騒動の演出家はいたのか? /山口真帆の危機の乗り越え方

最初にお断りですが、本記事は山口真帆さんを批判するものではありません。暴漢に襲われ、所属事務所や所属グループに不信感を抱き、必死に抗った結果、新たな移籍先を手に入れたことで良かったと思いますし、報じられていることや噂されていることが全て事実なら、本当に気の毒だと思います。同時に、23歳の女性がこれほどの危機を、よく乗り越えたものだと感心してしまいました。彼女の抵抗は効果的で、大人が戦略を描いていたのではないかと思うほどでした。


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最初の衝撃 動画配信

SHOWROOMを使い、事の顛末を動画で話して配信しました。涙ながらに訴える姿は衝撃的で、すぐにネットに拡散されてテレビも追随しました。動画は途中で途切れてしまい、運営側に落とされたようにも見え、それが信憑性を増すことになります。声が震え、泣きながら話しているため、何を言っているかわからない部分も多いのですが、本人が泣きながら境遇を訴えることに意味がありました。


さらに翌日、ツイッターで改めて事の顛末を説明します。この内容も衝撃でした。

・家に入ってドアを閉めようとしたら、手が伸びてきて男が押し入ってきた。
・顔を掴まれて押し倒されそうになり、殺されると思って抵抗した。
・(NGT48の)他のメンバーが住む部屋から別の男が出てきて、その男も顔を掴んで押し倒そうとしてきた。
・エレベーターが開き、男たちの気がそれた時に、廊下に逃げだせた。
・警察に通報しようとしたら、携帯を取り上げられた。

暴漢に襲われたというだけでも衝撃ですが、他のNGT48メンバーも関与していることをうかがわせる内容で、ツイートだけならにわかに信じられなかったかもしれません。号泣する動画があったからこそ、この内容は信憑性を持ちました。テレビも繰り返し、号泣する姿を映し出し増す。

共犯者の特定

ネットは色めき立ち、犯人探しが始まります。そして犯人に協力したNGT48メンバーは誰かという話しになりました。共犯メンバーは簡単に特定されます。動画配信後に、山口真帆本人が4人のメンバーのツイッターのフォローを解除していたからです。当然ながら、この4人が怪しいということになりました。



ネットではこの4人に関してサルベージが始まり、次々に怪しい投稿が見つかります。また山口真帆を揶揄したような投稿も見つかり、この4人は疑わしいメンバーから、限りなく黒に近いメンバーとして認識されました。

3周年記念公演

動画投稿とツイッターでの告白以来、沈黙していた山口真帆本人が公の場に姿を表します。大歓声に迎えられたそうですが、彼女が発したのは謝罪でした。


「このたびはお騒がせしてしまい、申し訳ありませんでした」

「私にも思うことがあったから、このような形で伝えることになってしまいました」

と、涙ながらに謝罪し、あちこちから怒りの声が噴出しました。なぜ被害者が謝罪しなくてはならないのか?沈黙している運営は説明するべきだと、もはやファン以外からも怒りの声が出るようになります。テレビのワイドショーもこれを伝え、世間は山口真帆に味方するようになります。

この謝罪までは、アイドルグループの痴話喧嘩が大袈裟に伝えられているという見方もありましたが、被害者が謝罪する光景の異様さは、この事件の根深さを物語っていました。この事件に関する報道は、この謝罪から一気に増えたように思います。

運営の悪手

運営側に批判が集まり、ついに公式にコメントを出します。釈明は言い訳がましく、今後の対応はメンバー全員に防犯ベルを支給するというもので、さらなる批判が起こります。以降、運営は全てにおいて後手に回り、その全てが悪手という稀有な対応を重ねることになります。

この時点でイニシアチブは、山口真帆が握りました。しかし彼女は再び沈黙します。沈黙が彼女の心理状態を心配する声に繋がり、運営が語れば語るほど、そのずさんさが浮き彫りになっていきます。もはや運営を味方する声は皆無になり、共犯とされるメンバーへの批判が高まりました。

文春砲の不発

スクープに定評のある週刊文春が、この事件に関してスクープを掲載しました。事件の関与が疑われているメンバー、太野彩香と西潟茉莉奈はシロというものです。ところが、この報道は不発に終わります。ネットでは暴行犯メンバーが、文春にたびたび情報をリークする情報屋であり、リークのネタ元であるメンバーを庇っている記事だとネットではまことしやかに噂されました。


文春もグルになって山口真帆を貶めようとしているという風潮ができ、孤立無援の中で戦っている山口真帆を支援しようという声が広がりました。沈黙している間に、山口真帆支持派は加速度的に増加し、疑惑のメンバーがテレビに出ると批判が殺到することになります。

