革製品の質が下落した理由 /狂牛病と認識の変化

カバン、靴、手袋、ベルト、手帳カバーなど革製品が溢れています。しかしここ10年ほどの間に革の質が下がったという声が増え、実際に革の品質は低下しているようです。今回は、なぜ急激に革の質が低下したのかを考えてみます。






原皮とは

動物から剥いだ皮です。これを鞣して革になります。牛を中心に馬やワニ、トカゲやサメなんかも革製品に使われていますね。今回は革製品の主流である牛を中心に書いていきます。

※牛革の原皮

牛の原皮のほとんどは、食肉用に屠殺された牛のものです。牛肉を食べる文化は、どんどん拡大しているため原皮の量も増えています。

狂牛病の猛威

BSEとも呼ばれる牛の脳に空洞ができて死に至る病気は、2000年頃に欧米で大流行しました。BSEに感染した牛の肉を食べることで、人間にも感染するとされたことからパニックになります。

※狂牛病で立てなくなった牛

牛肉を大量に消費するアメリカは、いち早く対策を決めます。特定危険部位と呼ばれる脳や目、脊髄などを除去するとともに、30ヶ月齢の牛にBSEの発病が多いことから、30ヶ月齢の牛には厳しい制限をつけました。そのため多くの肉牛が、生後3ヶ月で屠殺されることになります。

※危険部位(京都府のwebサイトより)

食肉業者は、30ヶ月で十分な量の肉をとれるように、高い栄養を与えて丸々と太らせることにします。牛のサイズは大きくなり、年齢も低い牛からは分厚い原皮は取れなくなりました。

高級志向の変化

かつてソファや車のシートの最高級品は、ベルベットを貼られたものでした。しかしこの10年ほどで、革張りが最高級品とされるようになりました。かつてロールスロイスも、運転席は革張りシートで、主人やゲストが座る後部座席はベルベットでしたが、今では後部座席も革張りになっています。

※ベルベット

これはかつての馬車の流れを汲んでいて、馬車を運転する御者は、外で雨に打たれることもあるのでロウや油で防水加工された革のシートに座り、客室はベルベットのシートでもてなしていたことによります。革は馬鞍にも使われ、高級品というより実用品として扱われていたのです。

※馬車

近年になって革が高級品という風潮に変わったため、2つの現象を引き起こしましたた。1つはこれまで取引が少なかった自動車メーカーが大量に革を買い付けるようになったこと。もう1つは革ならなんでも高級という風潮が出てきて、安価な革が大量に出回るようになったことです。

※こちらはベントレーのベルベットの後部座席

自動車メーカーの大量使用

皮を鞣して革にする業者をタンナーと呼びます。タンナーにとって自動車メーカーは、とても良い顧客になりました。大量に買ってくれるうえに、顔料で革の風合いを殺すので革表面の虫刺されの痕や擦り傷など、ほとんど気にせずに買ってくれるからです。

※ロールスロイスの総革張りシート

その反対に靴のメーカーなどは、革の風合いを活かした造りをするので、わずかな虫刺され痕があるだけで検品ではじき少量しか買ってくれません。これは材木屋と楽器メーカーの関係に似ていますね。買う量が少ないのに、やたら品質や見た目にうるさいのです。

※こちらの靴はジョン・ロブです。

なぜ自動車メーカーは革の風合いを殺すかというと、風合いを出す染料で仕上げると服に革の色が移ってしまうからです。そのため自動車シートは、革の風合いが消えるほど分厚く顔料を塗って、傷に強く色移りもしないようにするのです。

その結果、これまで革製品の主流だったカバンや靴ののメーカーよりも自動車メーカーに革が流れるようになったと言われています。

革ならなんでも高級という風潮

革なら高級という風潮は、これまで商品にならなかったレベルの革も出回らせました。目の肥えた人なら驚くような品質の革が小物を中心に使われるようになり、しかも高値がつくようになります。


ボール紙のような手触り、なんて言われる低品質の革が出回るようになったのは、これまでの革生産と流通の流れが変わったことを意味すると思います。その象徴が、相次ぐタンナーの倒産です。

※タンナー

近年、世界的な老舗タンナーが相次いで倒産したり大手資本に吸収されています。手間暇をかけて高品質の革を製造していたタンナーにとって、良質な原皮の獲得がなによりも大事なのですが、それが難しくなっています。世界的に肉食が増加し、革製品が大量に売られているにも関わらず、良質な革を生産してきたタンナーかどんどん倒産するのは、なんとも皮肉な現象だと思います。

まとめ

私が革に対する意識の変化を感じたのは、ファッション雑誌やネットの情報からでした。イギリスのブライドルレザーは、馬具にも使われる実用性を追求した頑丈な革ですが、これを高級品のように語る人が増えて革への意識が変化してきたと感じました。それは段ボールを高級和紙のように扱うような違和感ですが、世の中の流れはそのように変わってきているのです。

革製品の未来はどうなるのか?それは誰にもわかりません。私も革製品は大好きですが、食肉で塗擦された牛を隅々まで使うという人の知恵と、命を大事に扱う文化から生まれたという意識を忘れてはならないと思います。


※ガンゾは良質の革を使うことで有名です。


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コメント

  1. 近年、同じ様な事を感じていました。革製品を販売して30年以上経ちますがここ十数年良い革は無くなりましたね、悲しい限りです。お客様も無くすのではなく値段を上げても良いので作って欲しいと思っていますという声を聞きます
    売れない時代、経年して愛着のでる革では無く唯々消耗していく商品を見るのは辛いものです

    返信削除

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