バイクレースは世界中で行われていますが、世界一危険なレースとしてGPライダーからも恐れられているのがイギリスのマン島で行われるTTレースです。TTはTourist Trophy :ツーリスト・トロフィーの略で、1904年から続く伝統と権威のあるレースです。今回は毎年初夏に行われる最もクレイジーなレースを紹介したいと思います。
市街地を最大時速350km/h以上で駆け抜ける、常軌を逸したオートバイレースです。多数の死者がでていますが、このレースが中止になる気配がありません。
TTレースの歴史
20世紀初頭、国別対抗の自動車レースであるゴードン・ベネット・カップが人気でした。その出場者を選抜するためにマン島での自動車レースが考案されました。イギリス王立自動車クラブは、マン島の領主に公道でのレース開催を要請して認められました。
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※当初は自転車にエンジンがつけたようなマシンでした。 |
1907年からオートバイのレースがマン島で行われることになり、ノートンやトライアンフといったイギリスのオートバイを使ったレースが行われるようになります。コースやレギュレーションの変更を重ね、現在に至ります。1959年にはホンダが日本のメーカーとして初参戦し、1961年には優勝してホンダの名を世界に示しました。
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※1959年に参戦したホンダ |
危険なコース
かつてTTレースは世界ツーリング選手権(オートバイレースの世界最高峰)の1レースでしたが、1970年代前半には多くのライダーがコースが危険すぎるという理由で出場を辞退しました。現在も高速で走り抜けるには路面の整備が追いついておらず、危険すぎると出場しないライダーは多くいます。
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※石垣の側で跳ねるマシン |
狭い公道を走るため、エスケープゾーンがなく石垣や塀などがあります。転倒は死に直結し、観客を巻き込んでの事故が何度も起こりました。整備されていない路面はバンピーで、高速で走るマシンは跳ねて捻れます。暴れるマシンを押さえつけ、わずかなミスや一瞬の判断の遅れはマシンを制御不能にし、時速300km/hで壁に叩きつけられるのです。これまでの死者は250人を超えています。
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※観客との距離が近いのも特徴です。 |
コースの名所
バラフ・ブリッジは時速200km/hオーバーで進入する坂道で、マシンは大きくジャンプして着地時にはマシンが左右に激しく揺さぶられるチャタリングが起こります。そうなると制御できないままコントロールを失い、石垣や歩道に叩きつけられることになります。バラフ・ブリッジは最も死亡事故が多い場所になります。
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※バラフ・ブリッジで跳ね上がるマシン |
フェアリー・ブリッジは名前の通り妖精が住んでいると言われる場所で、妖精に挨拶しないといたずらをされると言われています。ここも事故が多い危険なエリアです。
なぜこんな無謀なレースを続けるのか
伝統のレースであると同時に、世界で最も観客が熱狂するレースです。近年では安全面からコースと観客席の間には大きなエスケープゾーンが設けられていますが、マン島では手を伸ばせばライダーに触れられるほど(実際には速すぎて触れませんが)近くからレースを見ることができます。そのため観客を巻き込んだ事故も絶えませんが、スリルを優先するファンは毎年のように押し寄せていきます。
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※TTレースでのクラッシュ |
マン島TTレースの勝者は、世界ツーリング選手権の勝者とは違った尊敬を集めます。あるレーサーによると、レースというよりエベレスト登頂などの冒険に近いということで、死の危険も折り込み済みだといいます。そしてスポーツというより伝統の祭りに近い側面もあり、平均して毎年2人から3人が亡くなるというレースとしては異常な危険さも顧みずに行われています。
まとめ
圧倒的な迫力に魅せられて、毎年多くの観光客がマン島を訪れています。この熱気は、かつて4輪レースで盛んだったグループBに似ています。市街地をモンスターのようなマシンが爆音とともに疾走し、観客はマシンのすぐ側でレースを体感できるからです。
危険すぎるために見直しや中止の声が挙がることもありますが、TTレースはなんらかの形で続いていくでしょう。そしてこのような古典的なレースが残っていることが、世界的にも希有で貴重なことだと思います。
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