護身用具の思い出 /若い頃は無茶をする

現在、スタンガンや催涙スプレーを持ち歩いていると軽犯罪法違反で捕まるようですが、90年代前半は持ち歩く人がいました。今回の話は、その90年代前半に愛する彼女のために護身用具を買ってきた友人の安彦(仮名)の話です。当時の彼は24歳で、血気盛んでした。



不審者との遭遇

安彦の彼女のミドリ(仮名)が、仕事からの帰宅中に不審者に会いました。その男は道に立っていて、ミドリが通り過ぎると後をつけてきたそうです。気味が悪く小走りで走り出すと、男は全力で追いかけてきたので、ミドリは全力で走りました。



たまたまその日はハイヒールではなくペタッとした靴だったこと、そして彼女は大学では陸上部に所属していて走るのがとんでもなく速かったため、男を振り切りました。帰宅して親に促されて交番に行くと、この近くで背後から女性を押し倒して体を触る事件が数件発生していて、ミドリは犯人の特徴などを細かく聞かれました。

立ち上がった安彦

そんな凶悪な男が近所にいるなら、俺が送ってやると安彦は仕事を終えるとミドリと待ち合わせをして、家に送っていました。ちなみに安彦はバイカーでガテン系で、喧嘩上等のタイプです。屈強なボディガードとして、ミドリ送ります。

しかし当たり前ですが、毎日こんなことを続けるのは無理があります。互いの仕事の都合もあり、どうしても送るのが無理な日も出てきました。ミドリの父親も可能な限り一緒に帰っていましたが、それも無理がありました。

安彦が護身用具を購入

職場の先輩に相談した安彦は、催涙スプレーでも持たせたらどうだろうと言われて、早速買いに行きました。都内のその手の道具を販売する怪しげな店で、店員に細かく説明を聞きつつ最善と思われるものを買ってきました。



「東南アジア製の中には、失明する危険のあるものもありますが、アメリカ製なら大丈夫です」

「問題は飛距離です。近くから噴射するものは、自分にもかかる可能性があります」

などなどの講釈を受けて、ようやく満足のいくものを購入してきました。数千円だったそうです。ちなみに私は防犯グッズに、武器を選ぶのは良い選択だとは思いません。なぜなら奪われて、相手に使われるかもしれないからです。しかし安彦は、攻めることしか頭になかったようです。

実験

私の家で友人ら数人と飲んでいると、催涙スプレーを買った安彦がやってきました。なんと3つも買っています。安彦が店員から受け売りの講釈を始め、それをみんなでウンウンと聞いていました。そして安彦はとんでもないことを言い出します。「俺にかけてくれ」と言うのです。

「いやいや危険だろ」
「本当に効くかわからないものをミドリに渡すわけにはいかない」
「お前ん家の犬で試したら?」
「犬が可愛そうだろ!」

と言うわけで、安彦の無理を聞き入れるため友人の1人が安彦の顔に噴射しました。赤い液体が安彦の顔にかかり、すぐに安彦は苦悶の表情を浮かべました。それを見て笑っていた私たちの鼻腔に、軽い刺激が襲います。あっと思った時は手遅れでした。締め切った部屋で噴射された催涙スプレーは飛散し、私たちも襲います。



喉と鼻の奥に何かがまとわりつき、目がしばしばし始め、誰かが「早く窓を開けろ!」と叫びます。窓を開けて大きく深呼吸すると、何かが鼻と喉にガツンと入り込んできて、涙が溢れて咳が止まらなくなりました。

安彦は涙、鼻水、よだれとあらゆる分泌物を垂れ流して、のたうちまわっています。私は洗面所に駆け込んで顔を洗うとやや落ち着きましたが、安彦は顔を洗っても1時間近く苦しんでいました。催涙スプレーはかなり強力ですが、場所によっては使用するミドリも犯人と一緒にのたうちまわる可能性が出てきました。

安彦がスタンガンを購入

催涙スプレーがダメだとわかった安彦は、スタンガンを買ってきました。厚手のコートを着ていたら、電気を通さないのでは?という安彦の疑問に、店員は「これなら革ジャンの上からでも効果バッチリです」と、かなり強力なモデルを出したようです。


ちなみに、現在ではスタンガンが犯罪に使われたり、ペースメーカーを壊す可能性が指摘され、高電圧高電流のモデルは敬遠されていますが、当時はそんな配慮はありません。馬鹿みたいに強力なものを安彦は買ってきました。そして再び自分の体で試すといい出します。催涙スプレーのように、使ってみないとわからないの一点張りで、革ジャンを着た腕で試すことになりました。

安彦が気をつけの姿勢で立っているところに、友人が横から二の腕の部分にスタンガンをつけてボタンを押しました。安彦は伸ばした腕をそのままピーンと真上に向け、一瞬固まった後に

「うわぁああああああ!!!」

と唸り声をあげてしゃがみこみました。あまりに素早く安彦が腕を上げたのでスタンガンは吹っ飛び、何が起こっているのかわからない私たちの前で安彦は悶絶しています。「腕、折れたかも」と何度も安彦は言いますが、ちゃんと腕はくっついています。

安彦によると、腕に太い杭を刺されたような痛みがあり、頭痛と吐き気が込み上げたそうです。また、腕を上にあげたことは記憶にないそうです。あまりの痛みに何もすることが出来ず、これをお腹や首に打たれたらと想像するだけで脂汗が出てくるほどの威力だったそうです。翌日も、まだ腕が痛いと言っていました。

まとめ

当たり前ですが、護身用具を自分に使うのはおバカな行為です。そしてこれらの道具はかなり危険だとわかりました。この後どうなったかというと、直後に痴漢の犯人が逮捕されて、安彦が買い込んだ護身道具をミドリが使うことはありませんでした。

ちなみに福岡県にある護身用具のお店では、店長がスタンガンを自分に当てる動画を掲載して威力をアピールしています。毎回のように飛び上がって倒れる店長さんの意気込みには敬服しますが、素人はやっちゃダメだと思いますよ。




コメント

このブログの人気の投稿

アイルトン・セナはなぜ死んだのか

私が見た最悪のボクシング /ジェラルド・マクレランの悲劇

はじめの一歩のボクシング技は本当に存在するのか?

バンドの人間関係か戦略か /バンドメイドの不仲説

TBSが招いた暗黒時代の横浜ベイスターズ /チーム崩壊と赤坂の悪魔