NBAドラフトの仕組み /八村塁はどれほど凄いのか

以前、このブログで紹介した八村塁ですが、NBAドラフト一巡目9位でワシントン・ウィザーズに指名されました。日本ではプロ野球のドラフトに馴染みが深いので、一巡目ってなに?9位なら大したことないの?という気もしますので、NBAドラフトについて書いてみたいと思います。



関連記事:6月のNBAドラフトに注目 /八村塁は3人目のNBA日本人プレイヤーになるか?

部分ウェーバー制のドラフト

1984年までNBAドラフトはウェーバー制と呼ばれる方式をとっていました。最下位のチームからドラフト1位指名権を得る制度で、資金力に乏しく弱いチームが優先的に優れた選手を獲得することで、各チームの戦力を均等化することができるからです。しかしこの制度は徐々に問題を起こすようになりました。


83-84年シーズンで、翌年のドラフト注目株のアキーム・オラジュワン(ヒューストン大学)の1位指名をめぐり、下位低迷チームが躍起になって負けるという現象が起こりました。さらに翌シーズンでも注目株のパトリック・ユーイング(ジョージタウン大学)を獲得するため、下位チームが負けるための試合を展開しました。タンクと言われるわざと負ける行為の頻発が問題となり、抽選とウェーバー制をミックスした方式になります。

※213cmとは思えない多彩なムーブを見せたオラジュワン

※同じく213cmでオラジュワンのヒューストン大学を破ったユーイング

1位から4位の指名権をプレイオフに参加できなかった14チームがくじ引きで決めるのですが、1990年以降は当選確率を勝率によって調整する方法がとられています。そして5位以下は、シーズン中の成績に応じて、勝率が低いチームから優先的に指名できる順番が決まります。

10万分の1の可能性

NBAを目指した者がNBAプレイヤーになれる確率は、10万分の1と言われています。チーム数こそメジャーリーグ・ベースボール(MLB)と同じ30チームですが、2軍や下部リーグを持たないNBAでは1チームで登録できる選手は15人しかいないからです。


そのためドラフトでは30チームが2名ずつ指名して、わずか60人が選ばれることになります。日本のプロ野球ではドラフトは最大120名ですからその半分しかなく、MLBでは1000名以上が選ばれるので、NBAは極端に狭き門になっています。

1巡目とは何か

上記の通り指名する順位が決まると、全30チームが順番に指名していきます。これが1巡目になります。そして2巡したらドラフトは終了で、全60名が指名されることになります。日本のプロ野球のドラフトのように、複数チームが同じ選手を指名することはできません。


八村塁は、1巡目の9位で指名されました。9位というのは大したことないと思う人もいるかもしれませんが、14位ぐらいまでがドラフトの目玉と言われているので、9位というのはとても高い順位になります。八村への期待の高さが窺える指名順位と言えるでしょう。

最高の選手が1位指名とは限らない

各チーム15名しか登録できないNBAでは、選手の選び方が重要になります。1位指名が可能なチームが一番人気の選手を指名しないこともしばしばで、それは戦力的に不足しているポジションの選手を求めるからです。

84年のドラフトでは、伝説的な選手のマイケル・ジョーダンは3位指名でシカゴ・ブルズに入団しました。1位指名権があるヒューストン・ロケッツは、センターの力不足に苦しんでいました。だから地元ヒューストン大学のセンターで、スター候補生だったアキーム・オラジュワンを指名しました。そして2位指名権を持つポートランド・トレイル・プレイザーズもセンターの力不足が問題だったため、センターの選手を指名します。

※マイケル・ジョーダン

ジョーダンのポジションはシューティング・ガードで、ポートランドにはクライド・ドレックスラーという名選手がいたのも理由の1つです。「2人のドレックスラーはいらない」と、当時のヘッドコーチは語っています。こうしてNBA史上最高の選手マイケル・ジョーダンは、3位指名になっています。

八村塁はスタート地点にだったに過ぎない

わずか15人しか登録できないチームに、毎年2人が加入するということは、毎年熾烈な競争がチーム内で行われるということです。日本では八村塁がすぐにでもスターターとして試合に出るような報道もありますが、アメリカのさまざまな評価を見ると欠点も多く指摘されていて、原石としての評価だというのがわかります。

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かつてスーパースターだったコービー・ブライアントはルーキーの時に、他のルーキー選手に気が狂わんばかりの嫉妬を覚え、テーブルを突き飛ばし、椅子を投げ、テレビを破壊して「ハードワークを続けよう」と誓ったそうです。1巡目13位指名だったコービーが、狂わんばかりに嫉妬したのは1位指名だったアレン・アイバーソンで、後に2人は火の出るような激しいマッチアップを演じ、両者はNBAの歴史に名を刻む選手になっていきます。

※コービー・ブライアント

ドラフトで指名された時点から、断崖絶壁を背負ったような気持ちでハードワークに打ち込む選手が多い中、八村塁は戦わなくてならないのです。そしてチームメイトは全員、10万分の1の確率で選ばれた類稀なる天才たちなのです。

まとめ

1巡目で選ばれたというだけでも快挙で、さらに9位指名というのも高い順位で、期待の高さが伺えます。しかしNBAに何位で入ったかは全く重要ではなく、NBAで活躍できるかどうかが重要です。これは誰しも同様で、今年最大の注目株ザイオン・ウィリアムソンにとってもそうなのです。八村塁は1巡目下位か二巡目という予想を覆し、一巡目上位で指名されました。伸びしろが少ないという評価がいくつも出ていましたが、チームは将来性に賭けたのだと思います。チームからの厳しいプレッシャーもあるでしょう。今年のNBAドラフトは、例年になく不作の年と言われていて、どの選手も小粒と評価されています。こうした評価を覆して、活躍して欲しと願っています。

追記
八村塁が東京オリンピックに出るのが当然のような雰囲気になっていますが、大丈夫なのでしょうか。オリンピックより遥かに高いレベルのNBAに参加することが決まった以上、NBA以外のことに時間を使うことが有意義なことなのか、少し心配です。



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