソロがそうですし、後者の歌うソロは最初に挙げた「Shadowmaker」が該当します。

そのためLOVEBITESのボーカルは、表現力たっぷりのギターソロに対抗できなくては、声で歌う存在意義が無くなってしまうのです。harunaのビートに遅れることなく疾走し、表現力のあるギターソロが存在する中で、もたつくボーカルは邪魔な存在になってしまいます。最初の頃、海外のファンの声の中には「ボーカルを変えるべき」とか「インストナンバーを聴いてみたい」という意見がありましたが、これはボーカルの力量不足が招いた感想だったと思います。メタルを初めて歌うasamiは、ハイレベルなギターリストを配するバンドであるが故に、そのギターサウンドを超えるボーカルを身に付けネバなりませんでした。

asamiの歌い方の特徴

asamiが歌う際に、大きく胸を開いて歌う様子がよく見られます。胸声(きょうせい)で豊かな声量を発揮する歌い方をバンドデビュー時から行っていて、基礎訓練をしっかり行ったボーカリストだというのがわかります。しかし初期の頃のライブを見た人の感想を聞くと、ほとんど最大ボリュームで歌い続けるメタルのライブ経験の少なさから、ライブの後半は体力的に辛そうだったと言っていました。LOVEBITESにはインストナンバーがないので、常に最大ボリュームを求められるライブでは体力が続かなかったのでしょう。これは早い時期に改善されたようで、現在のライブではそういった様子は見られません。

そしてasamiの歌い方の特徴は、頭から出す声です。時にオペラ風と言われる歌い方で、頭声(とうせい)と呼ばれたりします。人間の頭蓋骨には隙間があり、その中でも蝶形骨洞などに声を響かせて高い音を出すのです。多くの歌手は高い声を出す際に胸声の裏声(ファルセット)を使いますが、asamiは頭声を使えるので裏声を使わずに高い声を出すことが可能です。オペラなどでは一般的な歌い方ですが、ポップミュージックで頭声を使う人はそんなに多くありません。そのためこれが彼女のハイトーンボイスの特徴になっています。


ただよく言われることとして、頭声は英語の発音が聞き取りにくくなりがちです。多くのオペラがイタリア語のままで歌われる理由の一つがこれで、asamiの英語の発音が良くないと言われる理由にもなっていると思います。元からasamiの英語の発音は決して上手い方ではありません。そこに頭声の発声が加わることで、何を言っているのかわからないと英語圏の人に言われることになっています。

この英語の発音に関しては日本国内でも言われることがありますが、個人的には枝葉末節的な問題だと思っています。英語の発音がきちんとできるかどうかは、ボーカリストとして最も重要なことではありません。問題なのは歌詞を歌い切ることに注意が向き、もたついたり歯切れが悪くなることで、ボーカルという楽器が奏でられていないことだと思います。楽器はボーカルのように、ボーカルは楽器のように奏でられることがロックバンドには重要で、ましてやLOVEBITESはメタルをやっているのですから英語の発音の問題は些末なことだと思います。

ベーシストの役割

音楽の3要素としてリズム(拍子)、メロディ(旋律)、ハーモニー(和音)があります。バンドの楽器の中で、この3つ全てを行うのがベースになります。ドラムが叩くリズムに音程を与えてギターやキーボードに伝えたり、ギターでは補えない低音のメロディを奏でたりと、地味ではありますがベースはバンドサウンドの重要な位置を占めています。そしてボーカルにとって、ベースの音は歌ううえでとても重要になります。ベースはルート音を演奏するので、歌う際の音程の確認にはなくてはならない存在なのです。

LOVEBITESのベースはデビュー以来、mihoが担当していました。彼女は派手なドラムやギターと比較して地味な存在で、バンドサウンドを理解していないファンからはいてもいなくても良いような言い方をされることもありました。確かにmihoの演奏は堅実なものが多く、おかずを挟むことはあってもルート音を丁寧に鳴らしていました。恐らくですがバンドの役割として、エンジンとして疾走するドラムとビートの上を駆け抜けるギターに対して、その間を繋ぐことにベースは徹していたのだと思います。そしてasamiのボーカルに最も寄り添っていたのがmihoのベースでした。


