下町ボブスレー/ジャマイカ不採用騒動を考える

大田区の町工場が集まり、ボブスレーに挑戦する「下町ボブスレー」は、たびたびテレビでも取り上げられて話題になっていました。町工場が結集して世界に挑戦状を叩きつけたというのは爽快ですし、ぜひ成功して欲しいとも思っていました。しかし無償提供していたジャマイカが、下町ボブスレーを使わないと通告してきたことから騒動になっています。



下町ボブスレーは以下の公式サイトがあります。

なぜボブスレーなのか

以前から疑問だったのですが、東京の大田区の町工場がボブスレーというのはどうしてなのでしょうか?ボブスレーの元選手がいるなど、何かゆかりのある人がいたのでしょうか?上にリンクした公式サイトによると、始まりは以下のように書かれています。

「秋、大田区産業振興協会の職員二人がA4用紙2枚のボブスレーの寸法図を持って現れた。この下町ボブスレープロジェクトはそこからスタートしたのである。」

※下町ボブスレーを支える工場の一つ

これが2011年のことだそうで、各社が作れる部品を持ち寄ってボブスレーを作ることを提案したそうです。ここにはなぜボブスレーなのかは書かれていませんでした。当然ながら苦労の連続で、膨大な時間と情熱が下町ボブスレーに注がれて今日に至っています。

日本代表は不採用

下町ボブスレーは、日本代表の選考に漏れました。数々の改良要望を受け、それを改良したにも関わらずの不採用だったので、関係者の失望は相当なものだったようです。しかしその直後にジャマイカが打診して、今回のジャマイカ代表への無償提供が決まりました。

※痛車とも呼ばれている日本代表のボブスレー

失礼ですが、ボブスレーを舐めてませんでしたか?

現在、ドイツのBMW製ボブスレーは表彰台の常連になっています。レーシングカーの技術者や空気力学の専門家が集まり、最初の試作機ができるまで69回も作っては壊しを繰り返したそうです。さらに実戦投入までには、さらに何十回も作り直しを繰り返しています。おそらくフェラーリやマクラーレンなど、他のボブスレーも同じような状況だったと思われます。

※BMWのボブスレー。コンパクトなボディが特徴です。

下町ボブスレーは多大なる情熱と膨大な時間が注がれていますが、オリンピックを戦う人達は、みな同じく膨大なエネルギーを注いでいるのです。しかもBMWのようにボブスレーは専門外でも、レーシングカーなどの専門家が下町ロケットと同じく、いやそれ以上のエネルギーと時間とお金を使っています。

ワールドクラスの戦いではスペシャリストが切磋琢磨しているわけで、そこに専門外の人が足を踏み入れるなら、その何倍ものエネルギーが必要なはずです。下町ボブスレーのサイトを見ていると、ソリのような簡単な構造なら自分たちにもできると安易に考えたような気がしてしまいます。

そして今回の下町ボブスレーは、これまで注いできた情熱や努力が浪花節的に語られていますが、ボブスレーであれスキーであれ、自転車競技、カヌー、ヨット、全ての競技において言えるのは、現在の速さしか評価されないということです。その過酷さや厳しさを理解していなかったのではないか、と思ってしまいます。

そもそも下町ボブスレーの目的は?

オリンピックの舞台に大田区の工場製のボブスレーを登場させることで、大田区の認知度を上げてビジネスに繋ぎたかったようです。これは多くの人が指摘していますが、あのボブスレーからは、どこにどんな大田区の技術が使われているのかわかりません。

※下町ボブスレーのパーツ

風洞実験で繰り返し性能テストを行い、空力の効率化を徹底してコンマ1秒を削るボブスレーにおいて、強いボブスレーで最初に注目されるのはデザインです。しかし下町ボブスレーがアピールしたいのは金属加工や研磨や板金の技術です。オリンピックで金メダルをとったとして、大田区の町工場に仕事が舞い込むかというと、かなり疑問が残ります。

新潟の小林研業は、田んぼの中にある小さな金属研磨業社です。小林研業が有名になったのはiPodの裏面の研磨でした。4年間で250万個のiPodを手がけて、技術の高さと大型受注にも耐えうることを証明しました。こうしたわかりやすさが下町ボブスレーにはありませんでした。

※iPodの鏡面磨きの美しさは世界中で賞賛されました。

法的措置は契約なら仕方ないが

報道によると、ジャマイカとの契約はオリンピックで使用しない場合は一台につき6000万円もの違約金が発生するようになっているそうです。こんな契約を結んだのなら、ジャマイカの大きなミスですが、締結したのなら違約金は仕方ないと思います。

※映画「クールランニング」のジャマイカ代表

しかし裏を返せば、違約金のリスクをとっても下町ボブスレーを使いたくないと判断したわけで、いくら大田区側が「速度はラトビア製と変わらないし、安全性も問題ない」と主張しても、なかなかその通りには思えない面があります。下町ボブスレーがオリンピックに賭けていたのと同様に、ジャマイカだってオリンピックに賭けているのです。

契約にあるなら違約金を請求して、開発費の回収にあてるのもいいでしょう。しかし騒げば騒ぐほど、技術力の低さをアピールすることになりかねません。もしジャマイカが法廷で戦う姿勢を見せれば、イメージが悪くなるのは下町ボブスレーの方になるでしょう。

まとめ

タイムを競うスピードレースの世界は、遅い者が淘汰される非情な世界です。F1のホンダでさえ遅いという理由でマクラーレンから切られました。人々の熱意や努力や過去の実績は一切評価されず、現在の速さだけが評価されます。逆に言えば、全く実績がない無名の人達が作っていても、速さを示せば歓迎される公平な世界でもあります。

2012年から本格始動した下町ボブスレーのプロジェクトが、わずか6年で世界最高峰の舞台に立つというのも早すぎたようにも思います。ボブスレーはこれまでにも多くの企業が参戦しては撤退を繰り返していたそうで、時間とお金がかかる割には利益が少ないようです。下町ボブスレーが本気で世界最高峰の舞台で戦いたいなら、ここからがスタートになるのではないでしょうか。

追記
このプロジェクトには、彼らの挑戦に共感して名前を出さずに協力している大企業がいるように思います。設計には空力デザイナーが必要ですし、風洞実験できる設備を持っている企業は限られています。そして風洞実験の結果の解析には大型のコンピュータが必要になります。そういった支えがあってのプロジェクトですから、後味の悪いものにはして欲しくないと思いました。


関連記事:競技者のほとんどが使う日本のスキー板/ 下町ボスブレーと何が違う?



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コメント

  1. 下町ボブスレーは本当は北極の島の工場とウガンダの軍閥の選手の話である。

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