WHOも認めたゲーム障害 /ゲームは脳に障害を与えるのか

かつてゲーム脳という言葉が流行ったことがありました。日本大学の森昭雄教授が出版した「ゲーム脳の恐怖」という本が発端で、テレビゲームをすると脳に悪影響を及ぼすと警告して話題になりました。しかしこの本には科学的な誤りが散見され、似非科学と批判を受けるようになり忘れられていきました。しかし2018年に世界保健機関WHOが「国際疾病分類」にゲーム障害というのを掲載し、再びゲームによる脳への影響が議論されるようになりました。



ゲーム脳は何が変だったのか?

2002年に「ゲーム脳の恐怖」が出版されると、多くのメディアが取り上げてゲームの危険性を伝えました。しかし森教授が独自に作った簡易脳波測定機は医学的な手続きを踏んでいなかったため、正しく脳波を検出しているのか不明でした。


さらに本の中には何度もα波やβ波が登場しますが、脳科学で使われるα波やβ波とは説明が異なり、これらが何を示しているのか不明でした。そもそも森教授は体育学科の教授で、脳科学の専門家ではなかったため、α波やβ波の意味すら理解していないのでは?という疑問が生まれました。

またゲーム脳を支持する柳田邦男(民俗学者の方でもジャーナリストの方でもなくノンフィクション作家の人)をはじめとする人達の論調も、科学的というより感情的なものが多く、やがてゲームを理解できない世代のヒステリーのように扱われていきました。

ゲーム障害とは

オンラインゲーム、オフラインゲームを問わずにゲームに熱中しすぎて生活に支障をきたすことを指します。韓国では86時間も続けてプレイした結果、エコノミークラス症候群で死亡した例もあり、アジアを中心にプレイ時間の規制などが始まっています。

MRIで脳を観察すると、ゲームに依存している人の脳はアルコール依存やギャンブル依存の人と同様の反応を示しているという報告や、前頭葉の萎縮といった症状が見られるという報告もあり、ゲームが脳に悪影響を及ぼしていると言われています。

脳への影響への疑問

脳に何らかのトラブルを抱えている人がいるのは事実でしょうが、そもそも寝食を忘れて1日に何時間も何かをすれば、それが読書であれ絵を描くことであれ、悪影響が出るのは当然だと思います。被験者として例に出てくる人は、1日に20時間もプレイしていたような人の場合が多く、これほど長時間を同じ姿勢で過ごせば体が変になって当然だと思います。

※eSportsの会場

脳への影響に関しては、現在流行のeスポーツの選手などとの比較を見たことがありません。彼らは朝早くからゲームの練習を始め、1日の生活の中心にゲームがあります。彼らの脳も萎縮しているならゲームの脳への悪影響がわかりますが、病人のようになった人の脳を見るだけでは、他に原因がある可能性も否定できないはずです。

ゲーム障害治療への不安

現在、ゲーム障害の治療として、ゲームから完全に切り離すことが多く行われています。1日10分だけゲームをするというのは無意味で、完全にゲームをやらないことが重要なのだそうです。これはアルコール依存の治療と同じで、1杯だけならと呑んでしまうと、再び依存が繰り返すというわけです。アルコールは強力な肉体依存性があるので、完全に切り離す必要があります。ゲームの場合も同じなのでしょうか。


仮に何らかの社会不安や精神的に不安定にさせる要因が別にあり、それによってゲームに没頭しているならゲームを禁止するだけでは不十分です。私はパニック障害と診断された時に、医者から何も考えずにリラックスできる環境を作るように言われました。そこで読書、映画、ゲームに時間を割きました。別世界に没頭できるこれらは、とても気持ちを楽にしてくれました。

現在は読書は流行りませんし、テレビも視聴率を見ればわかるように見ない人が増えました。その代わりに増えたのがゲームやネットです。精神的に問題を起こす要因が他にあり、ゲームに逃げ込む人がいるのは容易に想像できることで、そういった人からゲームを取り上げてもなんら問題が解決しないと思われるのです。私はここに不安を覚えています。

まとめ

ゲームにより脳に障害が起こるのか、問題が生じているからゲームに没頭するのかは、もう少し研究を待つ必要があると思います。単にゲームが脳に悪影響を与えるという話だけならゲームを取り上げてしまえばいいのですが、本当にそれだけで十分なのか疑問が残ります。この問題をややこしくするのは、そもそもゲームを理解していない人が騒ぎ出すことが多く、そのためピンぼけの主張が展開されることです。

読書であれテレビであれ、1日の大半を同じ姿勢で過ごせば必ず体に悪影響が出ます。それを無視した議論も、ナンセンスだと思うんですけどね。

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