判断に迷ったら竜崎署長に聞け! 小説「隠蔽捜査」
私は今野敏の「隠蔽捜査」シリーズのファンで、新作が出ると欠かさず読んでいます。今まで6作の長編と2作の短編集が出ていて、2005年から高い人気を誇っています。この小説は娯楽としてスカッとする面白さがありながら、ビジネス書として読むことも可能なので、サラリーマンに人気が高いようです。硬直した組織の中で、何ができるのかを知る手がかりになるのです。
「隠蔽捜査」は警察小説ですが、事件の謎を解くのがメインではありません。主人公でカチコチの警察官僚の竜崎伸也の人間ドラマであり、竜崎に翻弄される周囲の人達のドラマです。竜崎はキャリア官僚で、自分を普通の人間ではなくエリートだと自認しています。息子が大学受験で東大に落ちると「東大以外は大学ではない」と、私立大学に行かせずに浪人させました。
娘が上司の息子と付き合いだした時には、結婚したら都合が良いと娘に言い、出世を強く望んでいます。家庭は妻に任せきりで、妻に対して「お前は家庭を守ってくれ。俺は国家を守る」と言い切る仕事人間でもあります。いつでも原理原則と合理性を重視するので、家庭だけでなく警察組織内でも変人と言われています。
※杉本哲太さん主演でドラマ化されましたが、本書の面白さは再現できていませんでした。 |
竜崎は嫌な官僚の典型的な人物で、普通の小説なら敵役になりそうな人物です。その竜崎が事件に巻き込まれる中で、更正していく話かと思ったら逆でした。竜崎は最後まで官僚としての信念を押し通し、エリートとして行動していきます。読み進めていくと、冴えない中年で嫌みな官僚の竜崎を、思わず応援してしまうのが本書の面白さ、巧さなのです。
竜崎は常に判断に迫られ、それを合理的に判断していきます。家族が不祥事を起こしたとき、上司から不正をするように圧力をかけられたとき、利害が対立する組織の板挟みになったとき、自分を陥れようとする嫌な上司に遭遇したとき、エリートとしての矜恃を忘すれることなく、原理原則からブレずに決断を重ねます。ここら辺りの考え方が、ビジネス書として読まれている部分でしょう。
※陣内孝則さん主演でドラマ化されたこともあります。 |
竜崎の理解者でありながら竜崎が嫌っている伊丹刑事部長や、変人の竜崎をなんだかんだで応援する家族、2作目からは癖のある刑事なども加わって、人間ドラマとしても面白みを増しました。警察小説ですから犯罪が起こり、謎解きも含まれます。しかし本質は人間ドラマであり、竜崎伸也の生き方や考え方を楽しむ小説です。
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