フランス人質事件でイラク邦人人質事件を思い出した

5月10日、フランス政府はアフリカ西部のブルキナファソで人質救出作戦を行い、フランス人2名、アメリカ人1名、韓国人1名を救出したと発表しました。救出作戦の際に、フランス特殊部隊の2名が死亡したことが合わせて伝えられ、フランスは悲しみに包まれているそうです。このフランス人2名は、フランス外務省が渡航禁止の勧告を出していた、隣国ベナンの地域にいたことがわかっています。フランスではこのフランス人2名に対して、SNSを中心に批判が集まっているようです。このニュースを見ていると、2004年に日本で起きたイラク邦人人質事件を思い出しました。

※救出された人質

イラク邦人人質事件の概要

2004年4月8日、カタールのテレビ局「アルジャジーラ」が、誘拐された日本人3名の映像を放送し、犯人グループの要求がイラクに駐留する自衛隊の撤退であることが報じられて大騒ぎになります。被害者家族が自衛隊の撤退を訴えるなか、4月10日に小泉首相は自衛隊は撤退しないことを明言し、政府として人質救出に全力を挙げることを約束します。



犯人グループから何度か人質が納められた映像が送られ、政府は地元の有力者を通じて交渉を行い、4月15日に人質3人が無事解放されました。被害者3人は外務省が渡航禁止の勧告を出していたイラクに入っていたことから、事件発生直後から自己責任論が噴出し、帰国後も被害者に批判が集まったことでも注目されました。これは海外にも報じられ、アメリカの新聞に「jikosekinin」などの言葉が紹介されました。

自己責任論の背景にあったもの1 狂言説

事件発生直後から、この事件は狂言誘拐なのではないかといった声がネットを中心に集まっていました。これらの声は政府官邸にも届いていたようで、それが福田官房長官の自己責任発言につながったという見方もありました。狂言ではないかと言われた理由は以下の通りです。

※会見する小泉総理

1.3人がイラク入国直後に誘拐され、翌日に犯行声明映像が送られてくる手際の良さ
2.イスラム歴ではなく西暦を使っていた
3.西暦を使うアラブゲリラは珍しいと日本で報じられると、すぐにイスラム暦の声明が出た
4.犯人側が日本の国内事情に詳しい
5.自衛隊撤退の要求が出ると、すぐに国内で撤退要求デモが始まった(警察の道路使用許可をもらうのに、大抵は1週間以上かかる)
6.事件前に被害者の一人が「ヒミツ大計画!」と称して、「歴史に名前を残す大事業」「そのうち日本でもニュースになる」などと書き込んでいたこと

他にも色々ありますが、これらの点から狂言誘拐ではないかという人が多くいました。

自己責任論の背景にあったもの2 家族の態度

被害者家族が東京に集まり、記者会見を開きました。犯人側の要求である自衛隊の撤退を訴えました。この記者会見に多くの人が違和感を持ち、被害者に対して同情的になれなかったと言われます。当時、私もこの記者会見を見ながら呆気にとられた記憶があります。記者会見の後も家族がメディアの取材に答えることがありましたが、家族が喋れば喋るほど反感が高まっていきました。

1.家族がこれだけの騒動を起こして謝罪などは一切なし
2.救出活動を行っている日本政府を激しく批判する
3.考えられる手段は全てとって欲しいと訴える反面、米軍の介入を断固として拒否した
4.日本政府を激しく批判する反面、犯人グループに対する批判は一切なかった

被害者家族は人質になった家族の心配より、自衛隊の撤退について触れることの方が多かったのも、違和感を覚える原因の一つになりました。また東京に着くとすぐに記者会見、署名活動の開始など手際が良かったことから、背後に何らかの支援団体がいるとも噂されました。

自己責任論の背景にあったもの3 人質の態度

無事に解放されて喜びに包まれるはずでしたが、人質になった3人の様子を伝える映像や記者会見の様子に違和感を覚える人たちがいました。

※解放された人質達

1.タバコを片手に関係者と挨拶をする
2.飴を加えて記者の質問に応じる
3.再びイラクに行きたいと発言する
4.釈放された人質の血色が良く、食事やシャワーを与えられていたと思われた

再びイラクに行きたいという発言に関しては、小泉首相も「なんでそんなことを言うんでしょうね」と驚きを隠さずに言っていました。もちろん無事に解放されたことを喜ぶ声も多くありましたが、これらの言動に違和感を覚える人も少なくなく、批判を展開する人もいました。

海外メディアの反応

日本で自己責任論が巻き起こる中、アメリカのパウェル国務長官は「イラクの人々のために、危険を冒して現地入りをする市民がいることを、日本は誇りに思うべきだ」と発言し、アメリカの各メディアもこれを報じました。ニューヨークタイムズは「(人質である)彼らの罪は、人々が『お上』と呼ぶ政府に反抗したことだ」と報じ、ロサンゼルスタイムズは小泉首相が渡航禁止勧告を無視した人質を批判したと報じています。

※コリン・パウエル

ヨーロッパでも人質の3人を擁護する論調が多く、フランスのル・モンドは「外国まで人助けに行こうとする世代が日本に育っていることを示した」と、被害者らを擁護する記事を掲載しています。このように欧米のメディアは人質を擁護すると同時に、人質を批判する日本の特殊性に驚いている様子が伝わっていました。

フランスは変わったのか

日本人が誘拐されたイラク邦人人質事件の際には、フランスは人質に同情的で人質批判を批判していました。しかし今回のフランス人救出劇では、フランス国民が渡航禁止地域にいたフランス人を批判していると言われています。もっとも私が読んだ記事の大半は中国経由か韓国経由で、AFPなどフランス経由の記事ではないので、確度が少し下がるとは思います。しかし批判が事実だとすると、この15年ほどでフランスの態度は変化したことになると思います。

もっともフランスは日本に比べて個人主義が明確に出る国なので、多様な意見があって当然ですし、イラク事件の時は日本だって批判する人ばかりではありませんでした。多様な意見の一つとして考えるのが妥当な気もします。

まとめ

ブルキナファソの事件で、15年前の事件を思い出してしまいました。イラクでは他に何人もの日本人が誘拐され、命を落とした人もいます。私は政府が危険だという場所に行くのは基本的に反対ですが、そこに行かなければならない事情を抱えた人もいるだろうとは思います。そういった人たちを一括りに語るのは、これも少し違うような気もします。

一方で、そういう場所で拉致された国民を政府が守るのは当然だと胡坐をかくような姿勢も違うと思います。イラク人質事件の際も、仲介役の地元の有力者が死んでいます。救出は命がけで高いリスクがあるということを踏まえて行動しなくてはいけないと思います。


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