ニュース番組はどうしておかしくなったのか

報道ステーションでメインキャスターを務める富川悠太アナウンサーが、珍問答を繰り返して批判を浴びたり、ニュース23やZEROでも似たような声が上がることがあります。どこも似たような政府批判を繰り返し、紋切り型の報道番組が増えました。

この紋切り型は、報道番組としては異例の視聴率を誇ったテレビ朝日のニュースステーション(1985年〜04年)の模倣が、今でも続いている面にあると思います。

※ニュースステーションのメインキャスターだった久米宏氏

ニュースステーションは画期的だった

(1)わかりやすいニュース
解説VTRやパネル、フィリップを多用して「中学生にもわかるニュース」を目指しました。現場映像を流し、口頭でニュースを読み上げるばかりの報道番組が主流の中で、これは画期的なスタイルでした。ニュースステーションのニュースは、わかりやすいことが多くの視聴者を引きつけました。

※現在も使われるこれらフィリップボードを多用したのがニュースステーションでした。

(2)女子アナの積極登用
複数の女子アナを積極的に登用しました。当時、女子アナは甲高い声で喋っていましたが、久米宏氏は可能な限り低い声でニュースを読むように依頼し、女子アナに重厚さを持たせました。当初は、何人もの女子アナがいましたが、知的で低音がシャープな小宮悦子氏が、サブキャスターの中心となりました。男性中心だった報道番組の景色を変えたと言われます。

※小宮悦子さんは男女問わず人気がありました。

(3)キャスターが私見を言う
ニュースの後に久米宏氏が、庶民目線の私見を入れるのが特徴でした。堅苦しいニュースの中に、ニヤリとしてしまうコメントやボヤキで何度も話題になります。例えばレーガン米大統領と中曽根康弘総理の初会談で、互いを「ロン」「ヤス」と呼び合うことにしたというニュースを、久米宏氏はこんな風に締めくくりました。

「初めて会って、すぐに意気投合しても、互いに名前で呼び会えるんですかね? 私は小宮(悦子)と10年以上一緒に仕事をしていますが、未だに悦子・宏とは呼びあえません」

ロンヤス会談を皮肉った痛烈な一言として、週刊誌などの他の媒体でも話題になりました。

(4)出演者の趣味嗜好をそのまま出していた
キャスター、サブキャスター、解説員、ゲストまで、自分の好みをそのまま出していました。特にスポーツコーナーでは顕著で、プロ野球の結果は、それぞれがひいきのチームの結果に一喜一憂していました。

久米宏氏がゲストと対談する際は、報道番組らしからぬ話題でも取り入れていました。極端な例としては、漫画家の黒鉄ヒロシ氏は、若い頃の自慰行為の方法を楽しそうに語っていたことがあります。

ニュースステーションは雛形になった

上記の4つの特徴は、今の報道番組に共通します。つまり今の報道番組は、ニュースステーションの模倣と言って良いかもしれません。報道番組のワイドショー化とも呼ばれましたが、30年以上前に始まったニュースステーションの手法が、今でも続いていることに驚かされます。

そして困ったことに、久米宏氏のキャラクターだからこそ成り立った部分まで、真似をする人達が出てきました。

そして模倣が迷走する

久米宏氏は、難しいことを言うわけでもなく、骨太の議論を展開するわけでもなく、ふと疑問に思うことや、わかりにくいことを拾い上げるのが巧みでした。しかし今では、何かうまい事を言わないといけないと思い込んだキャスターが、無理に言葉を紡ぎだすことがあります。

報道ステーションの古舘伊知郎氏がその典型で、無理に話すのでギクシャクしていましたし、明らかにニュースを理解しないまま話していることもありました。それでは聞いている方も心苦しくなりますし、何より意味がわからなくなります。

後に久米宏はアドリブで喋っているように見える部分も、打ち合わせ通りに話していたことをラジオで語っています。ニュースステーション内でアドリブで喋った記憶は、ほぼないそうです。何を話すか入念に打ち合わせを行い、台本通りに喋っていたわけです。これは久米宏が若い頃にコント55号と共演した時に学んだ手法だそうで、萩本欽一と坂上二郎のコント55号は台本をアドリブで喋るように話していたそうです。

しかしニュースステーションは、キャスターがアドリブで話して番組を盛り上げていると勘違いした人が多く、後続番組の多くでキャスターのアドリブが採用されました。そのため報道内容が散漫になり、ニュースの核心が見えにくいことが増えてしまっています。

※テレビをつけたら、宗教番組でもやっているのかと思いました。。。

最悪なのは、久米氏が時々見せた傲慢さを勘違いして受け取った人がいることです。久米氏は好き嫌いがハッキリと出るタイプで、例えば元東京銀行勤務の解説員、若林正人さんへの言葉や態度は、明らかに嫌いな人に対するもので、バカにしたような言い方を再三繰り返していました。こんなことを真似する必要はないのですが、なぜか偉ぶった態度をとる残念な報道番組を見かけます。

まとめ

ニュースステーションは、当時は画期的な番組でした。わかりやすく、反権力が明確で、出演者が個性を見せる、これまでにない報道番組でした。その話題性の高さゆえに、報道の中立性に疑問を持たれたりもしました。ニュースステーションの視聴率が高いエリアでは、自民党が選挙で苦戦するというデータもあったほどです。

ニュースステーションの功罪は別途検証が必要ですが、報道番組としては異例の視聴率を誇り、一時期は「テレビ朝日を支えているのは、ドラえもんと久米宏」と言われるほどテレビ朝日の看板番組になりました。その成功例を真似るのはわかりますが、どこも同じようなことを始めたので紋切り型になってしまい、さらに悪い面まで真似てしまうのでは面白くもなくなります。

そもそも報道番組に必要なのは何なのか?第四の権力と言われるメディアが、その権力を正しく行使しているのか?そういった基本的なところから見直さないと、ますますテレビの報道番組を見る人が減るような気がします。




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