麻生副総理の武装難民発言は失言なのだろうか

麻生太郎氏の発言が、再び失言騒ぎになっています。以前のヒトラー発言に続き、様々な方面から批判が集まっていますが、それほどの失言だったのでしょうか。そもそも武装難民という言葉に聞き慣れない方も多いでしょう。中東情勢のニュースには、時々出てくる言葉です。

麻生氏の発言内容

9月23日に宇都宮市で行った講演で、問題となった発言が出ました。朝鮮半島が有事の際には大量の難民が、日本に押し寄せてくるかもしれないと指摘しました。

「向こうから日本に難民が押し寄せてくる。動力のないボートだって潮流に乗って間違いなく漂着する。10万人単位をどこに収容するのか」

そのうえで、

「武装難民かもしれない。警察で対応するのか。自衛隊、防衛出動か。射殺ですか。真剣に考えなければならない」

と、語りました。

批判内容

小田嶋隆(コラムニスト)
「これまでの何度かの失言とはレベルが違う。軽率さだとか、サービス過剰の結果だとか、考えの浅さだとか、見通しの甘さだとか、反省の軽さだとか、そういう問題ではない。根本的にあり得ない。全方向的にまったく弁護の余地がない。まるで救いがない」

中沢けい(作家)
「さんざん、Jアラートで騒いだくせに、麻生副総裁は難民対策で『警察か防衛出動か射殺か』と発言なんて言語道断。難民対策を全く考えてこなかった証拠。今日は新宿ではヘイトスピーチデモがあったこの状況で、まったく治安維持についての見識を欠いた発言。政治家の自覚欠如」

未来のための公共(民間団体 前身はSEALDs)
「ヨーロッパは難民をどう受け入れるか試行錯誤してきたのに、安倍政権はまず射殺するか考えるそうです」

その他、ツイッターなどに批判が多く見られます。

武装難民とは

明確な定義がなく、あまり馴染みのない言葉です。これまでにも使われている言葉ではありますが、今回初めて聞いた人も多いのではないでしょうか。武装難民は、大きく2つの意味があります。


(1)国を逃げ出す際に、武器を所持している人。護身のために武装しているので、身の安全が保障されれば武装解除に応じることが多いようです。

(2)難民の中に混じり、一般市民の格好をした戦闘員。及びテロリストを含む人々で、国境を越えて戦闘行為を目的としています。

国際法ではどうなるのか

上記の(1)の武装難民は、ジュネーブ条約で身分が保障されます。「文民であるか否かについて疑義がある時は文民とみなす」と規定され、保護することが義務付けられています。敵対行為がない難民であれば、保護したうえで人道的な対応をしなくてはいけません。


(2)の場合は、ハーグ陸戦条約の戦闘員とは認められず、人道的な保護の対象外になります。この条約が示す戦闘員は、やや曖昧になりつつありますが、戦闘員は所属する国を明確にし、見える形で武装をしなくてはいけません。ハーグ陸戦条約の保護から外れるということは、射殺しても拘束して拷問しても、国際法で裁かれることはないということです。

この(2)のケースは、武装難民というより便衣兵やテロリストで、明確な国際法違反の存在です。

もっとも、(1)の場合であっても武装解除に応じず、敵対行為をとれば応戦することは認められています。また(2)の場合でも、便衣兵やテロリストと判明するまでは、文民としての保護が求められるので、対応が難しくなりそうです。

麻生氏の発言を振り返る

有事の際に10万人規模の難民が日本に押し寄せるのかはわかりませんが、常に最悪の想定は必要なので、麻生氏が言うように一時的にどこに収容するのかは、重要な問題だと思います。

また武装した難民については、武装解除させる必要があり、それは海上保安庁や警察が行うのが通常のやり方だと思います。しかし海上保安庁や警察では困難な武装(船にミサイルを搭載しているなど)の場合に、自衛隊が出動するのか?出動する場合には、どの法律を根拠とするのかを明確にする必要があると思います。

また最悪のケースとして、武装難民による攻撃が始まった場合、誰が対応するのかは決めておく必要があると思います。警察で対応出来ない場合、自衛隊が出動要請を受けたら、何ができるのか?相手の勢力や火器に応じて、重火器も使用するのか?などなど、予め検討しておいた方が良いのは間違いありません。

むしろなし崩し的な現場対応になると、現場の判断が鈍くなりますし、シビリアンコントロールが効いていない状況を生み出しかねません。「そんなこと起こるはずない」と言っていては、危機管理は出来ないはずです。それは東日本大震災の津波で、防波堤が批判されたのと同様です。

麻生氏の発言は、警察での対応から最悪の射殺まで順を追っていて、これらの対策を検討する必要性を促すのは特に問題がないように思えます。麻生氏が正しいとか正しくないの話ではなく、こういった提言が非常識ではないと思えます。

なぜ批判が巻き起こったのか

このニュースを最初に報じたのは、朝日新聞のweb版でした。記事のタイトルは以下のようになっていました。

麻生副総理「警察か防衛出動か射殺か」北朝鮮難民対策

このタイトルだけを見て、一般的な北朝鮮からの難民を射殺するか検討すると勘違いした人達が、騒いだ可能性があります。朝日新聞は記事の掲載から4時間後に「北朝鮮難民対策」の部分を「武装難民対策」に書き換えています。

もっとも批判している識者の中には「武装難民であっても射殺はバカげている」と再批判している人もいて、これらのひとは(1)の武装難民しか想定していないと思われます。

まとめ

個人的には、北朝鮮の有事の可能性は低いと思っています。しかし低くても可能性があることは、事前に検討する必要があり、それを危機管理と呼んでいます。仮に難民が少数だとしても、北朝鮮に送還するわけにはいきませんから、どのように受け入れて、どのように対処するのか難しい問題でしょう。

この件は何を言ったかより誰が言ったかに焦点が当てられ、麻生氏の発言は失言に決まっているという思い込みも作用しているように思います。それに加えて防衛出動に過敏な反応をする人がいますが、国民の生命を守ることを第一に考えて欲しいものです。


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