メーデー シーズン10 アメリカン航空191便

ナショナルジオグラフィックで放送されている「メーデー!:航空機事故の真相と真実」から、気になったエピソードを解説します。

アメリカン航空191便が、離陸直後に墜落した事故を追ったドキュメンタリーです。

※アメリカン航空191便墜落の瞬間

概要

日時:1979年5月29日 午後3時頃
場所:シカゴ・オヘア空港
機体:マクドネル・ダグラス DC10
乗客:271名
死者:273名(格納庫にいた2人を含む)

事故の発生

オヘア空港を離陸したアメリカン航空191便は、そのまま大きく左側に傾き、旋回しながら高度を落として空港の格納庫に突っ込みました。管制官は離陸直後に左エンジンが脱落しているのを目撃しています。乗客乗員271名に加え、格納庫にいた2名も死亡する航空機史上最悪の事故となりました。

※事故を起こしたものと同型機DC10

国家安全運輸委員会(NTSB)の捜査開始

管制官の証言通り、滑走路で脱落した左エンジンが見つかりました。さらにNTSBの捜査官は、格納庫でさまざまな部品の残骸を集めます。その中にはボイスレコーダーやフライトレコーダーも含まれていました。



NTSBは滑走路で発見された折れたボルトがエンジン脱落の原因だと、記者会見で発表しました。しかしその直後に’呼ばれたNTSBの金属学者マイケル・マークスは、ボルトには金属疲労などの跡がなく、ボルトが折れたから事故になったのではなく、事故が起こった時にボルトも折れたと判断します。

さらにマイケル・マークスは、エンジンをつり下げるパイロンという部品の壊れ方に注目します。壊れ方が普通ではなかったのです。

ボイスレコーダー

回収されたボイスレコーダーの音声が復旧されました。ところがほとんど声は録音されていません。DC10の電源は左エンジンから来ていて、左エンジンが脱落した時点で電力を失っていたので録音されていなかったのです。フライトレコーダーも同様で、ほとんど役に立ちませんでした。

整備記録に注目する

整備記録によると8週間前に、左エンジンが下ろされていることがわかりました。この時に問題がなかったか調査が始まります。さらにパイロンの全部品を調査したマイケル・マークスは、パイロンが金属疲労か繰り返し負荷を掛けられたことで以前からひび割れができていたことを突き止めます。

NTSBの捜査官は、DC10の整備を行っている空港を視察します。そこでメーカーのマニュアルとは異なる方法でエンジンが下ろされていることがわかりました。メーカーはエンジンのみを切り離すように推奨していますが、これには時間がかかります。しかしパイロンごと外すなら3本のボルトで外すことができるので、他の会社でもこの方法がとられているというのです。

さらにエンジンの取り付けにはフォークリフトが使われていました。フォークリフトはせいぜい1センチ程度の制度でしか動かせませんが、エンジンの積み卸し作業には0.1センチの制度が必要です。フォークリフトで取り付ける際に、パイロンを翼にぶつけて金属疲労を引き起こしていたのです。

これでエンジンが脱落した理由がわかりました。

なぜ1機のエンジンが落ちただけで制御不能になったのか

DC10には3機のエンジンがあり、1機がダメになっても離陸は可能です。それなのに制御不能になった理由が不明でした。そこで墜落直前の写真を再検証します。引き延ばして機影を観察すると、油圧の油が漏れて噴き出しているのがわかりました。

※横向きに飛行しているアメリカン航空191便
左のエンジンが脱落した時に油圧系統を破壊し、左側のスラットが出ていないことがわかりました。離陸時はスラットを全て出すので右の翼はスラットが全て出ています。しかし左の翼はスラットが一部出ていません。右の翼は離陸の体勢で、左の翼は離陸体勢ではありません。そのため左が傾いて旋回が始まったのです。

スラットが出ていないと失速するので、より強力な推進力が必要でした。なぜ機長は出力を上げて揚力を得ようとしなかったのでしょうか。

警報は鳴らなかった

DC10にはスティックシェイカーという機能がついていて、失速すると操縦桿が震えてパイロットに知らせます。しかしその警報の電源も左エンジンから来ていたので、スティックシェイカーは機能せず、機長は失速していたことを知らなかったのです。

シミュレーターで事故を再現するために、ベテランパイロットに試してもらいました。ベテランパイロットには、警報装置が壊れていることを知らせていません。左エンジンの出力がなくなり大きく傾き始めると、ベテランパイロットはチェックリストに従って機体を立て直そうとしましたが、失速していることがわからないのでエンジン出力を上げようとしません。その結果、墜落してしまいました。

NTSBの結論

機長は失速を知り得ない状態で、チェックリストに従ったために墜落してしまったのです。機長の過失はないという結論を出しました。一方で連邦航空局(FAA)は、各航空会社にメーカーが推奨する整備をしていないことをチェックしていなかったとして、厳しく糾弾しました。さらにNTSBは電源を1つのエンジンから全て得るのではなく、複数のエンジンから得るように改善することを要請します。

各社はNTSBの報告を受けてDC10を再チェックし、パイロンのひび割れが8機から見つかりました。さらなる悲劇は防がれました。

感想

この事故は整備の手抜きによって引き起こされましたが、各社がメンテナンスの時間と費用を削減したいと思うのは当然のことです。こういったことは、航空会社に限らずどこの会社でも起こる可能性があり、決められた手法を変えることのリスクを思い知らされました。

毎度ながらNTSBの粘り強い捜査には頭が下がります。一つ一つの疑問を系統立って解決していく手法は、あらゆるビジネスに通じるものがあると思います。

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