ライダースジャケットを考える /ハード過ぎない着こなし方

ライダースジャケットとは、バイクに乗る時に着るレザージャケットで、私が若い頃はバイク乗りよりもロックバンドの定番でした。ところが90年代のバイカーブームでアメリカンバイク乗りの間で爆発的に広まり、今は下火ですがお洒落な人がちょくちょく着ているのを見かけます。



そこで今回は、ライダースジャケットについて歴史やブランドを見ていきましょう。


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ライダースジャケットの誕生

オートバイが出来てから、寒さ対策は考えられてきました。さまざまなものが用いられますが、今日のライダースジャケットの形を決定づけたのは、1931年にアメリカのバイクメーカー、ハーレー・ダビッドソン社が発売したレザーのバイク用ジャケットでしょう。当時、急速に発展していた飛行機乗りのジャケットの影響もあり、シングルのレザージャケットが生まれました。

さらに1939年にハーレー・ダビッドソン社はアビエイタースタイルと呼ばれるダブルのライダースを発売しました。腰をベルトで絞って寒さをしのげ、ダブルブレストなので正面からの風の侵入も少なく、多くのポケットを有するスタイルは画期的で大ヒットしました。

※1939年のアビエイタースタイルの広告

なぜライダースジャケットは、革で作られたのでしょうか。19世紀末から20世紀にかけて、アメリカには近代化の波が押し寄せます。カウボーイは牧場を手放して工場勤務になり、移動手段は馬車から自動車に変わっていきます。そうなるとカウボーイのためにコートやジャケットを作っていた職人、馬の鞍などの馬具を作っていた職人は仕事に溢れます。そこで彼らが目をつけたのが、急速に発展していた飛行機用のジャケットであり、オートバイ用のジャケットでした。こうしてフライトジャケットやライダースジャケットは、革で作られるものが主流になります。

アメリカ型かイギリス型か

アメリカとイギリスのオートバイ文化の違いは、ライダースジャケットにも現れています。アメリカは都市間の距離が長く、バイク乗りやトラック乗りの間で「500マイルブレンドコーヒー」という言葉があるくらいです。「500マイル(800km)走った後のコーヒーは最高に美味い」という意味で、800kmを一気に走破することが、決して珍しくないアメリカならではの話です。800kmと言えば東京から西は広島、東は函館までの距離になり、日本の感覚ではオートバイや自動車で走る距離では無いように思います。

このような長距離移動を前提としたアメリカンバイクは、ゆったりと座った姿勢で乗るスタイルが多くあります。ハーレー・ダビッドソンは、まさにそのようなオートバイを数多くリリースしています。そのためアメリカのライダースはゆったりとしたモデルも多く、動きやすいように着丈も短めのものが多く見られます。

※アメリカンスタイル

一方で貴族がレースに熱狂し、若者がエースカフェに集まってはカフェの間でスピードを競ったイギリスでは、速く走るために前傾姿勢で乗るオートバイが多くあります。カフェレーサーと呼ばれるこれらのスタイルは、前傾姿勢のために着丈が短いと背中が出てしまいます。そこで着丈の長いライダースが多く売られています。

※カフェレーサースタイル

代表的なメーカー /ショット

1913年にショット兄弟によって設立したアメリカのブランドで、バイク乗りだけでなくロックスターも愛用したことで、ライダースジャケットの大定番となりました。アメリカのパンクバンド、ラモーンズが着用したことでパンク系ミュージシャンの鉄板アイテムになったこともあります。私が中学生の頃は10万円前後で売られていましたが、パブル景気の時には円高によって3万円台で売られていました。私もバイクに乗っていた時は、長年愛用していました。






代表的なメーカー /バンソン

レザー製のジャケットから化学繊維に移ろうとしていた70年代に、本格的なレザージャケットメーカーとしてバンソンは創業しました。逆風の中の創業なので、経営は常に苦しく何度も倒産の危機を迎えています。しかし80年代に日本で渋カジブームが起こるとバンソンが注目され、本国アメリカよりも日本で大ヒットして倒産をまぬがれました。

今では本格的なレザージャケットメーカーとしてアメリカでも認知され、今日の代表的なメーカーの1つになっています。私もモデルB(シングルライダース)を長く使っていました。




代表的なメーカー /ラングリッツレザー

1947年にオレゴン州ポートランドでロス・ラングリッツにより設立されました。バイク事故で右足を欠損しながらも、義足でバイクレースに参加して賞を獲っていたラングリッツは、大戦中に軍需工場で革製品の加工を覚えてから自社での生産を始めました。

基本的にカスタムオーダーの店で、1日に6着しか製造しないと言われています。キング・オブ・レザーと呼ばれるライダースジャケットの最高峰ブランドの一つです。値段も上記2社とは別格です。日本では漫画「荒くれKNIGHT」のヒットで大人気になりました。90年代後半に、ラングリッツを着ている人が一気に増えた気がします。