結成初期のもたつくasamiのボーカルに対して、堅実なルート音を提供し続けることで、ボーカルが曲から外れて行かないようにリードしサポートする役目を担っていました。ですから2021年8月にmihoが脱退を表明した際には、LOVEBITESにとって大きな危機だと思いました。まだまだ発展途上のasamiのボーカルには寄り添ってくれるベースの存在は不可欠ですし、もしビートや低音部のメロディにこだわるベーシストが参加したなら、ドラムのharunaはasamiが遅れないようにブレーキを踏まなくてはならなくなる可能性があるからです。それはLOVEBITESがこれまで作り上げてきた、怒涛の疾走感を失うことを意味します。mihoが辞めたなら代わりを呼べば良いという声もありましたが、あまりに安易な意見だと思いました。

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mihoの脱退で岐路に立つLOVEBITES

新ベーシストfamiの加入

一般にも声をかけたオーディションが行われ、新ベーシストにfamiが加入しました。最終候補に残った2人の演奏を聴きましたが、彪(あや)のベースは堅実で本人も「バンドを支える」という言葉を繰り返しており、前任のmihoのようにサウンドの土台であり楽器同士の接着性を重視する演奏をしていました。しかし最終結果は、跳ねるように自在な低音を奏でたfamiで、この結果は意外に感じました。famiの良さはmihoのようにボーカルに寄り添い、演奏の隙間を埋めるようなスタイルよりも、より自由に踊らせた方が出てくるタイプだと思うからです。

しかし思い返すと、これはasamiの決意の表れのようにも思います。自転車の補助輪に頼っていたのを、補助輪を外す決意をしたようなものです。タイム感の違いもあるのでasami本人にかわかりませんが、聴いた感じだとボーカルの歌いやすさでは彪の方だったと思います。しかしバンドの新たな可能性を広げるために、あえてfamiを招いたのではないかと思いました。

そして新生LOVEBITESは、まず新たに2曲を発表してニューアルバムもリリースしました。最初にリリースされたのは「JUDGEMENT DAY」で、famiのベースイントロで始まりベースアウトロで終わります。正直言って、意気込みが強いのはわかりますが多くの要素が詰め込まれていて、オーバープロデュースに感じました。もう少しシンプルにできなかったのかと思う曲で、PVも映画風にするなど凝りに凝ったものになっています。しかし次に発表された「Stand and Deliver」はシンプルなスラッシュメタルで、PVも私服でスタジオ内の雰囲気を映したものでした。

Stand and Deliver

私はこの「Stand and Deliver」は、かなり気に入りました。歌詞も言葉を詰め込んだようなものではないので、asamiのボーカルがもたつくことがありません。ハイトーンも交えて彼女のボーカルテクニックを存分に聴くことができ、ボーカルの負担が少ないだけにfamiのベースは自在に跳ねています。今後のLOVEBITESの方向性を垣間見ることができました。

まとめ

メタルを歌ったことがないだけでなく、聴いたこともないasamiが試行錯誤しながら現在のスタイルに行き着いたのだと思います。演奏レベルが高いだけにボーカルに求められるものもハイレベルで、メタル初心者のasamiが悩み苦しんだのは当然でしょう。しかし従来のメタルボーカリストにはない声と、バレエの経験を活かしたパフォーマンスを見せることで、他にはないスタイルを築きつつあります。famiの加入でどうなるかと思いましたが、「Stand and Deliver」で見せたスラッシュメタルのスタイルが、今後の新たなスタイルになるのではないかと思います。asamiはメタルシンガーとしてはまだまだ発展途上ですが、新しい体制になって今後の進化が楽しみです。

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