「女子ーズ」に見る福田雄一の特色

ここ数年、福田雄一の評価が急上昇しています。実写映画「銀魂」は大ヒットし、不評を買うことが多い漫画の実写化の中では異例の高評価を得ています。しかし福田雄一の映画やドラマを苦手にする人も多く、全く面白くないと感じる人も少なくありません。



そこで今回は福田雄一が監督と脚本をつとめた「女子ーズ」を取り上げてみたいと思います。この映画には福田雄一の人気の秘訣と、福田雄一が苦手だという人が嫌う要素が同じくらい詰め込まれているからです。本作は人気女優5人を集めた戦隊もので、福田雄一が得意とするユルユルのコメディとなっています。




映画のあらすじ

地球に襲来する怪人たちと戦っていた戦隊ヒーローが任期満了で解散したため、新たに戦隊ヒーローとして5人の女性が集められます。司令官のチャールズによって名字に色が入っているというだけの理由で選ばれた5人は「女子ーズ」と名付けられますが、彼女たちは恋愛、仕事、美容、野暮用などでなかなか全員が集まりません。



怪人には集合するまで待ってもらったり、人数が足りないまま戦ったりしますが、ついにはリーダーの赤木直子(桐谷美玲)も、会社の大事なプレゼンを優先してしまいます。

制作の経緯

福田雄一が奥さんの協調性のなさに呆れ、こういった女性たちが戦隊ヒーローになったらどうなるんだろう?と思ったのがきっかけだそうです。

俳優の面白さを抽出する巧みさ

人気女優ばかりを集めた映画ですが、それぞれの味付けがよくできています。NHKの連ドラで人気急騰の高畑充希を、終始冷めたツッコミ役に配置し、有村架純を天然の不思議ちゃんにするなど、これまでとはかなり異なる配役にしつつ面白いキャラにしています。特に高畑充希の軽蔑するような冷たい目は、身もふたもないツッコミにとてもマッチしていました。藤井美菜のギャルも意外性がありましたし、山本美月のお嬢様役は意外ではなかったですが、かなりのポンコツぶりを発揮していました。

※冷めた目つきでツッコむ高畑と、不思議ちゃんの有村

福田雄一には独自の審美眼ともいえる、俳優の面白さを見出す目があるようです。それが多くの作品で俳優の新たな一面を見せることにつながり、福田作品の人気の秘訣になっているように思います。

評価が分かれるポイント

とにかくテンポが悪い映画です。それも意図的にテンポを悪くしています。高畑充希が通行人をカウントするバイトをしているところに桐谷美玲がやってくる下りなど、なぜ通行人をこんなに長々と撮影するのかと思うほど引っ張りますし、その高畑と桐谷が他のメンバーに元に向かうシークエンスも遠いところから延々と走ってくるところを映し続けています。ユルい雰囲気を出すために、わざとテンポを悪くしているのです。見ていてこれを苦痛に感じる人もいるでしょう。



佐藤二郎は相変わらずのアドリブなのか台本なのかわからない演技をしますが、冒頭の佐藤と女子ーズのやりとりは遅々として先に進まず、このやり取りを面白いと思う人とイライラする人に大きく分かれています。そして肝心のギャグですが、単体で見るとかなり笑えます。しかし最初から最後までギャグの温度が同じなので、後半は飽きてしまいます。テンポの悪さもあって、これを気にせず笑って見られるか飽きてしまうかで、評価が真っ二つに分かれるのだと思います。

※例によってダラダラと面白トークを展開する佐藤二郎

続編を作りたい

主演の5人は、続編の話があれば絶対に出たいと言っています。桐谷美玲は「テレ東の深夜ドラマで」と言っていましたが、これは正しいと思います。この映画はギャグの温度が同じなので飽きてくると書きましたが、3本から4本の30分ドラマで見ていれば、もっと楽しめたと思います。そして同じ温度のギャグは、変わらぬ安定の面白さという評価につながったでしょう。同じく福田雄一のドラマ「勇者ヨシヒコ」が、毎回同じようなテンションで同じような笑いを提供し続けましたが、あれを映画にするときつかったと思います。


そして続編に出たいと5人が言うように、この映画は見ている私たちよりも作り手が楽しんでいる雰囲気があります。「撮影は楽しかったんだろうな」と思う場面が多々あり、見ているこちらも楽しい気分になってしまいます。これは福田雄一の演出の特徴でもあり、愛される部分でもあります。

まとめ

福田雄一はコメディメーカーとして手腕を発揮し、それが次々と成功しています。どのメイキングでも撮影中に最も大きな声で笑っているのは福田雄一で、役者を安心させると同時に撮影を楽しんでいるのが伝わります。福田雄一によると、彼の作品によく登場するムロツヨシ佐藤二郎安田顕は抑えの切り札らしく、他の役者が面白くなくても彼らがいれば面白くできるので出演を依頼しているそうです。これら常連の役者がテンションを上げ、それに引っ張られるようにコメディとは無縁の役者たちも不思議な面白さを発揮する構図が出来上がっています。

※意外と巨体の福田雄一

このユルい感じを好む人にはたまらない面白さであり、遅々として話が進まないテンポの悪さを気にする人にはつまらない映画になってしまいます。こうして見る人を選ぶ作品を連発している福田雄一ですが、これが現在はとても高い人気を得ています。肩に力の入りようがないユルユルの物語を、世の中が求めているのかもしれません。



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