街に現れた野生動物を麻酔銃で捕獲しない理由
熊やイノシシなど、野生動物が街に現れると依頼を受けた猟友会のメンバーが射殺することがあります。ニュースになる度、なんで麻酔銃を使って捕獲しないのかという声が上がり、動物愛護団体から抗議が来ることもあるようです。確かに麻酔銃を使うケースもあるのに、どうして毎回使わないのかを考えて見たいと思います。
麻酔銃とは
空気圧を利用した空気銃の一種で、ケタミンという薬物が入った注射筒を発射します。ライフル型と拳銃型があり、ライフル型でも有効射程距離は15m程度です。15mというのは野生動物に相対した時には、ものすごく近い距離です。イノシシは最高時速50kmに達します。秒速14m弱です。つまり15mという距離は、1秒ちょっとでイノシシと衝突する距離なのです。体重100kgを超えるイノシシが1秒ちょっとで衝突する距離まで近づくというのは公道を走る自動車の前に立つような行為で、ほとんど命がけになります。
吹き矢式の麻酔銃もありますが、射程が5m以下しかありません。そのため檻の中にいる興奮した動物に使われる程度のようです。街中に現れた野生動物を麻酔銃で撃つには、ライフル型を使うしかありません。
吹き矢式の麻酔銃もありますが、射程が5m以下しかありません。そのため檻の中にいる興奮した動物に使われる程度のようです。街中に現れた野生動物を麻酔銃で撃つには、ライフル型を使うしかありません。
※麻酔銃 |
麻酔銃の資格
薬剤のケタミンは、法律では麻薬に指定される薬品なので一般の人は扱えません。動物に麻酔を使う行為をできるのは、獣医師になります。麻酔銃は産業用銃砲に指定されているので、猟銃のような資格は必要ありません。しかし猟銃と同様に警察への届け出が必要で、毎年警察に持ち込んで更新する必要があります。さらに猟銃と同様に銃と持ち主は紐付けされ、申請した人以外が使用することはできません。
つまり麻酔銃は、獣医師で麻酔銃を所有して警察に申請している人だけが、使用できるのです。そのため大きな動物園に勤務している獣医師ぐらいしか、麻酔銃を申請している人はいないようで、ようするにこの条件を満たす人はごくごく少数しかいないのです。街中に野生動物が現れた際に、麻酔銃を使える人がいないことが大半なのです。
※動物の体重によりサイズ(容量)が変わります。 |
麻酔銃の効果
動物の体重によって麻酔の量を決定します。当たる部位によって効果が表れる時間は変わりますが、10分から数十分かかるようです。当然ですが撃たれた野生動物は暴れます。逃げる場合もありますが、攻撃してきた人間を襲うこともあります。また逃げようとした先に人がいれば、その人を攻撃することもあります。
漫画やアニメでは、麻酔銃が当たって数秒後に意識を失いますが、それほどの効果を得るには麻酔薬を大量に投与する必要があります。そしてそれほどの量を投与すると、眠るよりも死亡するリスクが高まります。実際に漫画のように打った瞬間にコトンと倒れると、死ぬ寸前の危篤状態である場合がほとんどのようです。
漫画やアニメでは、麻酔銃が当たって数秒後に意識を失いますが、それほどの効果を得るには麻酔薬を大量に投与する必要があります。そしてそれほどの量を投与すると、眠るよりも死亡するリスクが高まります。実際に漫画のように打った瞬間にコトンと倒れると、死ぬ寸前の危篤状態である場合がほとんどのようです。
実際の使用方法
人が近づくだけで野生動物には大きなストレスになりますが、麻酔銃の射程距離が短いのでギリギリまで近づく必要があります。銃を撃った経験がある人ならわかりますが、動く標的を撃ってもまず当たりません。だから猟銃も散弾が主流です。麻酔銃を必ず当てるには、相当の距離まで近づく必要があります。
※麻酔銃を持つプーチン大統領 |
