それは映画「ブリット」から始まった /アクションとマックイーンのファッション

1968年に公開された映画「ブリット」は、アクション映画の作り方に多大な影響を与え、主演のスティーブ・マックイーンの服装はファッション業界にも多大な影響を与えました。この映画を語る際に、カーチェイスとマックイーンのファッションばかりに注目が行きますが、それだけで終わらせたくない映画です。




映画「ブリット」のあらすじ

サンフランシスコ市警察のブリット警部補(スティーブ・マックイーン)は、チャルマース議員(ロバート・ボーン)から裁判の重要証人の警護を依頼されます。犯罪組織の金を横領したジョニー・ロスという男でしたが、ブリットがいない時に担当した刑事もロスも撃たれて重傷を負います。チャルマースから責め立てられるブリットは、事件に違和感を覚えて真相を探るべく捜査を始めます。



ジャズと静寂のBGM

ロックンロール全盛期で、多くの映画が最新のロックミュージックをBGMに使う中、本作はジャズをメインに使っています。子供向けのロックではなく大人のジャズを使うところに、本作の異質感が出ています。そして最も有名なサンフランシスコ市内でのカーチェイスでは、静かにジャズが流れる中、ブリットがシートベルトを締めた瞬間から音楽はなくなります。タイヤのきしむ音、ブレーキの悲鳴、坂をジャンプする車が車体を道路に打ちつける音だけが流れ、一切のセリフと音楽を排除してカーチェイスだけを魅せる硬派な演出は多くの手本となりました。



特に坂を全力で下り、車が激しくジャンプする場面は多くの作品で真似されることになります。これは公道を猛スピードで走っているから実現した演出で、従来のように低速で走りながらカメラの動きでスピード感を出す手法で実現できませんでした。日本でも「西部警察」が同じく坂で車を何度もジャンプさせていました。

ブリットのファッション

冒頭はスーツも着ていますが、これはダグラス・ヘイワードのものだと思われます。マックイーンが好んで作っていたテーラーです。しかし本作のファッションのハイライトは、茶色のツイードジャケットにネイビーのタートルネック、チャコールグレーのスラックスにチャッカブーツというスタイルでしょう。セオドア・ヴァン・ランクルによってデザインされたこのジャケットは、エルボーパッチ(肘当て)がつくアクティブな印象を与えるものでした。



現在でも茶色のツイードにネイビーのタートルネックを合わせる人は少ないと思いますが、当時としてもかなり突飛な組み合わせだったようで、さらにジャケットを脱ぐと拳銃のホルスターが現れる着こなしも強烈なインパクトを残します。刑事がホルスターをつけているスタイルは、本作から定着しました。

そしてバルマカンコートが新鮮でした。当時のコートは膝下まであるのが当然でした。雨風をしのぐためには、そのくらいの長さが必要なのです。しかしマックイーンは膝より大きく上に裾がある短いコートを着用しました。アクティブな印象を与える短いコートは、ブリットのイメージと完全にシンクロし、これ以降短いコートが流行るようになります。



ファッションは数年おきに流行が変わり、5年前のスタイルは恥ずかしくなることが当然のように起こります。しかしブリットのこのスタイルは、80年代にも90年代にも2000年代にもファッションブランドの広告に使われています。流行に関係ない格好良さが時代を超えているからです。そしてマックイーン以外が行っても、あまり格好良くないということでも秀逸です。マックイーン演じるブリット警部補を体現するファッションだからです。

徹底したリアリズム

この映画ではヒーローのような刑事ではなく、リアルな刑事像を追及しています。スタジオ撮影全盛の時代にオールロケで撮影され、当時のありきたりのファッションの人が行き交い、ベビーブームや混沌とした影を落とすアメリカを切り取ったような印象を受けます。

当時のカーチェイスは俳優が車両模型に乗り込み、窓ガラスに景色を当てはめながら演技を行い、車全体は外で走らせて撮影していました。カメラ操作でスピード感を演出し、実際にはさほど早いスピードで運転していないことも多々ありました。しかしブリットではこの方法を排除し、スタントレーサーのビル・ヒックマンに街中を時速160km以上で走らせました。ヒックマンは、自動車の本当のスピードをそのままカメラに収めた最初の映画だと言っています。



そのため乗っている役者は大変で、特にギャングの暗殺者役で助手席に乗った役者は終始絶叫し、何度も失神しそうになるのを耐えながらの撮影になりました。ヒックマンはその後「フレンチ・コネクション」のカーアクションにも起用され、一般車両を止めることなく道路を全力で走らせ、時に逆走するという無茶な運転をさせられています。「ブリット」によって始まったリアリズムの追及が、過剰になった例です。

まとめ

書いていて、結局はカースタントとファッションの話ばかりになってしまいました。それだけ影響が大きかったということです。見てない方は、ぜひ見てください。


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