福島原子力発電所で何が起きているのか

※こちらは以前の「はねもねの独り言」に書いていた記事です。

情報が錯綜している面もあり、福島原子力発電所で起こっていることがどのくらい危険なのかさえよくわからなくなることがあります。そんな中、読売新聞の記事にこういうものをみつけました。防護服を着なくて良いエリアにやって来る水が、放射能に汚染されているはずがありません。そのくらい原発に詳しくない私にもわかります。本当に原発の作業員にインタビューしたのかすら怪しく、これを書いた記者は原発システムの基本中の基本すら理解していないわけです。そこでどこかまともな解説がないか探してみました。


いろいろ見ていくと、マサチューセッツ工科大学の科学者Josef Oehmenさんが書いた記事(アメリカ現地時間の3月12日に執筆)が目に止まりました。幸いなことに和訳も出ていたので、これを読んでみると難解な部分もありますが実に明快に福島原子力発電所の事故の経緯を書いていました。テレビで煽りたがるアナウンサーと自称専門家の大学教授が繰り広げるわけのわからない話を何時間も聞くよりも、A4で7枚程度のこのレポートを読むほうがよく理解できます。ドクターJosef Oehmenによると、爆発事故は以下のような経緯で起こったようです。


1.福島原子力発電所が設計時に想定していた最悪の地震はマグニチュード8.2だったが、今回はその16倍(マグニチュード9.0)の地震に襲われた。

2.地震発生直後に全ての核反応炉は自動停止し、数秒以内に制御棒が挿入されてウランの核連鎖反応はストップした(安全装置が正しく機能した)。

3.地震は全ての外部電源供給装置を破壊したが、緊急用のディーゼル発電機が作動して電源の供給を開始した(ここでも安全装置が正しく機能した)。

4.津波が発生し、緊急用のディーゼル発電機を全て持ち去ってしまった。

5.オペレーターは緊急バッテリー電源に切替え、それは8時間ほど正しく機能していた。

6.8時間経過してバッテリーがなくなると、炉を冷やすための電力が失われた。

7.炉の温度が下がらないため炉の圧力が高まった。オペレーターは圧力を下げるため、蒸気を抜く作業を開始した(この頃から放射能漏れが報道された)。

8.オペレーターは蒸気中の放射能が十分に分解する時間を与えるため、蒸気を建屋内に放出した。

9.高圧力の蒸気が水素と酸素に分解し、建屋内で水素爆発を起こした。


この中で、ドクターJosef Oehmenはいくつかの重要な指摘をしています。まず原発にある放射性物質は二種類があるということです。燃料棒の中にあるウランやセシウム、ヨウ素と、燃料棒の外にあるN-16(他にもキセノンなどがある)。N-16は半減期が極端に短く、数秒で放射性のない物質に分解するというものです。つまり燃料棒の外にある冷却水に含まれる放射性物質は、早期に分解されてしまうということですから、空気中に逃がした蒸気はさほど危険ではないということです。

さらに建屋の爆発は意図したものではないが、反応炉を守るために行なった措置によって反応炉の外で爆発が起こったため、想定の範囲内で問題はないとしています。つまり炉が溶融して燃料棒が外気に触れて放射性物質が一気に空気中に放出されることを防ぐことが最も重要なので、最悪のダメージを防ぐために最小のダメージを被ったというところでしょうか。とてもバタバタしているように見えますが、反応炉はかなりコントロールされているようです。しかし次なる問題が起こっています。


1.蒸気は排出されたが、炉の中にはまだ熱が残っている。
2.熱が残っているため、冷却水の水位が下がって燃料棒が露出した。
3.露出によって高熱を発し、ジルカロイ管がダメージを受けた。
4.このダメージによって、蒸気に放射性物質が混じり始めた。


これらの対処として海水の充填が始まり、さらに海水にホウ酸を混ぜて冷却を加速させているようです。そしてメルトダウンの危機は去り、最悪の事態は回避されたとしています。蒸気に混じった放射性物質も分解されるので、大きな影響はないといえるようです。

マグニチュード8.2に耐えられる設計というのは、低すぎる設定とは思えません。今回は結果的に低すぎたことになりますが、設計が1960年代ということを差し引いても、これを設定が低すぎるとは言えないでしょう。そして想定を大幅に上回る地震に対しても、安全装置は確実に作動し、3重の安全システムが機能していたということになります。

