バーバリー VS アクアスキュータム /名門コートブランドは何が違うか

梅雨に入りました。日本ではトレンチコートは防寒具になっていますが、イギリスではレインコートに分類されています。もちろん防寒機能もあるのですが、まずレインコートであって、そこに結果として防寒機能も付加されているといった感じです。そこでやや季節外れの気もしますが、梅雨ということでトレンチコートの名門2大ブランドを見ていきたいと思います。


トレンチコート全般に関しては、以前にも書いているので以下の記事もご参考ください。

関連記事:トレンチコートの色は黒を避けた方が無難です

バーバリー

トレンチコートといえば、バーバリーを連想する人も多いでしょう。1835年にイングランド南部のハンプシャー州ベイジングストークで、トーマス・バーバリーによって創業されました。当初はスポーツウェアとしての人気を確立すると、1888年にはレインコート用生地のギャバジンを商標登録します。これは農民が汚れ防止のために、羽織っていた服をヒントに作ったものでした。第一次世界大戦ではバーバリーの防水コートが軍に採用され、これが後のトレンチコートになります。


アクアスキュータム

アクアスキュータムは1851年にジョン・エマリーが、ロンドン西部に創業しました。バーバリー同様にレインコート用の防水生地を開発し、第一次世界大戦で軍に防水コートが採用されます。これがトレンチコートになりました。ヒラリー卿がエベレスト登頂に成功した際のコートに採用されるなど、常に時代の先端に立ちながら発展していきました。


バーバリーの転換期

90年代に入ると古風なレインコートの人気は低迷していましたが、ロックバンドのオアシスが着用するなどして不良アイテム化していきます。バーバリーチェックの帽子やシャツを着た不良が街を徘徊し、バーバリーチェックを着用した人の入場を禁止するところまで出てきました。バーバリーチェックは、反社会性力のアイコンとなったのです。ブランドのイメージは急落し、バーバリーのラグジュアリーなイメージは失墜していました。

※バーバリーチェックの帽子がギャングのアイテムでした。

そんな危機的状況下の2001年に、グッチから移籍してきたクリストファー・ベイリーがクリエイティブデザイナーに就任します。ベイリーはバーバリーの役員達でさえ自社製品を着ていないことに失望し、デザイン面の大改革を行いました。あちこちの会社に供与していたライセンスを買い戻してデザインを集中化し、さらに古くさいと呼ばれていたデザインを大胆に維新します。ベイリーはバーバリーの伝統的な雰囲気を残しつつ、より現代的なスタイルを目指しました。

※クリストファー・ベイリー

クラシカルなコートから、現代の町並みにマッチしたモダンなコートに変貌したバーバリーは、ネット販売の拡充とともに売上を大幅に伸ばしていきます。当時ラグジュアリーファッション業界はネットやSNSを敬遠していましたが、ベイリーはこれらを積極的に採用したのです。さらに工場を中国に移すことで、利益も大幅に向上させました。バーバリーはベイリーの手腕により、華々しく復活を遂げました。


アクアスキュータムの転換期

1990年に日本企業のレナウンが買収しました。バブルに湧くジャパンマネーの攻勢だったのですが、バーバリー同様に90年代には急速に人気に陰りが出てきます。レナウンはさまざまな手を打ちますが、それは迷走に見えました。未確認の情報なので名前を出しては書けませんが、レナウンの一部によるブランドの私物化も噂になっていました。イギリスの文化もトレンチコートの伝統も知らない日本企業が、バブル期に浮かれて購入したブランドを世界的にアピールできなかったのは当然と言えるでしょう。売上が低迷したまま2009年に全株式をイギリス企業に売却しています。



日本ではレナウンのライセンス製造は続きますが、株式を手にした英国企業も決定打を打てずにアクアスキュータムは経営破綻し、レナウンの親会社である中国企業に吸収されて今日に至ります。英国王室と深い繋がりがあったアクアスキュータムは、迷走を繰り返してブランドイメージを大きく傷つけることになりました。


