ユニクロと柳井正氏の思い出 /腰が低い人でした

私が大学1年生の冬に、たまたま見かけたアルバイト募集の広告に電話して面接を受けました。当時は時給600円が普通でしたが、そこは800円だったのが魅力でした。福岡県の決して都会とは言えないエリアに、小郡商事という会社が洋服屋をオープンさせることになり、そのための店舗設営の仕事でした。会社名は小郡商事ですが、店の名前はユニクロと書いてありました。1989年のことです。



バイトは割とハードだった

プレハブ小屋が設置された駐車場が店舗で、そこに何台も4トントラックがやってきて、ハンガーやキャビネットが大量に持ち込まれます。箱を開けて組み立て店内に並べるのが仕事で、朝早くから夜遅くまで作業は続きました。



店内の棚の設置が終わると、10トントラックに大量の衣類が送られてきて、それを並べる仕事が始まります。連日、朝早くから夜遅くまで休憩もそこそこに仕事が続き、毎日クタクタになっていました。

オープン初日

店員のバイトが集まらず、設営のバイト組も制服を渡されて店員をやることになりました。なんとオープンは朝の4時で、並んだ人にはパンと牛乳を配るという摩訶不思議なサービスをやっていました。そのまま深夜まで営業し、時給800円の私が1日で1万6000円をもらえるという今日なら大問題、当時でも驚きの展開になりました。

※今もこんなことやってるんですね。

こうなるとバイトも社員も戦友のような連帯感が生まれて少々のことには動じなくなり、店を閉めると同時にしゃがみこむ人が多数いました。

柳井正氏登場

店員が不足していたので店長に頼まれた私は妹をバイトに呼んでいたのですが、その妹か「なに、あのオッさん」と指を指して言っていました。ジーンズにセーター姿の小柄な中年男性が小走りにスタッフルームに入っていくところで、妹は駆け寄って「トイレはあちらですよ」と伝えました。トイレを探していたお客が間違って入ったと思ったようです。男性は苦笑いし「一応、関係者です」と言っていました。

店を閉めると店長が、バイト全員集まるように言い、先ほどの中年男性を紹介しました。
「社長の柳井から、皆さんにお話があります」

柳井正氏からの質問

柳井氏はバイトに頭を下げ、全員が激務に耐えてくれたこと、全員の協力で大きな利益を出せたことなどのお礼を述べました。そして全員が大学生であることを確認すると、メモ帳を取り出して質問を始めました。



「こちらのユニクロオリジナルジーンズですが、皆さんは自分で買いたいと思いますか?」

全員が買わないと返事しました。当時のユニクロのジーンズは、デザインが野暮ったくインディゴの色も変で、クレヨンで青く塗ったような安っぽい印象がありました。

「では、いくらならこのジーンズを買いたいと思いますか?」

「500円なら」「100円じゃないと無理です」「タダで貰っても困ります」など好き勝手に言うバイトの意見を熱しにメモして、さらにどこを変えれば買いたいと思ってもらえるか、履き心地に問題はないか?デザインはどうか?それに対してバイトは

「道路工事の作業員みたいなデザイン」
「東南アジアの乞食みたいに見える」
「絶対に買いません」
「若ぶったおじいちゃんに似合う」
「買ってもゴミになるだけ」

などと好き勝手なことを言い始め、柳井氏はそれを1つ1つありがたい言葉を聞くようにメモをして、「お忙しい中、ありがとうございました。大変参考になりました」とお礼を言い、頭を下げて帰っていきました。

小さなことからの積み上げ

繰り返しになりますが、当時のユニクロのジーンズはお世辞にも良いものとは言えず、デザインも品質も履き心地も低レベルのものでした。もらっても履きたくない代物で、それが今日のように雑誌に紹介されたり道行く人の多くが履くことになるとは想像もできませんでした。

※こちらは現在のモデル

恐らく柳井氏は、こういったヒアリングを重ねながら改良を繰り返し、試行錯誤を繰り返したのでしょう。社員にヒアリングをすると社長に気を遣うことも考え、あちこちの店舗でバイトに声を掛けていたのだと思います。

まとめ

私の妹などは、この時のことで「柳井さんにアドバイスしたのは私」などと、わけのわからないことをジョーク混じりに話しますが、今やビジネス界の大物を「あのオッサン」呼ばわりしていたわけですから強烈な思い出として残っているのだと思います。

山口県の小さな洋服屋が急成長する前に、私も少しだけ携われたことが思い出として残っています。そして小さな積み上げを続けた柳井氏の努力に、ただただ頭が下がる思いです。


※こちらは定番のリーバイス501です。

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