問題は地震と津波が想定よりも大幅に大きかったため、冷却装置が全て破壊されたうえにディーゼル発電機も全てが津波にさらわれたことのようです。そのためアメリカの物理学者Ken Bergeron氏が指摘しているように、全電源喪失というほとんど起こりえないと思われていた事態が福島原子力発電所を襲うことになりました。今後、日本の原子力発電所はマグニチュード9.0に耐えられるものになるでしょう。

これを読み終わって、テレビや新聞でグダグダといつまでも解説していたのは何だったんだろうと思いましたね。意味不明の解説は不安を助長するだけで害悪さえあると思いました。







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COMMENT:
AUTHOR: boi
DATE: 03/17/2011 14:01:48
一応僕も読みました。でも専門外なのでやっぱり何も言えません。
Twitterでも地震の事について色々呟きましたけど、原子炉関係だけは呟かない、リツイートしないようにしていました。専門外の言葉で風評被害に合う人がいないようにの配慮です。

今後怖いのは原子力発電所に対する反対運動ですね。安価で安定した電力は経済の血液のような物なので、今回の報道とネットのデマでヒステリックになってしまった人達が起こす運動の方が現在の福島原発よりが心配です。

それにしても60年代に造られた原発が今回の大規模地震にある程度対応した(安全装置が働いた)ってのは賞賛に値すると思います。

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COMMENT:
AUTHOR: つるひめ
DATE: 03/17/2011 19:59:35
私も↑の方のコメントの上部に賛同します。
はねもねさんも、原発メカニズムに精通されてないのであれば、この記事は止めたほうが良いと思います。例えそれが専門家レポートの解説であってもです。
削除理由を後書きして記事消去されてはいかがか。

一例として、
燃料棒の中?(おそらく圧力容器内)、燃料棒の外?(おそらく格納容器内)、反応炉の外?(分かりません)

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COMMENT:
AUTHOR: jojo
DATE: 03/18/2011 01:25:45
一読して、「よくまとまっているな」という印象ですね。ただ、初めから知っていた内容が多く、「まとめ」以外では特に得るものはなかったかな。
この事故が初めに起きた時から、「チェルノブイリにはならない」ってことは分かっていたんです。テレビの解説者も「チェルノブイリとは全然違う。大丈夫だ」と連呼していましたからね。

ただ、現実に「被ばく者」が出ている以上、(それも事故現場から20キロも離れた場所で)「ただちに健康に被害が出るものではない」(ただちに?)と言われてもどうも説得力に欠ける。専門家はよく、「温泉に言ったら放射線を浴びるんです」とか、「CT検査と同じですから」と言います。
しかし、「CT検査を頻繁に受ければ発癌の確率が上がる」ってことは、もう放射線科の医師ですら認めていることなんですよ。

無論、今回のM9.0で原発が機能したということを評価されることは嬉しいですよ。しかし、今回はすでに被ばく者が出ている。それが事実です。
政府の対応が後手に回ったことが責任ではないか、と私は考えています。

もし、私が官房長官であれば、事故が発生した時から「万が一のために半径八十キロの人は避難してください」と政令を出していたでしょう。念には念を入れてね。もしもそれが杞憂に終わって、
「ああ、なんだ。放射線のことなんてなんでもなかったな。取り越し苦労だったよ、ははは」と笑いながら福島の人々が戻ってきてくれれば、別にそれでいいじゃないですか。

最後に、私の言ったことが杞憂に終わり、被ばく者の方々がなんの問題もなく今後を暮らせることを心から祈っています。

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COMMENT:
AUTHOR: jojo
DATE: 03/18/2011 23:27:02
>>IAEA事務局長は18日午後、東京電力福島第1原発周辺の放射線量計測のため、一両日中にIAEAの調査団を派遣すると明らかにした。

とのこと。ようやくか、という感じはしますね。
というか「こんな時こそマスコミが出張っていって、被災地を計測すればいいのに」、とも思います。
普段は「ジャーナリズムのためにどこにでも行く」と謳っている彼らがね。

結局マスコミって、離婚した芸能人めがけてなら百人くらい集まるんだけど、今の福島には誰も行けないんだな、と改めて思いました。

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COMMENT:
AUTHOR: はねもね
DATE: 03/19/2011 17:12:48
★boiさん
私も専門外ですが、あれこれと錯綜する情報を見聞きして私の知識と併せて妥当だと思うものを紹介してみました。