両ブランドの特徴

現在はどちらもモダンさを前面に出したデザインで、特にバーバーリは小洒落た街着といった雰囲気です。アクアスキュータムはややクラシカルなイメージが残りますが、以前ほどカッチリした雰囲気から少しくだけた感じになっています。

※現行のバーバリー

80年代までの両ブランドは、同じトレンチコートであっても明確に雰囲気が違いました。ストレート型とも言える寸胴なシェイプを、ベルトでぎゅっと結んでウエストを強調するバーバリーは軍服としての粗野な雰囲気がありました。濡れても汚れても絵になるタフさで、まさに兵士などの男らしさが漂うデザインです。裾が泥だらけになっても、それが格好よく見えるのがバーバリーでした。そのためジーンズにセーターの上からでも、バーバリーは違和感なく羽織ることができました。

※バーバリーのライナーつきモデル。恐らく80年代のもの。

一方のアクアスキュータムはAラインと呼ばれる裾が広がるシェイプで、同じく軍服としての粗野な雰囲気の中にエレガントさがありました。平たく言うと偉そうな雰囲気で、軍服の中でも士官などの上位者の空気をまとっていました。このAラインは雨の際に足下が濡れるのを防ぐ優れたデザインで、多くの愛用者を生みました。威厳のあるアクアスキュータムは、スーツに羽織るのよく似合います。

※アクアスキュータム。こちらも恐らく80年代製。

両ブランドを見比べると、アクアスキュータムの裾が広がるAラインがよくわかると思いますし、バーバリーの寸胴型のラインがよくわかります。このスタイルの違いが、両ブランドの特徴をよく表していました。

この両者の特徴を見てから以下の写真を見ると、右のピート・タウンゼントが着ているトレンチコートはバーバリーのように見えます。ボックス型のシルエットですし、ガンフラップが大きく、当時のバーバリーの特徴を備えています。ですからこのコートはずっとバーバリーだと思っていました。


ところが日本のエディフィスがアクアスキュータムの協力を得て、アクアスキュータムのピート・タウンゼントモデルを発売したので、一部から疑問の声が挙がりました。しかしアクアスキュータムが協力しているのですから、まさかバーバリーということはないように思います。真相はよくわかりません。そして、そもそもアクアスキュータムを購入する層が、ロックスターが着たモデルということで購入するでしょうか。アクアスキュータムのこういう販売戦略には、大きな疑問を感じてしまいます。

失ったもの

企業として売れ続けるのは至上命題で、バーバリーが大きく変貌したのは必然だと思います。残念なのはトレンチコートのディテールは長い歴史の中で、実用性を考えて進化してきた歴史の積み重ねです。クリストファー・ベイリーの変革を否定するつもりはありませんが、それら積み重ねた歴史が消えてしまったのは残念というほかありません。

第一次世界大戦の塹壕(トレンチ)で生まれたトレンチコートは、実用性を第一に考えた機能美を備えたコートでした。しかし現在のトレンチコートは、バーバリーもアクアスキュータムもモダンさの中で機能美が消失していきました。足下が濡れない為の裾丈は見栄えのために短くカットされ、風よけのための大きな襟も見栄えのために小さくなりました。ジャケットの上からスッと着られるための袖も、見栄えのために細く削られています。

※バーバリーの現行モデル。

まとめ

中国製というのをあれこれ言う人もいますが、値段に見合った品質だと思うならば問題ないと思います。「○○のラインはイギリス製だから、そっちを買え」なんて意見もたまに聞きますが、現在のブランド事情に少しでも詳しければ製造国が何の意味もないことは周知の事実です。

現行モデルではバーバリーの方が都会的で、アクアスキュータムがややクラシカルです。どちらもかなり高額なので、試着を繰り返して決めるのが良いかと思います。個人的には現行モデルはパッとしないので、古着屋で古いモデルを探す方が好きなのですが、これもまた嗜好によります。どちらのブランドが良いとかではなく、どんな服に合わせてどこに着ていくかを念頭に、自分に合ったものを気が済むまで探し続けるのが良いと思います。

関連記事:冬に備えてコートを見直す /コートは何を買えばいいのか



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