代表的なメーカー /ルイスレザー

1892年のロンドンに洋服仕立てやとして開店し、1926年からオートバイ用の服を販売しています。対戦中はイギリス軍にパイロットジャケットを供給するなどの実績を積み、50年代のオートバイブームの中で爆発的にヒットします。


代表的なメーカー /ジェームスグロース

1876年に、ロンドンで自転車やオートバイのデパートとして出店しました。60年代にはイギリス国内で圧倒的な人気を誇りますが、70年代に起こった不況により多くのイギリス企業と同様に倒産します。そのジェームグロースが、2015年に復活しました。




ライダースジャケットのイメージを決定づけた男たち

1953年に公開された映画「乱暴者」(あばれもの)に主演したマーロン・ブランドは、ライダースジャケットのファッションスタイルを決定づけました。特にジーンズにTシャツというスタイルは、51年にマーロン・ブランドが主演した「欲望という名の電車」で、アメリカ中の若い人たちに決定的な影響を与えましたが、「乱暴者」はラフに折り返したジーンズ、Tシャツの上に羽織ったライダースジャケットは、後に何千万人ものフォロワーを生み出しました。

※「乱暴者」のマーロン・ブランド

1966年にはピーター・フォンダが主演した「ワイルド・エンジェル」が公開され、「オートバイ映画は売れる」という流れを作ります。さらにピーター・フォンダは69年に「イージーライダー」に主演し、アメリカのオートバイ乗りのイメージを決定づけるとともに、マーロン・ブランドとは異なるライダースジャケットのスタイルを確立します。

※ワイルドエンジェルのピーター・フォンダ

※イージーライダーのピーター・フォンダ

音楽の世界では1976年にデビューしたアメリカのラモーンズが、ファーストアルバムでライダースを着て登場しました。ラモーンズの人気が高まると、パンクにライダースジャケットは欠かせないアイテムになって行きます。ラモーンズに触発され、ロンドンで結成されたセックス・ピストルズのシド・ヴィシャスはライダースジャケットに鋲を打っスタイルで、ロンドン・パンクのイメージを確立します。

※ラモーンズ


70年代に入ると化繊の進歩が目覚ましく、レザージャケットに代わって化繊のライダースジャケットが多く出てきます。レースでは安全性も考慮してレザーが使われますが、一般のライダーは軽くて暖かい化繊を使う人が増えました。70年代のパンクスがライダースジャケットのイメージを作っていたと言えます。ライダースジャケットの舞台はは路上からステージに移りました。

※セックス・ピストルズのシド・ヴィシャス

そしてオーストラリアで79年に製作された映画「マッドマックス」は、ライダースを再び路上に戻しました。メル・ギブソン演じるマックスは、続編でもライダースに革パンで登場し、アウトローなイメージを強く印象づけました。そして80年代には「ターミネーター」でシュワルツェネッガーが着用します。このライダースはベイツ社のものと言われていますが、同じタイプのモデルがベイツ社にないので真相はわかりません。

※マッドマックスのメル・ギブソン
※T2のシュワルツェネッガー

ライダースのコーディネート

ハードすぎるのは苦手という人には、ネクタイを締めた上にライダースを着るというのはどうでしょう。写真はデヴィッド・ベッカムですが、ネクタイを合わせる人は多くいます。少しかしこまったテイストを入れることで、ハードさが緩くなります。



カットソーにライダースは王道の着方の一つですが、それにマフラーを合わせるだけで雰囲気が柔らかくなります。マフラーの柄によって雰囲気を変えられるのもポイントです。シュマグ(アフガンストール)では、銀行強盗のようにりやすいので注意が必要です。



ライダースにボーダーTシャツに合わせるのも王道です。着る人によってハードな雰囲気にもなりますし、柔らかい雰囲気にもなります。写真はミランダ・カーですが、彼女の場合はとてもファッショナブルに映ります。ボーダーはワイルドな印象も与えるので、服の合わせ方や着る人のパーソナリティでさまざまな雰囲気に変わります。



ライダースにパーカーを合わせるのも、ストリートファッションで多く見られる手法です。女性でもスパッツにパーカー、ライダースという組み合わせの人をちょくちょく見かけます。



まとめ

バイカーとロックのイメージが強いライダースですが、もちろんそのイメージで着るのは王道です。しかしちょっとした合わせ方で、さまざまな顔を見せますので、さまざまなコーディネートを試してみるのをお勧めします。

さまざまなブランドがありますが、70年代に多くのブランドが倒産しています。それらを古着で探すのも楽しいでしょう。そしてブランドごとに微妙にモデルが違い、その差は着た時の印象を大きく変えるので、いろいろなモデルを試してみてください。きっと自分に合うライダースジャケットがあると思いますよ。

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