これに乗じた形で反原発の動きはあちこちにありますね。酷いものは2003年の事例を挙げて、あの時は原発なしで乗り切れたのだから今後も原発は不要だという話がまことしやかに言われていることです。当時は東北電力から緊急融通を受けられましたが、今回はそれが期待できませんからね。

今後の電力をどのようにして確保するかは、単なるヒステリーではなく十分に検証して考えなくてはいけませんね。



★つるひめさん
確かに私の専門外のものではありますが、錯綜する大量の情報の中から私の知識の中で検証して妥当だと思えるものを紹介してみました。結局のところは専門家の意見を個人が吟味して判断するしかないと思いますし、このレポートは一部には出回っていますが、まだそれほど広くは出ていないのでここで紹介するのもいいかなと考えた次第です。

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COMMENT:
AUTHOR: はねもね
DATE: 03/19/2011 17:13:09
★jojoさん
政府は半径20kmの地域に退避を勧告しましたが、これは各国政府の中でもっとも緩い勧告でした。普通に考えれば事態を最も掌握しているのは日本政府ですから、日本政府の判断が最も妥当で他の政府は過剰反応しているととれます。

しかし日本の首相は「東日本がつぶれる」といった過激な言葉を発していて、半径20kmが本当に妥当なのかという疑問が生まれてしまいました。そしてIAEA、アメリカ政府等の発言を報道から読んでいくと、日本政府の発表に懐疑的になっていることがわかりますね。

事態を混乱させているのは政府の責任ですが、政府はその責任の総てを東電に負わせようと躍起になっています。多くのメディアは何が問題なのかを検証するよりも、祭りごとのように一緒に騒いでいるだけにしか見えませんね。。。

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COMMENT:
AUTHOR: つるひめ
DATE: 03/19/2011 21:39:29
まあそうなんですが参考ページとしてはどうなんでしょう。
日本語解説版(ヴァージョン3)↓
http://bravenewclimate.files.wordpress.com/2011/03/fukushima_explained_japanese_translationv3.pdf

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COMMENT:
AUTHOR: バカばっかでウンザリ
EMAIL:
IP: 210.230.16.23
URL:
DATE: 03/19/2011 23:33:24
管理人さん俺のコメント消した?それともちゃんと反映されなかっただけ?気に入らなければ消してもいいけどもう一回書くね。

この記事を翻訳した人のところに内容が間違ってるとかどうのって文句言っているのがいるらしいね。そんなの翻訳した人に言っても意味ないのにね。池田信夫のツイートに文句言っているバカと同じで自分の脳みそで考えられない連中。コスモ石油のチェーンメールとか信じて送ったバカと同罪。専門家じやない人が紹介したり意見を書いたりしてるんだから正しいかどうかなんて自分で判断すればいいだけなのに自分で考えることをしないで文句を言うだけの連中が多すぎるんだよ。最悪なのは専門家面してわけわかんないこと言ったり書いたりしてる連中だけど自分で考えないバカが多いからこの手の連中も仕事にありつける。

こういうのがミンスに投票したんだろうね。

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COMMENT:
AUTHOR: はねもね
DATE: 03/22/2011 19:20:11
★つるひめさん
参考ページとしてはよくできているページだと思いますよ。ただこの記事は現地時間の3月12日に書かれたと書いてあるにもかかわらず、なぜかそれ以降のことと食い違っていると勘違いの苦情を言っている人もいるようで、混乱させているみたいですね。こういう時にはありがちな話だとは思いますが・・・


★バカばっかでウンザリさん
コメントの削除は行なっていませんので、恐らくサーバーがいっぱいで反映されなかったのだと思います。

あなたの言い方は過激でどうかと思いますが、確かに自分で考えない人は多すぎますね。こういう時はさまざまな情報を吟味するしかないのですが、それを放棄して誰が言っていたとか、何で言っていたとかいうだけで信じてしまう人が多すぎるように思います。自分の知識を総動員して吟味することができるか問われているようにも思います。

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COMMENT:
AUTHOR: xsion
DATE: 03/22/2011 22:44:43
ボクはもう少し悲観的です。
というか、未来のことは分からないので、どんなことがあっても、自分(家族含む)は生き延びるためにどうすべきか。を真面目に考えています。できることは限られてますけど...。

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COMMENT:
AUTHOR: はねもね
DATE: 03/23/2011 21:30:15
おっしゃるとおり、できることは限られていますね。
しかし今は何ができるかを真剣に考えないといけない時期なんでしょうね。
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コメント

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