無言の攻撃

沈黙した山口真帆ですが、AKSが立ち上げた第三者委員会は全く意味がないというツイートをリツイートして話題になります。山口真帆も第三者委員会に、なんら期待してないことが一言も発せずに伝わりました。さらに彼女は自身のツイッター画面からNGT48の文字を削除しました。いよいよ脱退するのかと、こちらも話題になります。

後に「いいね砲」と呼ばれる、AKSを批判する投稿に山口真帆が「いいね」をつけることで、本人の気持ちを伝えていました。あれこれ書くよりも、リツイートする、いいねをつける方が、読み手にさまざまな想像をかき立てて効果的だったと思います。

会見反論ツイートの衝撃

沈黙を保ってきた山口真帆がコメントを出したのは、第三者委員会の報告を受けてAKSが開いた記者会見の最中でした。AKSの発表に関して、事実と違うと反論してツイッターに投稿したのです。



・謝罪は運営から指示されて行った。
・謝罪の内容も指示された。
・ファンと繋がっているメンバーは解雇すると約束していた。
・事実と確認を行わず、虚偽の説明をしている。

記者会見の最中に、当事者が反論するのは前代未聞で、記者はツイート内容に即して質問し、AKSが答えられずに沈黙する場面が何度もありました。この記者会見が行われたのは、イチローの引退会見と同日で、運営はこの日ならニュースで話題になりにくいと考えていたでしょう。しかし山口真帆の反論で、このニュースはイチローの会見と同様に大きく報じられることになります。

さらなる爆弾の投下

この会見の後に、モバイルメールを投稿してファンに声を届けます。



「どうすればよかったんだろう。
どうしたらこんな目に遭わないで済んだのかな
2年前繋がろうと言われて断らなきゃよかったんでしょうか
他の人と一緒に繋がればこんな目に遭わないで済んだのかな」

当然ながら、誰もが2年前というのが何を意味するのか考えました。ネット掲示板には、2年前の2017年はAKBグループの総選挙で、NGT48のメンバーが大躍進した年だと書き込まれました。全国的にはほとんど無名だったNGT48のメンバーの1人が総選挙で1位になり、2018年には他のNGT48メンバーも10位以内に入る大躍進がありました。

このことを経て、ネット掲示板には「答え合わせできましたー」「これが真相」などと次々に書き込まれ、2年前から躍進したメンバーこそが、ファンと繋がりを持って利益供与を受けた面子だと確信の声が広がりました。ここに来て限りなく黒に近いグレーだと思われていたメンバーは、完全なクロだと認識されます。彼女達がテレビに映るとネットは荒れて、テレビ局に批判が殺到しました。また、メンバーの1人を広告に使ったアパレルメーカーに対して、不買運動が起こりました。そのアパレルメーカーは、1週間足らずで、そのメンバーの起用を中止することになります。

いいね砲の拡大

山口真帆の卒業が発表され、運営への批判はピークに達します。そうした中、山口真帆のいいね砲は、メンバーへの批判を書いたツイートにも広がります。それまでは運営や自身への同情にいいねをつけていましたが、メンバー批判のツイートにもいいねをつけるようになったことで、メンバーに不満を抱いていることが伝わりました。


上記の「2年前」の文脈から、ファンと繋がったクロのメンバーが確定した世論に対して、正解の丸をつけるようなもので、さらに批判が強まりました。メンバーの解雇を求める声と、山口真帆を応援する声は比例して大きくなり、山口真帆の研音移籍が発表されると、祝福の声が一斉に書き込まれました。

まとめ

苦しい中で、なんとか事実を明らかにしたいという気持ちで動いた結果が一連の流れであり、たまたまうまくいったという気もします。一方で、常に効果的な攻撃を行い、最悪の戦況で最大の戦果を上げたようにも見えます。

彼女は多くの時間を沈黙しました。しかし言葉を発すると、それは全て爆弾になり、世間を驚かせました。これほど巧みな戦術が、彼女の無我夢中の偶然なのか、誰かが指南していたのか、それとも本人が考えたのかはわかりません。しかし近年稀に見るネットを効果的に使った戦い方だったと思いますし、見事な戦いっぷりだったと思います。

はっきりしているのは、山口真帆の意思の強さです。この騒動が起こった時に、多くの人が彼女は干されて消えるだろうと思いました。しかし苦しい戦いを続けて、新たなスタートに立ちました。この意思の強さがあれば、今後のさまざまな波も乗り越えていけるんではないかと思いました。


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