人が近づいてストレスが高まっている野生動物は、麻酔弾によって痛みを感じると暴れ出します。そのため射手は撃つと同時に隠れる安全な場所が必要です。さらに万が一の危険を考えて、猟銃を持った人が構える必要があります。撃たれた動物が暴れだして攻撃的になり、見境なく人を襲う場合もあるからです。しかし暴れる野生動物を射殺するのは難しく、二次被害のリスクが一気に高まります。
麻酔銃で撃つには逃げる場所、猟銃の射手が安全に撃てる角度と場所が必要で、そのような理想的な環境があったとしても、野次馬や取材するメディアなど第三者を遠ざける必要があります。民家が近くにある場合は、麻酔銃はほとんど使えないと言っていいでしょう。
麻酔銃で撃つには逃げる場所、猟銃の射手が安全に撃てる角度と場所が必要で、そのような理想的な環境があったとしても、野次馬や取材するメディアなど第三者を遠ざける必要があります。民家が近くにある場合は、麻酔銃はほとんど使えないと言っていいでしょう。
命中したとしても
人里に来たことで普段とは違う環境にいるストレス、人に包囲されたり近づかれたりするストレス、さらに痛みが加わり野生動物のストレスは急速に高まります。そこに体の自由が効かなくなる、未知の恐怖に襲われるのです。この時点でストレスにより死んでしまうケースもあるようです。
死ななければ、不自由になりつつある体を必死に動かして、意識朦朧のまま大暴れするケースもあります。命中させた後も昏睡するまで危険で、予断を許しません。野生動物は必死に抵抗するので、麻酔銃は被害を拡大させる可能性が高いのです。
なぜ麻酔銃を使わないのか
(1)麻酔銃を持った獣医がほとんどいない。
(2)撃つための安全確保が難しい。
(3)命中した後が最も危険。
これらの難関をクリアして、眠らせた野生動物を山に返したとしても、すぐに人里に戻ってくる可能性が高いのです。そもそも野生動物だって危険が多い人里には来たくて来ているわけではありません。山にエサがないなどの理由で、生存の危機を感じて来ているのです。これらの理由で、麻酔銃の出番は動物園の中ぐらいになっているのが現状で、街中で麻酔銃を使うケースはほとんどないのです。
おまけ: スポイルド・ベアーとは?
この手のニュースが流れると、ツイッターを中心に「スポイルド・ベアー」という言葉が見られます。村上龍のベストセラー小説「愛と幻想のファシズム」に出てくる言葉で、人里に降りて来て残飯などを食べる熊のことを指しています。
カナダでは野生動物の保護が厳格にされているが、人里に現れる熊は危険だということで「スポイルド・ベアーは撃ち殺していいことになっている」と、主人公の鈴原冬ニが語る場面がありました。そのため街中に現れた野生動物は射殺して良いのではという議論の中で、スポイルド・ベアーという言葉が出てくるようです。
まとめ
麻酔銃を使うのが現実的ではないことが、お判り頂けたでしょうか。時々、野生動物保護のために役所で麻酔銃を常備しておけば、みたいな話を聞きますが、上記のように申請者しか麻酔銃は使えないので、役所に常備しても他人に貸したら銃刀法違反になってしまいます。
さらにつけ加えると、射殺が安易な方法のように言われていますが、撃つ側も命がけなのです。特に熊のような大型野生動物は危険で、散弾銃では簡単に死にません。大型野生動物を殺せるような銃を持っている人も少数で、手負いのまま大暴れする危険性も高いのです。
さらに街中での発砲は、流れ弾の危険性もあり、撃てる角度が極端に制限されます。仕留められなかったら、射手の命も危険なのです。人里に現れる野生動物は、のんびり歩いているように見えても、生存の危機を感じて山を降りているので、大変危険なのです。安易に麻酔銃を使えと言う方が無責任だと思います。
こちらはマシュマロを発射する鉄砲です。
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