メーデー シーズン14 自家用ジェットの悲劇

ナショナルジオグラフィックで放送されている「メーデー!:航空機事故の真相と真実」から、気になったエピソードを解説します。

※墜落現場

概要

日時:1999年10月25日 午前8時30分
場所:オーランド国際空港
機体:リアジェット社のプライベートジェット機 リアジェット35
乗客:プロゴルファーのペイン・スチュワートと関係者

事故の発生

リアジェット35は9時10分頃離陸しますが、14分後に管制官の呼びかけに応答しなくなります。他の飛行機からの呼びかけにも応答せず、管制官はNTSB(国家安全運輸委員会)に連絡します。飛行航路には大都市が連なり、墜落すれば大事故に繋がる可能性があります。

※事故と同型機のリアジェット35

NTSBは空軍に支援を要請し、空軍はF16戦闘機を飛ばしました。F16はリアジェット35を観察し、エンジンに異常がなく管制灯なども正常に点いていることを確認します。さらにリアジェット35を追い越してジェット気流を浴びせ、リアジェット35の機体を揺らしてみますが反応がありません。さらにF16のパイロットはリアジェット35のコックピットの大半が内側から霜で覆われていることを発見します。

12時10分頃に燃料が尽き、エンジンが停止したリアジェット35は墜落を始めます。サウスダコタ州アバディーンの牧草地対に墜落し、乗員乗客の全員が死亡しました。ツアー優勝で復活を遂げたばかりのペイン・スチュワートが死亡したことで、衝撃が走りました。

※ペイン・スチュワートは人気選手でした。

NTSBの調査開始

墜落現場に到着したNTSBの調査員は、飛散した飛行機の部品を徹底的に探して集め出します。NTSB本部では調査員のボブ・ベンソンが事態の整理を始めました。

F16からの報告によると、エンジンは正常、電気系統も正常、リアジェットの高度が大きく変動しているので、オートパイロットが上昇モードだったと推察されます。窓の9割以上が霜で覆われていたということは、機内の温度が急激に下がった可能性が高く、機内で急激な減圧が起こった可能性がありました。

※F-16は急接近して観察しました

ボイスレコーダーの回収

墜落現場からボイスレコーダーが回収され、墜落までの最後の30分間の機内の様子がわかりました。話し声は全くなく、墜落30分前には機長と副機長は意識を失っていたか死亡していたことがわかりました。そして会話の代わりに機内の減圧を知らせるアラームが鳴り続けていたことがわかりました。やはり機内は減圧に見舞われていたのです。機長と副機長は酸素不足になり、死亡した可能性が高まりました。

高度が1万フィードを超えると、気圧が下がるので機内は気圧を上げています。これを与圧といい、機体に設置された与圧装置によって行われます。与圧されていなかったということは、与圧装置が途中で壊れたか、最初に弁を開けるのを機長が忘れたか、2つの可能性が考えられました。

管制官との無線通信記録

最初から弁を開け忘れていたなら、高度1万フィートを超えたところから酸欠の症状に見舞われたはずです。そこでボブ・ベンソンは管制官との無線記録を聞き、口調や発音に変化がなかったか確認しました。

高度1万フィートを超えても管制官とやり取りする副機長の声には変化がなく、弁の開け忘れの可能性は否定されました。最後の通信から応答しなくなる4分間の間に、急激な減圧が起こったことがわかりました。

酸素マスクの謎

機内には酸素マスクが設置してあり、減圧が起こって酸欠になったら酸素マスクを使用するはずです。酸素マスクに異常があって呼吸ができなくなった可能性があります。ボブ・ベンソンは整備記録を取り寄せて確認しますが、酸素マスクに異常は見られませんでした。なぜ機長と副機長は酸欠になりながら、酸素マスクを使わなかったのでしょうか?

フライトシミュレーターによる事故の再現

ボブ・ベンソンはフライトシミュレーターを用いて、事故を再現することにしました。急激な減圧が起こり酸欠が始まると、個人差はあるものの15秒後には思考力の低下が起こります。減圧を知らせるアラームが鳴ってから15秒間に何があったかを再現するのです。

アラームが鳴るとボブ・ベンソンは規則に従って非常時チェックリストを開きました。そこでベンソンは混乱してしまいます。冒頭から4行に渡って難解な文章が書かれていていたのです。要約すると、まず減圧の問題を解決し、解決できなければ酸素マスクを使えとなっていたのです。十分な酸素があるシミュレーターの中でもベンソンは混乱しました。急激な酸欠に襲われている機長と副機長は、どうしたら良いかわからず大混乱に陥っただろうと推測できました。

ベンソンは、チェックリストに書かれている指示は順番が逆だと感じました。まず酸素マスクをつけて、それから減圧の対応をやるべきだと考えたのです。

NTSBによる是正

NTSBは減圧が起こった直接的な原因を特定できませんでしたが、チェックリストが事態を悪化させて墜落に繋がったと結論づけました。リアジェット社に対して、チェックリストの改正を協力に要請しました。連邦航空局(FAA)はこの件を深刻な問題と受取り、全メーカーにチェックリストの見直しを徹底させることにしました。

感想

航空機では非常時マニュアルは頼みの綱で、警報に応じてチェックリストを開いて対応するように訓練されています。そのチェックリストが非常時に混乱を招くようなものであれば、事態を悪化させるのは当然のことだと思います。

マニュアルやチェックリストを作る際には、使用者がどういう状況で使用するかという想定が必要だということを改めて感じさせられました。


「メーデー」はhuluでもご覧になれます。


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