井上尚弥は4団体を統一できるのか? /チラつくリゴンドウの影

 井上尚弥がIBFバンタム級1位のマイケル・ダスマリナス(フィリピン)をKOしたことで、4団体統一に向けて動き出したと報じられています。しかしバンタム級は役者が揃ったことで、非常にややこしい状況になっています。今回は井上尚弥を中心に動いているバンタム級戦線をまとめてみたいと思います。


関連記事:井上尚弥は何が凄いのか改めて整理する


現在の井上尚弥のタイトル

井上尚弥は2つの世界タイトルを保持しています。2018年5月にWBAバンタム級王者のジェイミー・マクドネルをKOして、WBAバンタム級世界王座を奪取しました。さらにWBSS(ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ)に参加すると、2019年5月にイギリスのグラスゴーでIBFバンタム級王者のエマヌエル・ロドリゲスと対戦してIBF王座を奪取しています。

現在、井上尚弥はWBAバンタム級のスーパー王者とIBFバンタム級の王者の2冠になっています。そこでWBCバンタム級王座とWBOバンタム級王座を奪取することで、バンタム級の世界王座の4団体を統一しようと目論んでいるのです。

井上尚弥以外のバンタム級世界王者

WBC世界バンタム級王者は、井上尚弥とWBSSの決勝を戦ったノニト・ドネアです。井上尚弥に負けた後、ノルディーヌ・ウバーリの持つWBCバンタム級王座に挑戦して4RKOで勝利しました。ドネアはフライ級からフェザー級までの5階級を制覇した名王者で、強烈な左フックを武器に勝利を積み重ねてきました。38歳と高齢ですが、井上尚弥の眼窩底と鼻骨を砕き、ウバーリから3度のダウンを奪ってKOするなど強さは健在です。

※ノニト・ドネア


WBAは他の団体の世界王者に勝利した場合、スーパー王者に格上げして正規王者を別に設けています。井上尚弥はIBFの世界王座を奪取したのでスーパー王者に格上げされ、正規王者の決定戦が行われました。その決定戦に勝利したのが、元スーパーバンタム級王者のギレルモ・リゴンドウです。オリンピックと世界選手権で2度づつ金メダルを獲得したリゴンドウは、紛れもなくアマエリートです。

※ギレルモ・リゴンドウ

プロに転校してから連戦連勝で、ノニト・ドネアにも勝利しています。しかし強さに反して試合が面白くなく、人気の面ではさっぱりでした。そのためビッグファイトには恵まれず、近年では高齢による衰えが目立ってきています。またキューバから亡命した際に、危険な組織の手を借りたという話もあり、その組織がリゴンドウ陣営に絡んでいるためプロモーターが嫌がっているという話もあります。そして40歳の現在、今後のキャリアは決して長くはないでしょう。

WBOの世界王者は、フィリピンのジョンリル・カシメロです。2019年に暫定王者になると、同年にWBO王者のゾラニ・テテと対戦してKO勝利を納めて王座に就きました。執拗に井上尚弥を挑発し続け、2020年4月に井上との王座統一戦が決定していました。しかし新型コロナウイルスの影響で中止になっています。カシメロは井上が逃げたから中止になったと言っていますが、実際にはカシメロ側がキャンセルしています。コロナ禍で一旦延期になった後に、無観客で試合の開催が提案されました。しかし無観客になると集客料が見込めないため、プロモーターは両者にファイトマネーの減額を求めました。元々かなり低額のファイトマネーだったカシメロ陣営は、これ以上安くなると試合をする意味がないと断ったのです。

※ジョンリル・カシメロ


現在のバンタム級の世界王者を一覧にまとめると、以下のようになります。

今後決まっている試合

WBC王者のノニト・ドネアとWBO王者のジョンリル・カシメロが、8月14日に対戦することが発表されました。勝者はWBCとWBOの統一チャンピオンになります。フィリピン人同士の対戦ということで、このカードも注目が集まっています。当然ながら井上尚弥は、この試合の勝者との対戦を希望しています。井上尚弥にとって、4団体の統一に向けての最短距離になりそうです。

元々はカシメロVSリドンドウだった

すでにカシメロVSリゴンドウの試合が8月14日に行われることが発表されていたのに、急遽リゴンドウではなくドネアに対戦相手が変更になりました。カシメロ陣営とドネア陣営が互いに対戦を希望し、リゴンドウ陣営が対戦を譲ったようです。問題は対戦を譲った際に、どのような条件をつけたかです。

このように試合を譲る場合、この試合の勝者と試合をする取り決めをするのが一般的です。つまりカシメロVSドネアの勝者とリゴンドウが試合をするという条件をつけて、試合を譲るのです。井上尚弥はカシメロVSドネアの勝者と試合をしたいとコメントしていますが、リゴンドウが先に試合をする可能性が高いと思われます。

井上尚弥は4団体を統一できるのか?

カシメロVSドネア戦の勝者とリゴンドウが試合をしたとして、その勝者と井上尚弥が対戦することは不可能ではないでしょう。しかしこれには2つの問題があります。まず時間の問題です。井上尚弥は徐々に減量が厳しくなっていると思われ、前回のマロニー戦でも足が攣るなどのアクシデントに見舞われました。これ以上の筋肉がついたら、さらに減量が厳しくなるため、スーパーバンタム級に階級を上げるのは時間の問題とされています。

もう一つの問題がそれぞれのプロモーターです。井上尚弥はプロモーターのボブ・アラムが率いるトップランク社と契約していますが、リゴンドウはアル・ヘイモンが率いるPBCと契約中です。この両社はライバル関係にあり、さまざまな綱引きが行われています。リゴンドウは井上尚弥との対戦を希望していましたが、ビジネスの都合で今後はどのようになるのか検討もつきません。

井上尚弥は実力的にバンタム級のトップにいると思います。またバンタム級の王者らは、誰もが井上尚弥との対戦を希望しています。バンタム級戦線の中心にいるのは間違いなく井上尚弥ですが、4団体統一にはさまざまな障壁が残っていると言えるでしょう。

まとめ

実力的には突出している井上尚弥ですが、ビッグマネーが絡む試合にはビジネスの様々な都合が入り込んできます。PBCは賞味期限が切れかけているリゴンドウの商品価値を最大限に利用したいところでしょうし、リゴンドウもそれに異論はないはずです。8月にドネアVSカシメロの勝者が決まると、次はリゴンドウ戦になる可能性が高いと思われます。井上尚弥は指名試合をクリアしながらチャンスを待つのか、スーパーバンタム級に階級を上げるのか、今年中に動きがあるかもしれません。



コメント

  1. 久々にのぞいたら更新があってうれしいです。これからも楽しみにしています。

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    1. ありがとうございます。頻繁に更新はできませんが、時間ができた時に書いていこうと思います。

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