モードとエロスと資本

※こちらは以前の「はねもねの独り言」に書いていた記事です。

面白い切り口の本です。ファッションを軸にした文化論みたいなもので、そもそもファッションは非倫理的な恋愛を推進力にしていたのに、21世紀に入ってからエコを中心とした倫理をまとうようになってきたとか、「カワイイ」「エロい」ということが目的化していき、男性の視点が欠落したファッションが出来上がったという話が出てきます。なるほど、確かに今のファッションには「モテ服」という言葉は溢れていても、異性の視線ばかりを意識しているわけじゃないですよね。



異性の視線(特に恋愛)を意識しないファッションというと、リクルートスーツなんかがそうですね。この本によると不況になるとテーラード・スーツが売れるらしいのですが、テーラード・スーツを買う人は異性の視線よりも社会的地位に見合った格好をしたいとか、顧客や上司から信頼性できる誠実なイメージを求めているように思います。もちろん中にはギラギラしている異性目当ての人もいるんでしょうけど。

さらに異性の視線を度外視したファッションとしては、ゴシックロリータのようなものやコスプレなんてものも挙がります。確かにコスプレは異性を意識しているというよりも、仲間内を意識していますよね。より忠実に二次元のアニメを三次元で実現するかというのに腐心するのは、モテたいという意識とは違うと思います。異性にモテるよりも同じアニメ好きから「スゲー!」と言われたい気持ちの方が大きいでしょう。確かに21世紀のファッションは恋愛が欠落してきているように思います。

この恋愛の欠落は男性側にもいえることのようで、近々続編が公開される映画「ウォール街」のマイケル・ダグラスのように体を大きく見せるギラギラしたスーツではなく、体を小さく見せるスーツが流行っています。この本では2000年のエディ・スリマンの登場以降、繊細できゃしゃに見せる男性ファッションが幅を利かせるようになっていて、それは肉食系全開の「悪羅悪羅(オラオラ)系」ファッションであっても細部に対する配慮が細かく繊細であるとしています。

言われてみると男性の装飾は趣味化を辿っていて、鞄や靴、スーツなどでも細かなディテールや素材などのウンチクがもてはやされています。そういう私も鞄や靴の素材や革の種類、そのなめし方法まで気になるのですが、それが女性にモテることに結びつくとは思っていません。植物タンニンなめしでアニリン仕上の革鞄が女性にモテるなんて言う人はいませんし、言っていたとしてもネタとして言っているだけでしょうからね。これは完全に趣味の世界で、非倫理的な恋愛とは全く結びつきません。

「人は脱ぐために服をまとう」と言ったのは誰でしたっけ?人はセックスをしたいから着飾るというのを上品に言い表したこの言葉は、今ではゴスロリで街を闊歩する人には全く通じないでしょう。「脱いでどーすんのよ!」と叱られそうです。また大きく胸の開いた服を着ている女性を男性が見ると「見ないでよ!」と言われるのも、そもそも男性の視線を排除したファッションだと考えると納得がいきます。なんともややこしい時代ですね。

男性は恋愛を面倒くさく感じるようになり、恋愛の過程をすっ飛ばしてくれるAVや性風俗産業が発展し、さらには面倒な女性よりも二次元の女性を愛するという人も出てきました。その一方で女性も「カワイイ」「エロい」を追求するあまり、男性の視線を排除していっているのだとしたら男性も女性も恋愛のステージから降りているということになりますね。ここで私は心配するのですが、かつてみうらじゅん氏はクリエイティブな能力はどれだけ「童貞をこじらせた」かで決まると言っていました。

女性にモテると思ってみうらじゅん氏は仏像の名前を覚え続け、スピルバーグは映像を撮り続け、スティーブ・ウォズニアックはコンピュータを作り続けたというわけです。モテたい一心で努力しているのですが、本来気を使うべき身だしなみなどはそのままで、なぜか間違った方向に突き進んでいった人達は努力しても女性にはモテません。そこでさらに間違った努力を重ねるという不毛の努力を続けた結果、クリエイターは生まれるというわけです。それが本当なら、恋愛というステージから降りてしまったらクリエイターが生まれるための推進力を失ってしまいます。

うーん、真面目に考えるのがバカバカしくなってきました。果たして倫理を重んじるファッションは、これからも続くのでしょうか。エコのブームが去ればまた変わる気もしますね。それにこれからもファッションは趣味化していくのでしょうか。じっくり観察していきたいと思います。






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COMMENT:
AUTHOR: maple
DATE: 01/31/2011 01:34:25
そういう欲を昇華して、芸術にしました!ってところでしょうか。

変な方向に深すぎるのは理解できませんけれど、何かにこだわりがあるのは素敵ですね。

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COMMENT:
AUTHOR: はねもね
DATE: 02/01/2011 11:15:12
★mapleさん
欲望を昇華して芸術にまで高めたといえば、谷崎潤一郎をまっさきに思い浮かべてしまいました。変態を芸術にまで高めた並々ならぬ執念には感服しますね(^_^;)

最近では村上隆がそうでしょうか。私には全く理解できませんが、ルイ・ヴィトンのコラボは順調に続いていますしベルサイユ宮殿にも飾られましたから、ヨーロッパの人にはウケがいいんでしょうね。私はあの射精する少年のフィギュアをタダでもらっても困るだけなんですけどね。。。

コメント

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